不思議な数字
ある日、とある品行方正な青年の視界に奇妙な数字が表れた。
それは人々の頭の上に浮いており、その数字は様々で基本的に老人であるほど短く、子供であるほど長い。
(これは一体……?)
男は友人や恋人に声をかけてみたが誰もそのような数字は見えないという。
どうやら男だけに見えているらしい。
(これは何だろう?)
数字は男の上にも存在しており、その数は自分と同年代の者達と比べると圧倒的に少ない。
答えが出ないまま幾日か過ごしている内に男は一つの仮説に辿り着く。
これはもしや人間の寿命ではないだろうか?
そうであるならば老人ほど短く、子供であるほど長いのに説明がつく。
面会者を装い幾つかの病院へ男は向かい患者たちの頭上に浮かぶ数字を確認して、自らの考えが正しいと確信した。
答えを得たことで悩みが解決した一方、別の大きく苦しい悩みが男に浮かんだ。
(ならば俺の寿命は……)
そう。
何が起こるのかは分からないが、男の寿命は残り半年ほどだったのだ。
(ちくしょう。なんで……!!)
寿命を知った男は自暴自棄となり一つの結論に至った。
(なら、もう好きなことだけをしてやる!)
その日から男は暴言と暴力を気ままに振るい、犯罪さえも躊躇なく行うようになった。
良心という枷を外した快感は思いの他に大きく、寿命という結末がむしろ男の平穏に変わっていった。
多くの人から物を奪い、傷つけ、時には殺しさえした男は亡くなる直前であっても後悔を一つもしなかった。
(心地良かった。本当に)
大量の麻薬で快楽を得ながら寿命を迎える男は心底喜びながら生を終えた。
そして。
「アホか、お前」
不意に男は目を覚ました。
彼に声をかけていたのは心底呆れた表情をした天使だった。
「あんまりにも品行方正だったから、悔いがないよう過ごしてもらうため寿命を見せてやったのに」
何が起こっているのか分からないはずなのに、男の脳は過程を飛ばして答えに辿り着いていた。
「地獄行」
直後に成された答え合わせ。
男は必死に弁明しようと口を開こうとしたが、瞬きさえする間もなく深く深くどこか遠くへ落ちていった。