72. 交流
彼女は冒険者として初めての依頼をこなして、ギルドに戻って来た。
慣れない作業を愚痴も言わず成し遂げるのは、俺と同じ彼女も社畜に染まっているんだろうか?
「今日の成果を確認しましょう!」
受付カウンターを覗くと、冒険者登録を担当した新人受付嬢ユリナがカウンターでウトウトとしている。
「クエストが完了しました。」
カウンターの上に採取した薬草の束をまとめて置いた。
起きているのか寝ているのかわからなかったが、カウンターに置いた時の音でびっくりした表情でこちらに気付き目を大きく開いた。
「お!お!お疲れ様です。」
俺と彼女は笑いを堪えて、何も見なかったように対応した。
「すみません~薬草採取のクエストですね。今すぐ査定しますのでお待ちください。」
ユリナは薬草の束を抱えて奥の部屋に消えた。
「コウ殿!」
カウンターで待っていると、後ろから聞きなれた声がした。
「グレンさん!護衛の依頼でセシール村へ戻ったんじゃなかったですか?」
「いや、明日の早朝出発する予定だ。」
「そうですか~今日はお休みですか?」
「そのつもりでゆっくり休んでいたが、体を動かさないと落ち着かないのでついギルドに足を運んでしまったんだが、コウ殿に合えるとは嬉しい限りだ。」
「他の皆さんはどうしているんですか?」
「ガルテノとミエールは、買い物を兼ねたデートだな。リナとユナはもうすぐ来るはずだ。」
グレンと立ち話しをしていると、ユリナが報奨金をカウンターの上に置いて説明を始めた。
「薬草が50本で1銀貨、毒消し草が5本で1銀貨、それに何と魔力草が1本混じっていました。」
「いや混じっていたんじゃなくて、採取したんだが~」
「失礼しました!薬草はキレイに処理されていましたので買取アップ2倍の金額で、合計1金貨と3銀貨になります。」
「コウ~この金額は凄いの?」
「初めてにしては凄いと思うよ。日本円で約1万3千円位だな!」
「えっ~日給にしては凄いね!」
我々の会話には誰もわからないが、気にしないでほしい。
「初心者で3日以内の達成は、初めてにしてはとても凄いですね。薬草を採取する冒険者が少ないので今後も積極的にお願いします。」
ユリナは薬草採取の依頼をこなしてくれた彼女に嬉しそうにお礼を言った。
彼女も気分がいいのか嬉しそうな表情をしていると、横から袖を引っ張られて振り向いた。
「貴方は誰?」
彼女を方を見ると、これも見慣れた後ろ姿のユナが袖を掴んでいた。
「お姉ちゃんはコウ兄ちゃんの彼女?」
ユナの言葉に俺も彼女もびっくりしたが、彼女は顔を赤らめて無言で困った表情をしたので、俺が説明をした。
「彼女はタカ姉ちゃんと言ってね、俺と同じ村の出身なんだ。」
ユナはジッ~と彼女の顔を見ていたが、タカの手を握り挨拶をした。
「私はユナ!タカ姉ちゃんと呼んでいいかな?」
「ユナちゃんね!構わないわ~こちらこそよろしくね!」
ユナが挨拶をしていると、リナも駆け寄ってきた彼女の手を握り挨拶をする。
「私はリナよ!新人さんでしょ~私が教えてあげるわよ!」
「リナちゃんね~ぜひお願いするわ!あなた達は双子?」
「そうよ!私がリナでお姉ちゃん~ユナが妹よ!」
リナがいかにもお姉ちゃんという表情で話し、彼女の顔をジッと見つめる。
「私の顔に何かついているの?」
「あなたはコウ兄ちゃんの彼女で間違いないわね~私達のお兄ちゃんには色目を使わないでね!」
リナの唐突な言葉に唖然としたが、2人には真剣な感情らしい。
「大丈夫よ!コウの彼女ではないけど、貴方達のお兄ちゃんには手を出さないと約束するわよ!」
「よかった約束よ!それじゃ~先輩冒険者として色々教えてあげるわ!」
「はい、お願いします。」
