番外編⑦ 召喚前の記憶②
いつもの様に、一日の報告書をパソコンに入力し終えると、帰り支度を始める。
頭の中は、昨日のゲームの続きで一杯だ。
特に今日は重要なイベントがあるので、早く帰えらなければならないので少し慌てていた。
「お疲れ様でした~お先に失礼します。」
会社を出てしまえば自由だ!
しかし現実はそう甘くは無かった。
早く帰りたいに日に限って、上司から人数合わせの声が掛かった。
断りたいが、他の人が断っていたので俺が断わる選択肢は消えていた。
こちらの都合などお構いなしだ!一方的に場所と時間を告げられ、現地集合となる。
社畜である以上命令には逆らえない。
拳をギュッと握り、声を押し殺す。
宴会場に向かう途中でコンビニに寄り、肝機能保護と胃腸保護のドリンクを購入し事前に飲んでおく。
お酒は極力飲まない様にするが、食事はしっかりと頂く。
宴会費用は会社持ちだが、従業員は時間外勤務なのに残業代は付かない!
お酒が飲める連中は喜んで参加しているが、俺は苦痛でしかない!
せめて好きな食べ物は残業代と思いしっかり食べてやる!
いつもと同じ挨拶で始まり、宴会という接待が行われる。
相手側の男性陣には、営業部や事務部の女性社員が相手をし、女性陣には営業部の若手男性社員が相手をして機嫌をとる。
当然選ばれている社員は、女性も男性も選りすぐられた人材だ。
特に営業部の連中は、その後の評価につながる為必死だ。
ある程度のセクハラは黙認しているし、抜け駆けする社員もいるのは当たり前だ。
その中にあって俺の立場と言えば、ただの頭数要員。
営業部に在籍しているが、営業成績は全く気にならないので接待をするつもりはないが、下手に絡まれるのも御免な為、黒子に徹している。
ただ今日は違っていた!
そう~初めて俺に興味を示し声を掛けてきた女性がいた。
取引先の事務員で、俺と同じ境遇のたまたま誘われた感じで、名前を佐藤倫子と名のった。
今まで誘われても断っていたので今回が初めての参加だそうで、お店の従業員みたいにちょこまかと動いているのが気になって俺に声を掛けて来たと言う。
声をかけられた俺がビックリするほどの美人で、それでいてスタイルが良く誰にも優しい口調で話している。
当然注目の的であり、色んな人が彼女に声を掛けているが、すぐに周りにいる女性が彼女に変わって相手をする。
彼女と話をしたいのにさせてもらえないジレンマを抱えて、他の女性の相手をする男を見ると滑稽に思えた。
ただ声を掛けてくる男から、彼女を守る様に壁役を演じている女性がとても気になってつい見とれていたが、お互い話す事は無かった。(彼女も俺好みでとても可愛らしい!)
彼女の態度は異性に興味がないのか、周りの同僚に遠慮しているのか分からないが、当然彼女から話かける事がなかったのに、なぜ俺に声を掛けて来たのか不思議でしかなかった。
彼女から声を掛けられた俺は、隣にいる壁役の女性と目が合ったが、他の男達の時の態度とは違いブロックはされなかったので、普段通りの対応で話が盛り上がり電話番号の交換まで出来てしまった。(隣にいた女性の、俺を監視するような気配は終始感じていた。)
俺にとって生まれて初めての出来事に有頂天になっていたのは事実だが、現実はそう甘くないと社会の厳しさを身をもって知ることになった。
超美人の彼女がどこの馬の骨とも知らない男と親しくしていた事が他の女性陣や同僚から誤解を招き、いつの間にか取引会社から担当を外されていた。
その後、彼女から一度だけ連絡があったが、生憎都合が合わずそれ以来音沙汰無になっていた。
宴会も無事終わり、急いで帰宅する。
アパートの玄関を開けると真っ先にパソコンの電源を入れ、立ち上がるまでに着替えやトイレを済ませる。
準備が出来るとゴーグルを装着し、アバターの設定が済むと冒険の開始だ!
おっと・・・その前に特定の女性を登録しておく。
そう~以前知り合いになった佐藤倫子さん!(宴会の時に1回会ったのみ!)
外見を思い出しながら、何回もやり直してやっと満足のいくアバターができた。
男女に関係なく人付き合いが苦手の人達の楽しみだ!可哀そうな奴とか変態とか思わないでほしい!
今日も時間を忘れて、自分だけの世界にはまり込んでしまうだろう!
深夜まで時間を忘れてオンラインゲームに夢中になるのはいつもの日課だが、俺には祝福の時間だ!
机の上にあるパソコンの起動ランプが点滅して、真横に設置してあるベットの上で男1人がゴーグルを装着し寝袋の中に裸のままで寝ているのは、傍から見れば異様な姿に映るだろう!
独身男性のやもめ暮らし~汚くはないが、お世辞にも綺麗な部屋とは言えない。
女性との生活に憧れるが、俺を好きになってくれる人はいないだろうと半ば諦めているが、体は健康そのものなので処理に困ってしまう。
ビデオ鑑賞も飽きてきていたので、丁度このチケットを使って見たいと思っていた所だ。
初期設定の裏技で特別なチケットの活用方法を手に入れている俺は、ゲーム内では明確な目的を持って順調に進行していた。
偶然発生するイベントをクリアすると、特別チケットが使える場所に案内される。
偶然とは名ばかりのイベントで、裏技で発生するような設定で行っている。
俺が裏技で行った設定は当然異性との関係だ!
コンサートやディナーショーのチケットは評判だが、俺には活用方法がないので設定していない。
体験型というだけの事もあり寝袋全体がセンサーになっており、肌に直接接触する事で見るだけでなく触って感じる事が出来る夢のようなシチュエーションは、今までなかった体験型ゲームで斬新であり虜になったいた。
チケットが手に入るクエストは決まっているので、ゲーム内では純粋にシナリオを進めなければならない。
順調に仲間のレベルも上げ、特定のアバターと生活を共にしていると、現実に暮らしているような錯覚に陥りゲームから離れた時に非常に空しくなる時があるが、俺は受け止められている。
中には、ゲームと現実の区別がつかなくなり犯罪に手を染めてしまう人もいるが、自己管理が出来ない人間は世間から抹殺される怖い世の中だ!
運よく俺はその区別が出来ている。(真面目に生きて来た証拠だ!)
ゲーム内の物語は、自分だけの人生だ。
今日もパーティーの仲間と側にいる彼女を連れて冒険を繰り返しながら、チケットの恩恵を受けていた。
【暗闇の穴】・【無限の穴】・【泉の穴】・【禁断の穴】等初期設定の情報を元にAIがランダムでミニシナオリを提供してくれるが、俺への設定は極端に偏っているように思えるのは気のせいだろうか?
ただ・・・・・イヤではない。
当然チケットがないと参加できないが、クリアー後の報酬が言葉では言い表せない程満足できる。
この満足感も最新型のゲームの売りで一つで、オタクの中では大人気だ。
チケットの為に無茶な冒険をして、俺以外のパーティー仲間が何回か全滅したが、ゲームの中ではリセットや裏技で生き返らせて進めたが、それでもロストした仲間はいる。
これが現実ならこんな無茶な事は出来ないだろう。
今も俺の判断ミスで失敗したクエスト内容は覚えている。
もしもう一度やり直せるのであれば、誰もロストせずにゲームをクリアーしたいと心から思っていた。




