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第61話 エンジョイ!屋台!

 さて、彼らと別れたオレ達は、改めて屋台を巡ることにした。


「やっぱり、たこ焼きと焼きそばですよね!」

 

 どれから行くのか、オレの二度目の主張に、棗先輩は今度は否を唱えた。

 

「いや、そんなガッツリ主食行くのは、ちょっと早くない?」

「そうですか? じゃあ、かき氷とかリンゴ飴とか?」

「そんな色々食べたら太るじゃん。まずは、何かゲーム系やろうよ」

「ゲーム系……ヨーヨー釣りとか金魚すくいとかですか?」

「どっちも邪魔になるし、要らない……あ、射的あんじゃん! あれやろうよ!」


 棗先輩が指差す先、ずらりと雛壇上に景品が並べられた、オーソドックスな射的屋台があった。コルク銃で離れた位置から直接景品を狙うタイプのやつだ。


「お、レトロなゲーム機とかあんじゃん!」

「卓上ミニ加湿器? 結構景品豪華ですね。……成程、その辺の目玉商品はリサイクル品なのか」

「僕はいいや。どうせ当たらないし。やるなら見てるよ」


 ミドリさんが辞退したので、オレと棗先輩の二人で挑戦することになった。

 まずは、先輩からだ。


「ふふん。ゾンビゲームで鍛えた射撃の腕前、見せてやるよ」


 先輩は台から小さな体で精一杯片腕を伸ばして、片目で照準を合わせながら、実に真剣な表情で引き金を引いた。

 タンッと軽い音がして、弾は明後日の方向に飛んでいった。


「あっ……意外と難しいな」


 一プレイ五百円で、五弾だ。すぐに次弾を装填し、再び狙いを定める。

 タンッ、タンッ、タンッ……撃てども撃てども、当たらない。


「何コレ! 弾がおかしいんじゃないの!?」

「何、弾のせいにしてるの? 自分が下手くそなだけでしょ。ゾンビゲームで鍛えた腕前とやらはどうしたの?」

「ミドリさ……っ」

「はぁ!? だったら、お前がやってみろよ!」

「僕はやらないよ。金の無駄遣いだ」

「やらない奴が偉そうに言うなよ!」

「ど、どうどう! 二人とも!」


 呉越同舟パーティはすぐに喧嘩になってしまう。何とか二人を宥めて離したところで、今度はオレの番となった。

 実は射的は初めてなので、緊張する。見様見真似で弾を込め、とりあえず狙いやすそうな下段のお菓子の箱をターゲットにする。

 タンッ……弾は何も無い場所に当たって跳ね返った。


「本当だ、結構難しい……」

「でしょ!?」

「でも陽様、初めてでちゃんと壇まで届いているのは素晴らしいですよ! さすがです!」


 御影さんはオレに甘い。

 次弾は、僅かに箱を掠めた。


「おっ、惜しい」


 棗先輩が興奮気味に言った。よし、次こそ当てるぞ!

 ……意気込んだら、今度は見当違いの方向へ飛んでいった。


「ああ……」

「陽様、力が入り過ぎていらっしゃいますね。撃つ寸前に照準がブレているようです。片手で身を乗り出すように撃つ戦法は確かに的までの飛距離は縮まりますが、安定性に欠けますので、いっそ両手で構えた方が良いかもしれません」

「両手で?」

「ええ、少々失礼致します」


 不意に、御影さんが近付いた。息遣いを感じる距離。呼吸を止めて固まるオレの腕に、白い手袋の指先が触れた。途端、痺れるような感覚が腕から全身を伝う。

 優しく、丁寧に。壊れ物を扱うような手付きで、御影さんはオレの手を動かして銃を構えさせた。


「このように、肩に乗せる感じで……」


 耳元で囁く甘い次低音(テノール)の声。ぞくりとした衝動が駆け上がり、思わず目をぎゅっと瞑った。


 うわ……うわ、何だコレ。さっきまでよりも、俄然緊張する。

 指先が震える。心臓がうるさいくらいに跳ね上がる。こんなに動揺していると、気付かれてしまわないか。――オレが、御影さんを意識してしまっていること。

 

 そこまで考えて、ハッとした。ふと、自分が置かれた状況を思い出す。

 目を開いて周囲を見ると、棗先輩と目が合った。

 

 ――先輩が、見ている。


「み、御影さん、もういいですから! ありがとうございます!」

「畏まりました。失礼致しました」


 早口で促すと、御影さんは少し申し訳なさそうに身を離した。

 遠ざかる体温に、つい名残惜しさを感じてしまう。同時に、罪悪感を覚えた。


 オレのことを好きだと言ってくれた棗先輩。その想いに応えられないと断ったばかりなのに、こんな風に先輩の目の前で御影さんと密着して浮かれた姿を見せるだなんて、無神経にも程があるだろう。

 

 ――危ない。気を付けなきゃ。


 気持ちを切り替えて、残り二発。最初は動揺が残っていた為外したが、続く最後の弾は御影さんから教わった構えが良かったようで、見事景品に当てることが出来た。


「やったね、ハルくん!」


 棗先輩は手を叩いて喜んでくれた。それがまた、何とも胸が痛い。気まずい笑顔を浮かべるオレに気付いてか気付かないでか、彼ははしゃいだように言う。


「ボクももう一回やる! 今度こそ、ゲーム機当ててみせる!」

「え、まだやんの……?」


 呆れるミドリさんを他所に、熱の入った棗先輩は、宣言通りゲーム機をGETするまで何度もチャレンジを続けた。

 最終的には護衛人(巌隆寺さん)召喚で、当初の目的の〝自分で当てる〟を捻じ曲げてまで半ば強引にミッションコンプリートしたのだった。

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