「私の職業は【魔法使い】でレベルは6、ユナの職業は【僧侶】でレベルは同じく6だわ!」
「ユナちゃんの職業は私と同じ【僧侶】ですね。今日登録したばかりだからレベルは1です。」
「お姉ちゃんも【僧侶】なの!それじゃ私が教えてあげる。」
ユナは腰に手を当てて得意げな表情をする。
「こら!コウ殿の彼女に失礼な態度はやめなさい!」
グレンが俺らに謝る。
「グレンさん謝らないで下さい。ユナが言う事はごもっともで、以前はそちらから頼まれた合同パーティーを今回はこちらからお願いしたいんです。」
「コウ殿の頼みなら、断る理由はありません。」
「知っての通り、彼女はレベル1で全く経験がありません。経験者のユナと一緒に行動することで彼女が得るものがあると思います。」
「それはこちらも願ったりだ!」
「どういう意味ですか?」
「実は・・・Eランクには昇格したのだが、リナとユナの2人だけレベルが上がっていないんだ。」
「それはどうしてですか?同じパーティーであれば経験値は均等に入るはずですし、確かに貢献度によっては多少の増減はあるかもしれませんが気にならないはずですよ。」
「コウ殿の言う通りだが、そもそも一緒に冒険する日数が少ないうえに、参加しても2人の安全を考えるとどうしても難易度の低いクエストを選んでしまうんだ。」
「そういう事でしたか!グレンさんは優しいですね~」
「からかわないでくれ!保護者としての責任があるし、2人はか弱い女だ!万が一に一生残る傷でも付いたらそれこそ大変だ!!」
「わかりましたよ~グレンさんが2人を大事にしている事は。」
グレンの顔が赤くなり、自分で話していて恥ずかしくなっている。
「このメンバーで少し難易度の高いクエストを今から受けませんか?」
「コウ殿が一緒であれが安心だ!ぜひお願いしたい。」
「こちらこそグレンさんがいれば前衛を安心して任せられるし、ユナの実践が彼女にとっても役に立ち一石二鳥ですよ。」
「そうと決まればさっそくクエストを受けよう!」
グレンとの話がまとまって、近場の村に頻繁に出現するようになったホワイトボアの群れを討伐するクエストを受けた。
「ガルテノとミエールには声を掛けないのか?」
「2人にはいつも無理を頼んでいるので、今日は休ませてあげたいんだ。」
「わかりました。私の従魔を護衛につけましょう!」
「シャドウウルフだな。彼には助けられたのでお礼が言いたかったんだ。」
「実は、もう1人従魔が増えたんですよ!」
「なに~それは凄い!さすがはコウ殿だ!」
「なになに~コウ兄ちゃん~新しい従魔が出来たの?」
会話を聞いていたのか、リナとユナが話に割り込んできた。
「そうなんだ~後で紹介するね。」
「コウ~従魔とは何ですか?シノさんの事なの?」
彼女はキョトンとした表情で尋ねる。
「タカには話をしていなかったね。この後現場で説明するね。」
彼女の言葉が皆に聞こえない様に、慌てて返事をしてすぐに出発するよう催促した。
「コウ殿!急ぐのはわかるが、彼女の武器や防具を購入してからの方が良くはないか?」
グレンに言われて、そうだったと気付いた。
「忘れていました!グレンさん有難うございます。」
「私がお姉ちゃんの武器と防具を選んであげる!」
ユナが彼女の手を握って、武具や道具を販売している奥にあるカウンターに引っ張っていく。
なぜかリナもすぐに2人の後を追いかけた。
暫くしてから、杖と服の上から覆いかぶせるロープと靴を購入してきた。
当然支払いの請求は俺に渡された。
「なかなか似合っていますよ~」
「有難う!なんか魔法使いになったみたいだわ!」
彼女は選んでもらったのが嬉しかったみたいで、とても喜んでいる。
「さて準備もできましたので、今度こそ出発しましょう!」




