65. 冒険者ギルド【グラッサ支部】
コウが店を出た後のテリオス商会での話し合いの内容を、彼は知る余地も無かった。
コウは店を出てから足早に移動し、店が見えなくなると立ち止まり息を吐いた。
「フッ~危なかった。隠ぺい魔法がバレてたとは思わなかったよ。」
「シノの魔力が漏れなくて良かった。」
「ご主人様のご命令通り、子供達と大人しくしていました。」
シノがいつもと同じ念話で話す。
「それにしてもマーロンと呼ばれていた魔導士の洞察力は凄かったな~何処までバレたかな?」
「魔導士であれば鑑定魔法は使えると思いますが、相手よりご主人様のレベルが高ければ許可しない限り見る事は出来ません。それに余程の事情がない限り、人様の鑑定は行なわないと思います。」
「そうなのか!」
シノの説明で少しは安心した。
そう言われると彼女に鑑定魔法を掛けたのはやむにやまれぬ事情があった為で、決して興味本位ではないと心の中で言い訳をしていた。
「シノのレベルであれば、鑑定魔法はすべて弾き返せるな!」
「そんな事はありません。ご主人様はいつでも私のすべてを見る事も触れることもできます。」
シノ・・・違う意味に聞こえるからやめておこう!
シノと会話をしたら落ち着いてきたので、冒険者ギルドに足を運んだ。
教えてもらっていた冒険者ギルド【グラッサ支部】の入口の前に来た。
セシール村のギルドと比べものにならない程、大きくて立派な建物だ。
ここに立っているだけでも、出入りする冒険者や商人の人達が多い。
「シノは魔力が漏れない様に大人しくしていてくれ。」
「承知いたしました。」
俺は念入りに隠ぺい魔法を掛けて、ギルドの建物の中に足を踏み入れた。
建物の中は、思っていたよりは人が多く賑やかだ。
それもそのはずだ!広いスペースの半分は酒場になっていて、夕方も近いせいか今日の冒険が終わった者達が酒や食事をしている。
ここでもメイド服を着た若いウエイトレスが、お酒や食事を忙しそうに運んでいる。
受付カウンターの窓口も何ヶ所かあり、冒険者達がたぶん依頼報告をして報酬を貰っているんだろう。
中には報酬を貰うとすぐにお酒のカウンターにいく輩もいるようだ。
依頼書を貼るクエストボードも大きいのに、数枚しか残っていない。
それだけ冒険者の数が多いと言えるだろう。
一通り部屋の中を見渡して、酒場の隅で食事をしている見慣れた面子を見つけた。
すぐに近づき声を掛ける。
「お疲れさま!無事に依頼達成かな?」
「コウ兄ちゃん~待ってたよ~」
「コウさん~道中お世話になりました。」
一番最初に声を掛けたのは、双子の姉のリナで、次にミエールだった。
双子の妹のユナはニコッと笑顔で挨拶したが、口の中に食べ物がいっぱいで喋れない様子だ。
「グレンさんとガルテノは?」
「2人はギルドのお偉いさんと話をしています。」
ミエールが説明しながら、一緒に食べるよう勧めてくれた。
「コウ兄ちゃん~此処の料理すっごく美味しいよ!」
テーブルの上に並べられた料理を全て口にしたユナが、お勧めの料理を手前に運んでくれる。
「今回の依頼報酬とは別に領主様より手当金を貰いまして、好きなだけ食べていいよとグレンさんから言われています。」
ミエールも嬉しそうに食事を楽しんでいる。
皆と食事を楽しんでいると、グレンとガルテノが戻って来た。
「コウ殿!コウさん!」
2人が同時に声を掛けてきた。
「2人ともお疲れ様~申し訳ないが先に頂いています。」
「気にしないでほしい~コウ殿にはご馳走するつもりだ!」
「そうですよ~こうして無事依頼が達成できたのも、コウさんのお陰です。」
「2人とも機嫌が良いですね~ギルドのお偉いさんから何か言われましたか?」
「コウ殿には伝えておく。今回の護衛依頼が無事達成できたのでEランクに昇格できた。」
