76. 休息
テリオス商会のソフィアと呼ばれるエルフ族の女性からの誘いに気持ちが揺れ動いていたが、俺だけでは決められないので一旦保留にさせてもらった。
「すぐに決める必要はありません。それに討伐はまだ先になりますし、準備にも時間が掛かるでしょう!」
「分かりました。その時はよろしくお願いします。」
「いつでもテリオス商会を訪ねて下さい~お待ちしております。」
彼女はそのままギルドの奥の部屋に移動した。
俺はグレンに作り話のお礼を言って、今後の打ち合わせをするためにギルド内にある酒場の一番端のテーブルに移動した。
移動の途中で他の冒険者から声を掛けられたが、グレンの厳しい表情のお陰でそれ以上の勧誘はなかった。(グレンの厳しい表情は、実は本当にチビッていたかもしれない伏しがあるのではと思った。)
ただし、それが事実だとしても口には出さない!いや出せない!
グレンには申し訳ないが、彼らのパーティは俺らの隠れ蓑としてとても重宝しているのは事実だ。
決してワザとではない。成り行き上偶然が重なるだけだ。
グレン達にも利益はあるはずだから文句は言われていないし、むしろ感謝されていると思うが一応言葉にしておく。
「グレンさんいつも有難うごさいます。」
「気にすることは無い!コウ殿が人目に付きたくない事は承知しているし、こちらも助かっている。」
グレンが一番気にしているのは双子の姉妹だ。
「今回の経験でユナが化ける可能性があるような気がします。」
「コウ殿それはどういう意味かな?」
「怪我をした冒険者の治療が出来なかった事をすごく悔しがっていたし、治癒魔法もレベル1の彼女とほぼ同じだった事で落ち込んでいましたから!」
「レベル6のユナとレベル1の彼女の治癒魔法が同じレベルで、尚且つ魔力量も彼女の方が多いとくれば少しは落ち込むか~」
彼女はそもそも聖女なので僧侶のユナと比べられないが、きっかけにはなるはずだ!
「それはそうと、彼女は冒険者登録したばかりで本当にレベル1の僧侶なのか?」
グレンが疑いのまなざしで俺を見つめる。
「グレンさん~間違いではないのですが、彼女の事も内密にお願いします。」
「やはり訳ありだな!」
グレンはやはりという表情で、楽しそうに飲み食いしている女性達を眺める。
「俺はコウ殿が困る事も、コウ殿を裏切る事もしない。安心してほしい!」
「グレンさん~有難うございます。」
グレンの嬉しい一言で一安心し、俺も姉妹の様に話している彼女達を眺める。
「お兄ちゃん達~さっきから私達を見つめているけどどうしたの?」
「私たちの美しさに見とれていたのかな?」
リナとユナが自信満々で片足を前に出しセクシーアピールの表現を見せるが、タカは少し照れている。
「あんまり見つめられると恥ずかしいです~」
彼女の言葉で、俺も恥ずかしくなり目をそらした。
「大人をからかうじゃない!食べ終わったら話があるからこちらに来なさい!」
グレンの言葉で、同じテーブルに皆が集まった。
丁度タイミングよく、ガルテノとミエールが我々を見つけ様で同じテーブルに合流した。
ガルテノとミエールは何の騒ぎかわからない表情で、テーブルに付いてからも周りを気にしている。
「ギルド職員の異常な程の忙しさと、冒険者達の会話から何か大変な事があったんすか?」
何も知らないガルテノが尋ねて来たので、2人に今までの経緯を説明した。
2人ともビックリして真剣に話を聞いていたが、最後までの説明が終わると胸を撫で下ろした表情で安堵したようだ。
「皆が無事でよかったわ!」
「犠牲になった冒険者には申し訳ないが、コウさんは凄いです!」
ミエールが少し涙目になり、ガルテノは何故か俺を持ち上げる。
「それはそうと、コウさんの彼女ですか?」
ガルテノはグレンから話を聞いていただけで、初めて拝見する彼女をみて俺の耳元で呟く。
「勘違いしないでおくれ!彼女は俺と同じ村の出身で知り合いだ。怪我をして倒れた所を助けられたんだが、一時的に記憶が無いので思い出すまでの間、俺と一緒に行動する事になったんだ。」
「コウさんは何方にも優しいですね。」
ミエールの言葉とは違いガルテノは俺の耳元で話す。
「彼女はとても美しいけど、こちらの住人とは雰囲気が違いますね!それにコウさんと同じ匂いがします。」
ガルテノは意味ありげに小声で話し、途中から皆に聞こえるような声を出した。
「どうしてコウさんの回りには綺麗な女性ばかりが集まるんだろうな~」
一瞬タカの表情が変化したのをガルテノは見逃さなかった。
「出来る殿方には惹かれるのは、女性の本能として当然だわ!」
ミエールの言葉に何故かガルテノがにやつく。
「確かにコウ兄ちゃんは出来る男かもしれないけど、男としての魅力は私達のお兄ちゃんには敵わないわよ!」
リナとユナはグレンの腕を掴みながら自慢する。
「コウ~他に知り合いの女性がいるの?」
ガルテノがワザと聞こえるように話した言葉を気にしている。
「俺がリーダーを務めているパーティー【黄金の大地】の仲間で、4人の女性と冒険者をやっている。」
「4人も女性がいるんですか?」
彼女の不安を和らげる為に、メンバーの説明をした。
「クルセイダーのレイナ様にテイマーのココ、くノ一のテレサさんに魔法剣士のシノの4名に薬師の俺と僧侶のタカが加わり、これからは6人体制で冒険をこなす事になる。」
「シノさんは存じていますが、他の3人とはどのような仲なのですか?」
俺が思っているのと、彼女が気にしている事に相違があるみたいだ。
「コウさん!彼女の言いたい事は、その中に特定の女性がいるのかを知りたいみたいですよ!」
ガルテノがストレートに聞いてきた。
「誤解しないで!みんな大事な仲間ではあるが、男女の仲ではないです。」
「特定の方はいないのですね。」
彼女の声は小さく聞き取れなかった。
よくわからなかったが、彼女の機嫌が良くなったみたいなので、これからの話を始めた。
現状の情報を皆で共有してから、今後の事を決めた。
「グレンさん達【銀狼の牙】は明日は乗り合い馬車の護衛依頼で、セシール村へ行きますよね!」
「予定通り依頼は遂行する。」
「お願いがあります。セシール村に戻りましたら、【黄金の大地】のメンバーのレイナ様とココにこちらに来るように伝えてもらえませんか?」
「お安い御用だ!」
「コウ兄ちゃん達はこの後どうするの?」
ユナが彼女を心配そうな表情で見ながら俺に尋ねる。
「皆が揃うまで、彼女のレベル上げをしておこうと考えているんだ!」
「ユナちゃん~心配してくれて有難う!新しい魔法をまた教えてね~」
彼女はユナの手を握り笑顔を見せる。
「今日の出来事でタカさんは疲れていると思いますよ!先ずは休息して下さい。」
同じくミエールが彼女の手を握る。
「コウさん~暫くは彼女とゆっくり休んで下さいよ~」
ガルテノも笑顔で話すが、変な気お使っているように感じる。
「コウ殿なら抜かりはない!我々も明日に備えて休むとしよう!」
グレンの言葉で今日の冒険は終了!【迷える子羊亭】への帰途に着いた。




