87. 僧侶の立場
ギルドの受付で俺は放心状態で突っ立っていた。
何が起こったのか・・・視線が前後から突き刺さって来て頭が真っ白になっていた!
「コウさん結婚していたの?・・・それに子供までいるなんて!」
エリスの驚きの言葉に我に返ったが、当事者の俺も驚いてタカを見るが、彼女は笑顔のままだ!
「エリスさんとおしゃいましたか~私の職業は僧侶で同じパーティーで夫を支えていきますので今後もよろしくお願いします。・・・娘と言うのは嘘で私の妹です。御免なさいね~」
まだエリスは驚いたまま固まっていたが、彼女は俺の手を取り皆がいる後方のテーブル席に移動をした。
皆がいるテーブル席に着くと、今度はレイナとココが口を尖らせて叫びそうな表情をみせた。
そんな2人の姿を見て、彼女は人差し指を口に当てて笑顔で話す。
「周りに聞こえるので小さな声で話しますね~」
平然と落ち着いている彼女の行動に理由があると判断した2人は、口を閉じて静かに席に着いた。
全員が飲み物を口にして、暫らく沈黙の時間が過ぎた。
「さっきの言葉ですが、真意の程は?」
先ずは一番驚いた俺が彼女に問いかけた。
「移動の途中でギルドと冒険者の関係を皆さんから聞いて、僧侶という存在が低いランクのパーティーでは身内以外はほとんどいないと教えてもらいました。」
「確かにCランク以上のパーティーには支援職の僧侶は必要で、ランクの低いパーティーでは身内を除いて支援職は敬遠されると言いましたが、それがどうして私の妻になるのですか?」
驚いている表情は見せたが、言葉とは裏腹に内心は喜んでいる自分がいた。
「ランクの低いパーティーに身内ではない女性の僧侶がいる事で、冒険者仲間やギルドから目を付けられる可能性が高いです。こちらでは高ランクの僧侶は聖女と呼ばれ教会や宮廷に仕えていると聞いていますので、有望な人材は引き抜きや嫌がらせがの対象になり得るのでそれらから防ぐ為の手段です。」
「低ランクのパーティーに僧侶の仲間がいる事で要らぬ詮索をされるということですか?」
彼女の説明を聞いてレイナが尋ねる。
「薬師である彼はギルドから目を付けられており、これ以上目立つ事態は彼の負担になり得ます。」
「コウが困るのはわかるけど、だからと言ってタカさんがコウの妻という設定にはならないんじゃないですか?」
ココも彼女に尋ねる。
「御免なさいね~容姿が似ていないので姉弟とも違い、僧侶職のユナちゃんがグレンさんのお嫁さんになると言っていたのを思い出したので、彼の妻であれば同じパーティーに所属しても怪しまれないかなと!」
「たがらと言って、妻は無いと思いますけど!」
レイナもココと同じ言葉を繰り返す。
「一般的に3人も女性を側に置いて冒険している彼が女たらしの批判が立つより、妻がいる方が変な噂が立たないと思いますよ!それに誰を彼女に選ぶのかは彼が決める事です。」
彼女の言葉にレイナとココはコウの顔を見ながら、嬉しいのか照れているのか分からない微妙な表情を浮かべている。
「表向きはタカさんが妻でも実際は、コウが誰を番にするかはこれからの行動次第という事だね!」
ココがあからさまに口にする。
「番は下品ですわ!今後の関係でコウ様が誰を伴侶にするかはわかりませんわ~」
レイナも負けじと口にする。
「パーティーの為にも表向きは私が妻と名乗りますが、彼の彼女になるのは3人の中で誰かは決まっていませんよ。」
「じゃ~私がコウの彼女になっても問題ないのね!」
タカの言葉にレイナが自信満々の表情をする。
「その通りです。先程も申した通り選ぶのは彼です!正々堂々と競い合いましょう!」
レイナとココは頷き、彼女の意見が決定された。
