67. 聖女
メルンの言葉で、彼女と俺が召喚された時の場面が脳裏に浮かんだ。
たしか・・・「聖女様に続き賢者様の召喚も成功だ」・・・と言う言葉が耳に聞こえてた。
彼女は聖女の可能性がある?
「コウ殿!どうされましたかな?」
ヘッパーの言葉ですぐに冷静さを取り戻した。
「彼女と話をしたいのですが、会う事は可能ですか?」
「問題はありませんよ、メルンに案内させましょう~」
ヘッパー爺さんの示指でメルンが会釈して案内してくれるようだ。
「コウ殿、彼女を引き取る場合世話をする人が必要なら、当店の奴隷を購入する気はないかの~」
「すみません、どうしても奴隷に馴染みがなく遠慮しておきます。それに世話をする人に心当たりがありますのでご心配には及びません。」
「そうであれば無理強いは出来ないのう~」
笑いながら尚も言葉を続ける
「コウ殿のレベルが一定以上になるまでは戦闘奴隷は必ず役に立ちますし、迷宮探索には必要不可欠な存在になるはずじゃ~その時は声を掛けて下され。」
「わかりました。その時は是非お願いします。」
ヘッパー爺さんの言葉は、俺の事を心配しての発言と受け止められる。
メルンの案内で彼女が滞在している部屋に案内してもらった。
ドアをノックしてメルンが声を掛ける。
「タカ様失礼します。コウ様をお連れ致しました。」
メルンが先に入室してから、その後に続く。
1人部屋のようでテーブルとソファーがあり、奥にはベットが置いてあった。
部屋の間取りは思ったより広く、彼女の表情からも落ち着いて過ごせているようだ。
メルンから勧められて彼女と向かい合わせのソファーに座る。
メルンが部屋を退出して2人だけになった所で話を切り出した。
「初めまして~俺はコウと言います。・・・記憶が無いと聞きましたが、ご自分の名前も思い出せませんか?」
「申し訳ありません~思い出せないんです。・・・自分の名前も、なぜここにいるのか?」
彼女は両手を握り、下を向いて謝る。
「謝らないで下さい。何かきっかけがあれば思い出すかもしれませんので、気長にいきましょう!」
「あの~失礼ですが・・・貴方様と私の関係は?」
当然~そう聞くよな。
「私は貴方と同郷ですが、お話をするのは初めてです。」
「同郷の方ですか?私はなぜあの森で倒れていたかご存知ですか?」
「たぶん森の中で魔物に襲われて怪我を負ってしまい、その時に頭を強く打ったかもしれません。」
「そうですか・・・私の名前や家はご存知ですか?」
彼女はすがる様な表情で俺に訊ねる。
「私達が住んでいた場所はここからとても遠い所に存在しています。なぜこんな遠い場所にいるのか私もわかりませんが、必ず元の場所に帰れる方法を見つけたいと思っております。」
「貴方も帰る場所がわからないのですか?」
彼女は俺の事も心配してくれてるようだ。
「私は冒険者という仕事をしながら生活費を稼ぎ、いろんな情報を探しています。」
「冒険者?それはどんな仕事ですか?」
「ギルドという会社に登録すると、仕事を斡旋してもらえるんです。ただし自分の実力に見合った仕事だけですけど、お金にはなります。」
「登録は誰でも出来るんですか?」
「もちろん!貴方でもできますよ。」
「ホントですか!でも少し心配です。」
表情がコロコロ変わる彼女につい見とれてしまった。
「あの~私の顔に何か付いていますか?」
「すいません~同じ世界の人と話すのは久しぶりで、つい見とれてしまいました。」
彼女は急に顔を赤らめ、両手で顔を隠して下を向いてしまった。
その仕草も可愛い!
彼女の年齢は16歳、俺と同じ年だ。しかし本当の俺は29歳だが彼女の本当の年齢は何歳だろう?
