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第62話 思いやりと裏目

 その後、道なりに進んでゲーム系の屋台を見つけると、オレ達は片っ端から挑んだ。


「いやぁ、遊んだ遊んだ! 大漁!」


 顔をつやつやさせて、ご満悦の棗先輩。傍らの巌隆寺さんの手には、戦利品がどっさりと抱えられていた。言うまでもなく、棗先輩が(もしくは先輩の代わりに巌隆寺さんが)取ったものだ。


「輪投げに、スーパーボールすくいに、千本つりに、型抜きに……ゲーム系の屋台は大体やりましたよね」


 ()く言うオレの手にも、彼程ではないにせよ、ヨーヨーやら金魚やらがいくつもぶら下がっている。大体は最低保証分(取れなくても一個だけくれたりする)だけだが。


「陽様、やはり私がお持ち致しますよ」


 横から、御影さんがオレにお伺いを立てた。またも急に近付いた距離にドキリとして、次いで泳がせた視線が棗先輩と合い、ハッとする。

 

「い、いいって! 大丈夫!」

「ですが……」

「そんなに重くないから!」


 慌てて辞退して、微妙に距離を取った。しょんぼりと幻の犬耳を垂らす御影さんに、若干心が痛む。

 ……でも、棗先輩の前で御影さんに甘えるのは、やっぱ良くないよな。

 

「で、次はどうするの? そろそろ、お待ちかねの食事?」


 呆れたように、ミドリさん。彼の手には工芸品の木彫りの鳥細工の入った袋が一つだけ。ゲームの戦利品ではなく、普通に買ったものだ。不確定なものにお金を落とさない主義の彼は、ゲーム系の屋台には終始不参加見学だった。

 ……もしかしたら、退屈だったんじゃないか。オレと棗先輩に付き合わせてしまって、何だか申し訳ない。

 

「そうしよっか。ミドリさん、何か食べたいものある?」

「誰かさんが焼きそばとたこ焼きとか言ってなかった?」

「言ったけど、それでいいの?」

「別にいいよ」

 

 せめて食事のメニューくらいはミドリさんの希望に沿おうと思ったが、またも気を遣わせてしまったようだ。

 ともかく、それらの屋台はどちらも道中に見つけていた為、一旦引き返すことにする。まずは、焼きそば屋から。


「ありゃ、めっちゃ混んでる」


 さっき見た時はそうでもなかったのに、いつの間にか通路を塞ぐ勢いで大行列が出来てしまっていた。


「丁度お腹の空く時間帯だからね。考えることは皆一緒みたいだね」


 やれやれと嘆息するミドリさん。


「どうしよう、先にたこ焼き屋の方、行く?」


 と、オレが困っていると、

 

「僭越ながら、ここは私が並びましょう。皆様は、先にお進みくださいませ」


 御影さんが提案した。


「え、でも……」

「陽様をお待たせする訳には参りません。お手も塞がっていらっしゃいますし、ここは私にお任せくださいませ。……そうですね、中庭のベンチの辺りでお待ち合わせは如何(いかが)でしょう。私も皆様の分を確保したら、伺います」


 有無を言わさぬ調子に、流された。


「分かった。気を付けて」

「ご心配なく。……巌隆寺さん、陽様のことをよろしくお願い致します」


 最後に目配せをし、巌隆寺さんと頷き合うと、御影さんは行列の最後尾へと向かった。


「それじゃあ、ボク達も行こっか」

「はい」

 

 先輩の音頭に従い、やや後ろ髪の引かれる思いで焼きそば屋台を後にする。


「ねぇ、ハルくん」

「はい?」


 棗先輩が話を切り出したのは、歩き出してから暫く経った頃だった。足を動かしたままそちらを振り向くと、彼は、


「何かボクに遠慮してるでしょ」

「ふぇっ!?」


 ずばり単刀直入な問いに、思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。


「ちらちらボクの顔を見てアイツと距離を置こうとしてるし、分かりやすすぎるよ、ハルくん」

「それは……その」


 しどろもどろになるオレ。棗先輩はふぅ、と深く息を吐くと、困ったように微笑(わら)った。


「気を遣ってくれるのはありがたいけど、そうやって変に意識される方がかえってキツいものがあるんだよね。全く気にしないと言えば嘘になるけど、もっと普通にしててよ」


 その力ない笑みと言葉に、胸の奥がぎゅっとなる。

  

「……すみません」


 それしか言えない。

 情けない。オレの態度で、かえって先輩を傷付けてしまっていたなんて。

 萎れるオレを励ます為か、先輩は悪戯っぽく続けた。


「でも、そうだね。折角の夜祭なのに、僕達も一緒じゃあ存分にイチャつくことも出来ないか。後々、折を見てはぐれた振りでもして二人きりにしてあげるから、とっとと告白の一つでもぶちかまして、さっさとくっついちゃいなよ。そうしたら、ボクも諦めがつくしさ」

「は、はぁ……」

「え、さっきから、何の話? もしかして棗 夕莉、遂に日向君に振られた?」


 黙って聞いていたミドリさんが、ここで割って入った。その口元は愉快げにニタニタと吊り上がっている。

  

「うるさいな! ミドリには関係ないよ!」

「へーぇ、そうなんだ」

「喜ぶなよ! 腹黒ミドリ!」

「棗 夕莉には言われたくない」


 面前で交わされる言い合いに、相変わらずオロオロしている巌隆寺さん。オレは、そっと苦笑を一つ。


 ――ありがとう、先輩。

 

 そして、ごめんと胸中で呟いて、呑み込んだ。

 その時だった。


「おっ、姫! お色直しですか!?」


 ふと、そんな声が聞こえてきた。

 お色直し? 何のことだ?

 首を傾げつつ、声の出処を確認するも、この人の多さでなかなか特定出来ない。

 どこから話しかけてきたんだ? と思う間にも、同じ声が続けて言う。

 

「浴衣も大変眼福でしたが、そういう私服系ファッションも良いですね! カジュアルな感じがいつもの清楚な雰囲気ともまた違って、何とも新鮮というか……素敵です!」


 私服? 何を言ってるんだ?

 

「はぁ? 何? ナンパ?」


 怪訝に思っていると、不意に聞き覚えのある声がして、瞬間、思考停止しした。

 この、声は――。


「初対面の相手に〝いつも〟って何? ストーカー? キモイんだけど」

「え、ひ、姫?」

「てか、ナンパなら他所でやってよ。そういうの間に合ってるし」

 

「ハルくん、どうしたの?」


 突然固まったオレを不審に思って、棗先輩が訊ねた。

 それには答えられず、オレは対岸の人波の間隙に目を奪われていた。

 視線の先に、見つけてしまった、その後ろ姿は――。


「……ハル?」


 棗先輩の呼び掛け、その名に反応して振り返る、黒いキャップを被ったベージュのストレートロングの女の子。

 今流行りの韓国風ファッションというやつだろうか。英字がプリントされたオーバーサイズの白いTシャツに、タイトな青いデニムのミニスカート。黒いニーソックスに、白紐の青いスニーカー。

 そして、女装したオレにそっくりな……ただし、オレよりも少し凛とクールな印象を纏ったローティーンのその子は――。


「え、お()ぃ?」

「……陽葵(ひまり)


 ――オレの妹だった。

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