ただ・・・当事者である俺の意見は反映されないようで、下手に意見を言って3人の仲がこじれるよりはこのまま従っておいた方が無難と判断した。
結論として、今まで通り皆で力を合わせてパーティーのレベルを上げる事で話がまとまっていた。
シノが飲み物のお代わりを持ってテーブルに並べると、タカの横に大人しく座っているランに目を配るとタカはその仕草に気付き、飲み物を皆に配りながら話始めた。
「妹のランの事ですが、12才になりましたので冒険者登録をしておきます。私よりは役に立てるかと思いますのでよろしくお願いいたしますね!」
彼女の言葉は、俺とシノの3人で事前に打ち合わせをしていた。
ランは生まれてからまだ半年も満たないが、魔力の供給量が多いため人族化は自由に変えられるとの事で、冒険者登録が出来る12才に設定し一緒にいた方が良いと判断した。
但し、言葉と思考能力はまだ子供の為、これから覚える事になる。
「ランちゃんの面倒は私が見るからね~」
ココが嬉しそうにしている。
「ランちゃんの職業は?」
レイナの質問に俺が答えた。
「初級の魔法が使えるので魔法使いで登録をして、暫くはタカと一緒に後方支援を考えている。」
ランの魔法威力はまだ低いが、それでもCランク以上の実力があると言うが、シノから言わせればまだまだだそうだ!(物理攻撃は黒蜘蛛の能力で人間とは比べられないほど強力なので、人前では見せない様にランには釘を刺している。)
どだいシノと比べる自体間違っているが、俺とタカの魔力が混ざって母親以上の強さになるのではとシノは喜んでいる。
「ランちゃんは魔法使いなの?どんな魔法が使えるの?」
ココが興味津々に尋ねる!
「妹は魔法の適性はあるけど、まだ使いこなせないのよ!」
困っているランの代わりにタカが答える。
「気にする事はないよ!ココも初めは使役出来なかったし~経験を積めば覚えるよ!」
「そうですわ~今ではココさんの従魔はパーティーの要ですよ!私達のパーティーはこれから僧侶のタカさんと魔法使いのランちゃんの活躍次第でさらに上を目指せますわ!」
ココとレイナの心優しい言葉に安堵したのか、俺と彼女はそっと胸をなでおろした。
和やかな雰囲気になったところで、指名依頼の件を話題に出した。
「エリスさんの話では、詳細はギルド出張所で聞いてほしいとの事だそうです。」
「テレサさんもギルド出張所にいるそうだよ~早く行こうよ!」
ココに急かせられるように席を立ち、受付で更新されたギルドカードを受け取りギルドを出発した。
出発の際、テレサからは診療所のアリスさんの方にも顔を出すようにと念を押された。
ランは初めて見るギルドカードを不思議そうに眺めていたが、シノからの仕草ですぐに仕舞った。
俺は念話でランにギルドカードの注意点を伝えた。
「ギルドカードは個人の討伐記録が残るので、ランクに見合った事しかしないようにね~俺の指示があるまでは物理攻撃も魔法も禁止だよ!」
「ご主人様!私達親子は心得ております。ただ黒蜘蛛の姿での行動はギルドカードは認識致しませんので記録が残る事はありません。」
「えっ~そうなんだ!」
シノの言葉に驚いたが、それはそれで好都合だと思った。
「黒蜘蛛の姿であれば、誰も見ていなければ何をしても証拠は残らないという事だな!」
「ご主人様のお手を煩わす事はありませんので、何なりとお申し付けください。ただ従魔の経験値はご主人様とその場に居合わせたパーティー仲間に付与されます。」
シノはサラッと怖い事を言葉にする。
パーティーのレベルが勝手に上がっているのは、俺の知らないとこで高ランクの魔物を討伐しているからなのか!
シノの怖いような頼もしい言葉を聞きながら、指名依頼の詳細を聞く為にギルド出張所へ向かった。