「メルンさんから私の名前は【タカ】とコウさんがおしゃったと聞きましたが、カバンに入っていたハンカチにはタカコと刺繍がありましたので、自分の名前はタカコではないでしょうか?」
「良かった!カタカナは読めるんですね。」
「カバンもハンカチも記憶はないのですが、私のでしょうか?」
「ここの人達はカタカナは読めませんし、カバンも汚れてはいますがこんな高級品は作れないと思いますから貴方の持ち物に間違いはないと思います。」
「それでしたら、私の名前はタカコではありませんか。」
俺の説明に彼女は首を傾げている。
「そうですね~信じれれないと思いますが、ここは私達がいた日本ではないんです。理由は分りませんが日本から違う世界に転移したと考えられます。」
「ここは日本ではないのですか?」
「貴方と私は1ヶ月前に召喚魔法によってこの世界に転移させられました。私は転移前の記憶があり、姿形・年齢・名前も変わっていました。
「そんな!では私もですか?」
「そうなんです。たぶん貴方の姿・年齢・名前も変わっているんです。」
「でも・・・何でわかるんですか?」
「ここは日本にいたころに遊んでいたゲームの世界に似ているんです。」
「ゲームですか?・・・言葉に聞き覚えがあります。あっ!弟が遊んでいたような記憶が!私はまるっきり興味が無かった事を思い出してきました。」
俺との会話で、召喚される前の記憶が少し思い出したようだ。だが彼女はちょっと戸惑った顔をした。
「頭の中でステータスと唱えてみて下さい。目の前にモニター画面が見えますか?」
彼に言われた通りにするとあら不思議、目の前に文字が見える。
「これは何ですか?あっ~名前が【タカ・ヒメ】となっている!」
彼女は目の前に見える画面を不思議そうに話す。
「【HP】【MP】このアルファベットの記号は何ですか?それに下の欄はほとんど空欄ですがどうしてですか?」
「ゲームの中では条件をクリアーしていかなければ表示されないんです。」
「条件を達成出来れば、表示が増えるのですか?それに私の名前は確かに【タカ・ヒメ】と表示されています。」
「はい名前は【タカ】で苗字は【ヒメ】ですが、この世界では名字があるのは貴族だけですので呼ばない方が無難です。
「名字が【ヒメ】?2文字しか表示しないんですね。それに貴族がいるんですか?・・・私は平民には間違いはないですけど!」
彼女は笑いながら話していたが、ふと真剣な表情に戻った。
「私・・・日本にいた時の記憶が少し思い出しました。ただ転移してから助けられるまでの記憶が思い出せません。」
「おそらく魔の森で魔物に襲われて、その恐怖が記憶を阻害しているんでしょう。」
「魔の森?なぜ私はそんな森にいたのでしょうか?」
「貴方が召喚された場所から魔の森に移動したのは何らかの事情があるはずですが、今は体を治す事に専念しましょう!」
「そうですね~でも不思議なんですが傷が治っているんです。それに体も回復してきましたので直ぐにでも動けます。」
彼女は自分のスカートをめくって傷があった両膝を見せてくれる。
白い綺麗な足を見せられてドキッとしたが、彼女は気にせず傷が治っている事を不思議がっている様子だ。
聖女の能力がある彼女であれば、自己治癒力が働いても可笑しくはない。
「コウさん・・・お願いがあるんですが!」
彼女はスカートを下ろして両手で叩きながら真剣な眼差しで俺を見つめる。
「コウさんと一緒に帰る方法を探したいです。」
「それは構いませんが、帰る方法が直ぐに見つかるかはわかりませんし、その間も生活はしていかないといけません。」
「わかっています。私も冒険者になってコウさんと行動を共に致します。」
「わかりました。タカさんの記憶が戻れば、帰る方法の手掛かりがわかるかもしれませんね。」
お互い納得した感じで、これからは一緒に行動する事になった。
俺の事や彼女の事はおいおい話していくとして、今日はグレンが手配してくれている宿屋に泊まろう。
同じ日本人の女性(年頃の女性)と一緒に行動出来る事は、今まで彼女が出来なかった俺では絶対にありえない事だろう!
それに彼女の容姿は俺好みで、神様に感謝します。