グレンの言葉に食事をしていた女性陣が飛び上がり喜んだ。
「お兄ちゃん凄いよ!」
リナがグレンの腕にしがみ付き歓喜の声を出す。
ユナもグレンの腕にしがみ付くが、口の中に食べ物があるので声が出せない。
ミエールもガルテノに抱きついて喜んでいる。
暫らく感情に浸っていたが、落ち着いた所で全員が席に着きグレンが話し出した。
「今回のEランク昇格はコウ殿のお陰と思っている。」
「そんな事はないですよ~皆さんの実力ですよ!」
グレンはそれ以上何もいわず、頭を下げる。
「コウ殿は暫らくグラッサの町に滞在する予定かな?」
「そのつもりです。」
「宿泊先が決まっていなければ、長期滞在できる宿を紹介できるが如何かな?」
「それは助かります。同じ村出身の人が怪我をしていまして、治るまでここで活動をしようと思っていた所です。」
「では予約を入れておく。ちなみに宿泊費は無料だ。」
「それは困ります。お金は支払います。」
「支払いはアデルが払いたいと言っている。それに宿は同じ孤児院の夫婦が経営しているから気お使わなくても問題は無い。」
アデルの顔を立ててやってくれとグレンから言われたので受ける事にした。
「コウさん~同じ村の人は男性ですかそれとも女性ですか?」
急にガルテノが笑顔で聞いてきた。
グレンとアデルには話をしていたが、皆にも話しておこう。
「彼女は同じ村の出身なのですが、名前以外詳しい事は知らないんです。それに助けてくれた奴隷商人の話しでは、魔の森から魔物に襲われ逃げてきた様子で、大怪我をして倒れていた所を保護したそうです。」
「大怪我をしていたのですか?」
ガルテノが心配そうにしている。
「足の骨が折れていて背中に大きな傷がありましたが、致命傷ではありません。ただ・・・記憶を失っている様子で、何も覚えていないんです。」
「記憶喪失なのですか?」
ミエールがガルテノの手を握り同じく心配そうにしている。
「コウ殿が面倒を見るつもりなのか?」
グレンの問いに答える。
「偶然とは思えないんです!同郷ですしこれも何かの縁です、記憶が戻るまでお世話をするつもりです。」
俺の説明に皆は納得してくれた様子だ。
「宿の手配も2人分しておく、何か手伝える事があったら何でも言ってくれ!」
「グレンさん!・・・有難うございます。」
皆にお礼をいって残りの食事を食べながら、今後の予定を確認した。
「グレンさん達のこれからの予定は?」
「今日はコウ殿と同じ宿に宿泊して、明後日の朝出発するセシール村への乗り合い馬車の護衛の依頼を受けている。」
「タダでは戻らないとは流石はグレンさんだ!」
「今回は良い勉強が出来たので、今度は上手くこなせるよ~」
「ガルテノ~あまり無茶はしないでね~」
ミエールの心配の声をヨソに、リナとユナが屈託のない笑顔で2人同時に声を出す。
「私達の魔法があるから大丈夫よ!!」
「リナとユナの魔法は、パーティーの要になるだろうな~」
リナの水魔法と土魔法、ユナの回復魔法と光魔法はレベルが日に日に上がっているようだ。
「コウ殿~リナとユナから話は聞いたが、ゴブリン討伐の指導をしてくれた事・・・感謝している。」
「あれはミエールに頼まれて一緒に行動しただけで、俺は何もしていないんです。」
「コウ殿の指示があればこその結果で、そのおかげで2人のレベルは一気に上達した様だ!」
グレンは何かにつけて俺のお陰だと思っている。
「事情はどうであれ2人の実力ですし、魔法職のレベルはパーティー全体に影響しますからこれから先も楽しみですね。」
グレンは俺の手を握り、嬉しそうな表情を見せる。
たぶん、親目線の感情が湧いていたんだろう!
俺はグレン達に奴隷商人の店に行くことを告げてから、席を立ち皆にお辞儀をして別れた。




