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第64話 譲れないもの

 御影さんが……ルミちゃんとデート!?


「な、何で……」

「だってルミ、その人のこと気に入ったみたいだし」

「陽葵!」


 陽葵の言葉に、ルミちゃんが感動したように目を輝かせる。いや、待って……待ってくれ。


「お兄ぃは秘密が守れて、ルミは気になる人とデート出来て、WinWinでしょ? 良いアイディアだと思うけど」

「だ、ダメっ!」


 気付いたら、叫んでいた。

  

「この人は、オレのっ……だから!」

「陽様……」


 名を呼ばれ、我に返る。無意識に掴んでいた御影さんの服の裾から、慌てて手を離した。

 うわ、オレ……何言ってんだ!?

 自分で自分の言動が信じられない。――こんな、子供じみた独占欲丸出しのセリフ。


「え、お兄ぃ……」


 陽葵の、戸惑ったような声。

 うわぁあ、どうしよう!?

 

「オレの、護衛人だから……その」


 ごにょごにょと言い訳を付け足して、熱い顔を伏せる。

 焦り、混乱するオレを庇うように、ふと御影さんがオレの前に出た。喋れなくなってしまったオレに代わり、宣言する。


「申し訳ございません。お気持ちはとても嬉しいのですが、私は陽様の護衛人ですので、陽様のお傍を離れるつもりはありません。陽様のご命令でしたら従う所存でしたが、陽様もお望みでないようなので、その件はご容赦くださいませ」

 

 穏やかに、それでいて決然とした口調。

 

「御影さん……」

 

 やがて、陽葵が口を開いた。


「そう……分かった」

「陽葵!?」抗議の声を上げたのは、ルミちゃんだ。

「しょうがないでしょ、振られたんだから、諦めな」

「えーん! ひどーい!」


 え、いいの?

 思ったよりもあっさりと引き下がった妹に、虚を衝かれたような思いで目をやった。

 オレと同じ茶色の瞳が、平静に見つめ返してくる。

 

「あたしがちょうだいって言えば何でもくれたお兄ぃが、そう言うんだもん。お兄ぃにも譲れないものが出来たってことでしょ。それに免じて、許してあげる」


 わざと尊大な言い方をして、笑う陽葵。


「陽葵……」

「その代わり、今度良いもの奢ってよ」

「も、勿論! 何なら、今からでも!」

「今日は遠慮しとく。屋台の食べ物じゃ安いし」

「え」

「それに、何かお邪魔みたいだしね?」

「!」


 御影さんの方を見て揶揄するように目を細める妹に、ドキリとした。

 オレの恋心(気持ち)、バレてる!?

 冷や汗を掻くオレを他所に、陽葵は早々に切り替えて友達に振り返った。

 

「てことだから、行くよ、ルミ」

「え~、お兄さん達と一緒に回らないのぉ?」

「冗談。家族と一緒なんて、小学生じゃあるまいし」

「ハッ、そうだ、中学生がこんな遅い時間に出歩いてたら危ない! 増してや、ここ男子校だし!」

「大丈夫だよ、もう中三だし。女の人だっていっぱい来てるし」

「でも、やっぱり一緒に居た方が……」

「要らないって。お兄ぃと居ると変に目立ちそうだし」

「でも……じゃあ、あんまり長居するなよ!」

「はいはい、お兄ぃ心配性すぎ。ウザ」

「ウザ!?」


 ショックを受けるオレに、陽葵は呆れたように嘆息してから、「じゃあ、また」と暇を告げる。


「あ~ん、御影さん、また会ってくださいね〜!」

「ほら、行くよ」

 

 名残惜しそうに御影さんに手を振るルミちゃんを半ば引きずる形で、陽葵は屋台の並ぶ遊歩道に戻っていった。


「ふぅ」

 

 二人が去って急に静かになった空間に、オレはそっと吐息を落とした。


「何だかんだ思いやりのある優しい方でしたね。さすが陽様の妹御です」

「どうなるかとハラハラしましたけどね」


 御影さんの言葉に苦笑を返し、改めて事なきを得たことに安堵した。


「御影さんのことも巻き込んじゃって、すみません」

「いえいえ、私は……」


 そこで、御影さんは急に口元を押さえて蹲った。


「御影さん!?」


 ぶるぶると小刻みに身体を震わせる彼に、泡を食うオレ。

 一体どうした!?


「ど、どこか具合でも」


 すると、御影さんは――。

 

「いえ、その……先程の陽様があまりにもお可愛らしくて、必死で平常心を保っていたのですが、もう……っ」

「は、はぁ!?」


 一気に顔に熱が上がった。

 か、可愛!? 何言ってるんだ、この人!?

 見ると、御影さんも顔を赤らめている。ぎゅっと瞑った瞳。狂おしげに顰められた眉。昂った吐息。

 覆った手からはみ出した、隠そうとして隠しきれていない、普段見せないような乱れた表情。――鼓動が跳ねる。


「反則ですよ、あんなの……まさか、陽様の方から私に執着を見せてくださるだなんて……っはぁ、可愛い……」

「な、な……っ」


 は、恥ずかしい……っ!

 こっちこそ、そんな反応、反則だろ!? どんな態度で受け止めればいいんだよ!?


「あああれは、その……っだって!」


 ああ、もう自分でも何言ってるのか分からない!

 慌てふためくオレに、御影さんは落ち着きを取り戻すように深呼吸して、フォローを入れた。

 

「申し訳ございません。取り乱してしまい……お見苦しいところをお見せしました」

「い、いえ……こちらこそ」


 互いに目が合わせられない。

 ふわふわした、なんとも居た堪れない空気を掻き混ぜるべく、とにかく口を開く。


「え、えぇと、そうだ! 中庭! 集合でしたよね!? 棗先輩達! 待ってるかもしれませんし、行きましょうか!?」

「そうですね……一度合流した時に、彼らの分のお食事はお渡ししておきましたから、先にお召し上がりになっているかもしれません。私共も参りましょう」


 しかし、待ち合わせ場所に行ってみると、そこに先輩達の姿は無かった。


「あ、あれ!? おかしいな、ちょっと電話してみますね」


 鞄代わりの巾着からスマホを取りだして、棗先輩の番号に掛ける。通話はすぐに繋がった。


『はいはーい、ハルくん? 妹さんのことは大丈夫だった?』

「棗先輩! そっちは何とかなりましたけど、今どこに居るんですか?」

『あ、何とかなったんだ、良かったね。今、妹さんと一緒?』

「いえ、妹達とは別れましたけど……」

『そっか。なら、丁度いいからこのまま別行動にしよう。ボクとミドリはそれぞれ用事が出来て帰ったってことにして、ハルくんは護衛人と二人で夏祭りデート楽しみなよ』

「えぇっ!?」

『二人きりにしてあげるって約束だったでしょ? いーい? ボクが身を引いてあげたからには、いつまでもグズグズしてたら許さないからね! さっさと告白の一つでもかまして、とっととくっついちゃいなよ!』

「そ、そんな……」

『じゃあね! 健闘を祈るよ!』


 プツリ、強引に通話を切られた。

 え、ええ……。


「陽様、如何なさいましたか?」


 御影さんが心配そうに訊いてくる。振り向いて、彼の端正な顔を見ると、心が一層乱された。

 今しがたの棗先輩の言葉が、ぐるぐると頭の中を駆け巡る。

 御影さんと二人きりで、夏祭りデート!? で、告白!?


 ――マジ?

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