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ハルくんは逃げ出したい。~男子校の姫になったらストーカー護衛からの溺愛が重すぎる!~  作者: 夜薙 実寿


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第83話 噂の実態

「ところで、つかぬことをお聞きしますが、東雲様に関する噂は、どこまでが事実なのでしょうか? 何でも、前の学校で暴力事件を起こして退学になりかけたとか」

「み、御影さんっ」

 

 あまりの直球にギョッとするオレに反して、東雲さんは至極落ち着いた様子で答えた。


「事実だ」


 ――事実、なんだ。

 少なからずショックを受けてしまった自分に、内心で首を振る。

 

「でも、何か理由(わけ)があるんですよね?」


 この人が、何の理由もなく人に暴力を振るうとは思えない。

 東雲さんは視線を逸らして黙り込んだ。何か、言いたくない事情でもあるのだろうか。


「東雲さん……」

「……母親を馬鹿にされて、カッとなって殴った。それだけだ。あんたに庇われるような御大層な理由なんてない」

「お母さん?」

「うちの母親は水商売でな……それで」

「それは怒って当然ですよ! 身内を馬鹿にされたら、誰だって!」

「かといって、暴力に訴えていい訳ではありませんね」


 ずばり、御影さん。


「それは……そうだけど」

「もう一つ、四季折の前理事長の孫というのは? コネ入学だとか」

「それも、大方間違ってはいない。孫じゃなくて隠し子だがな」

「隠し子?」

「ああ。うちの母親は昔、金持ちの愛人だったらしくてな。それが、ここの前理事長だったらしいな。最近亡くなったとかで、遺産の話を持ち掛けられて初めて知った。……母親とも随分歳が離れてたから、孫と思われても仕方ないな」

「そう、なんだ……」


 思いの外、複雑な話に言葉が出ない。すると、御影さんが締め括った。


「では、概ね噂は事実であると。やはり貴方が陽様のご友人に相応しいかは(はなは)だ疑問ですね」

「御影さん!?」


 何でそんなことを言うんだ!?

 

「……そうだな。あんたの言う通りだ」


 東雲さんまで……。

 愕然として見つめると、東雲さんはどこか自嘲気味に苦笑を浮かべた。


「日向も俺にあまり関わらない方がいい。あんたまで変な噂を立てられかねない。現に他の奴らは、あんたが俺に何か弱みでも握られてるんじゃないかって思ってるみたいだしな」

「そんな……っ何で?」

「同級生なのに俺だけ〝さん〟付けで敬語だしな。そんで、やけに俺に肩入れしてるって、周りからは怪しく見えるんだろ」

「それは……だって」


 バイト先では東雲さんは一年歳上ということになっていたから……本当は同い年だと知ってはいたけど。

 

「東雲様もこう仰っていますし、あまり陽様がお心を砕かれることもないのでは? 陽様がお優しいのは存じておりますが、東雲様もご自分の問題はご自分で解決なさるでしょう」


 さらりと笑顔で言う御影さん。

 だけど、オレは……。

  

「でも……放っとけないよ。東雲さんは、大切な友達だから」


 二人が、表情を変えた。


「誰が何と言おうと俺は東雲さんの味方だし、相応しいとか相応しくないとかそんなのどうだっていいし、誰と一緒に居るかは、俺が自分で決めます!」


 そうだ、友達は誰かに指図されてなるものじゃないし、増してや他者に忠告されたからって距離を置くものでもない。

 拳を固めて力説してから、ハッとして語気を弱めた。


「……勿論、東雲さんが嫌じゃなければ、ですけど」

「日向……」

 

 東雲さんは唖然と零した後、ふいと視線を外して、

 

「……別に、嫌とかはない。あんたの好きにすればいい」

「東雲さん!」

「ただし」

 

 ホッと頬を弛めたオレに、彼は付け加えた。

 

「〝さん〟付けと敬語はやめろ。やっぱ同い年でそれは不自然だろ」

「そ、そっか。分かった、そうする」


 正味、ずっと敬語だったから今更常態に戻すのも違和感があるといえばあるのだが……周囲に誤解される要素は極力取り除いておきたいしな。

 

「それじゃあ……東雲?」


 早速、言い慣れない呼び捨てに挑戦してみた。窺うように首を傾げて見上げると、「ぐっ」と呻き声を上げ、東雲さん……改め、東雲が突如手で顔を覆って背を折った。


「しっ東雲さん!? じゃなくて、その……だ、大丈夫ですか!? どこか苦しいんですか!?」


 ああ、焦って敬語になってしまった。東雲さ……東雲は手の隙間から吐息と共に、くたびれたように漏らした。


「大丈夫だ……ちょっと唾が息穴に入って()せただけだ」

「そ、そっか……あ、水要る?」

「ん……自分で」


 彼の水筒に伸ばしたオレの手を制して、彼は宣言通り自分で中身を汲んで飲んだ。


「ごめん……急に呼んだから、ビックリさせちゃったみたいで」

「いや……」


 ごほん、と再びの咳払い。オレと東雲が同時に御影さんに振り向いた。

 彼は変わらぬ貼り付けたような笑みで告げた。


「そろそろお食事を始めないと、昼休みが終わってしまいますよ」

「あ、うん……」


 オレは御影さんの態度が少し気にはなったものの、その場で言及することなく、開封直後に放置されたままだった手元のサンドイッチに改めて口を付けた。

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