64. テリオス商会
魔導士が経営する道具屋を見に来た俺は、店を出るタイミングで老婆に呼び止められた。
「この町では見かけない顔だね!」
扉を開けようとした瞬間、魔力の波を感じたと同時に扉は動かなかった。
扉が開かない事に気が付かないフリをして、隠ぺい魔法で魔力が漏れないように体内に押し殺してから老婆の方を向いた。
「はい~今日セシール村からきた冒険者です。」
「冒険者?ランクは?」
老婆の後ろに立っていた男が、俺の方を睨み尋ねる。
「Eランクになったばかりのまだ駆け出しです。」
「冒険者には見えないな~職業は?」
「職業は【薬師】です。」
「ほう~生産系か!めずらしいな~」
護衛の男の威圧が怖い!
「ガッシュ!彼が怖がっているだろう~もう少し優しく話さないかい。」
老婆に言われて一歩後ろに下がった。
「すまないね~こちらに来て一緒にお茶でも飲まないかい。」
断りたいが、たぶん魔法で扉は開かないだろう~
虎穴に入らずんば虎子を得ずという事で、誘われたままテーブルの椅子に腰掛けた。
腰掛けると程なく、先ほどのエルフの女性がお茶を運んできてテーブルに置いてくれた。
「私はこの店の主で魔導士のマーロンじゃ~皆、おババと呼んでおる。」
「私の名はコウと言います。Eランクパーティー【黄金の大地】のリーダーをしていますが、戦闘力はメンバーに劣るので生産系の支援を極めたいと思い、生産工房があるこのお店の見学に来ました。」
「ほう~薬学に興味があるのかい?」
「はい!薬学以外にもポーションや魔道具の制作に興味がありまして、冒険者のレベルを上げながら珍しい材料を集め、ゆくゆくは錬金術師で生計を立てたいと考えています。」
「錬金術師を目指しているとは!大きく出たもんだ!!」
護衛のガッシュが驚いたよりも呆れた表情の声が聞こえた。
「そうかいそうかい~」
老婆のマーロンがニコニコしながら、嬉しそうな表情を見せる。
マーロンの声のトーンで機嫌が良いと感じられた俺は、今ならチャンスと思いお願いをしてみる。
「もしよろしかったら、工房の見学とかできますか?」
暫らく考えてから返事があった。
「今すぐは無理だが、後ほど招待しようかの~」
「おババ!得体の知れない人間を工房に入れるのはマズイのでは?」
ガッシュはビックリした表情で意見する。
「コウ殿と言われましたかの~ポーションの作成経験はおありかい?」
「見よう見まねで1回だけ作りましたが、ちゃんと指導を受けた方がいいのではと感じました。」
俺はアイテムバックから自分が作った初級回復ポーションを1本取り出し、テーブルの上に置いた。
ガラス瓶に入っているポーションを手に取り眺めていたマーロンが、後ろに立っているガッシュにポーションを渡す。
「ガッシュ~このポーションを飲んで感想を聞かせておくれ。」
「エッ!!俺が飲むんですか?」
「大丈夫だ~死にはしないさ。いつもの初級ポーションと比べてどれぐらい効果があるか感想を聞かせておくれ。」
「本当に大丈夫ですかね~」
マーロンに言われるまま恐る恐る手にしたポーションを飲み上げる。
「どうだい?」
マーロンの問いかけにすぐには返事が出来ずしばらく考え込んでいたガッシュは、俺を睨んで「本当にお前が作ったポーションなのか?」と聞いてきた。
ガッシュの睨んだ顔がとても怖い!
返事はしたが声にならなかったので、コクコクと頷いた。
「おババ~これは初級回復ポーションとは思えない回復量だ!・・・それに何か解らないが付与されているような感じがするし、右足の古傷が治った感じがした。・・・それにこのポーションは美味しい!!」
「ほぉ~普通のガラス瓶に入っておるの~ある程度劣化もしているはずじゃが~」
ガッシュの評価を聞いたマーロンは、何やら考え込んでいた。
「お前さん~付与魔法は使えるかい?」
「いえ、使ったことはありません。」
ウソは言っていない。
「隠ぺい魔法が使えるのなら、付与魔法の素質もあるだろうし問題なさそうじゃ~」
エッ!隠ぺい魔法がバレている?
「おババ~彼が隠ぺい魔法を使って魔力を隠しているのか?」
「そうじゃ~店に入った時に感じた魔力が、完全に消えておる。」
「俺様もそれなりの冒険者だ!魔力のあるなしは肌でわかるんだが、何も感じないぜ~」
ガッシュは信じられない表情を見せている。
「魔法の事は詮索しないから気にしなさんな。それより物作りに興味があるんならここで働く気はないかい。」
思いもしなかった展開に驚きを隠せず返事に困っていたら、先程からマーロンの傍に寄り添っていたエルフの女性が助け船を出してくれた。
「マーロン様、いきなり働かないかは唐突で彼も返事に困っていると思います。まずは見学をしてもらいテリオス商会を知ってもらってからでよいのではありませんか。」
「ソフィアの言う通りだね。お前さんも冒険者ならこの街の迷宮にも興味があるだろう~ギルドで依頼を受けながら必要になったらこの店に来なされ。」
「有難うございます。しばらくこの町の事も知りたいので、必要になったら寄らせてもらいます。」
俺は席を立って、お辞儀をしながらこの場を離れた。
「コウ様はこの後どうされるのですか?」
ソフィアと呼ばれたエルフの彼女が、興味津々の表情で尋ねる。
「知り合いのパーティーとギルドで待ち合わせをしています。」
「そうですか~後ほどギルドにも顔を出しますので、よろしくお願いしますわ。」
店の扉を恐る恐る開ける。
「開いている!」
魔法が解除されたんだ。
安堵した表情で外に出た。
外に出ると体が自由に動けるように感じたが、緊張していたせいなのかそれとも別の要因があったのかはわからないが、取り合えず目的は果たせた。
あの感じでは悪いようにはならないと思い、冒険者ギルドに足を運んだ。
コウがテリオス商会の店を出ていった後、ガッシュをはじめ他の従業員らしき人達がマーロンの周りに集まっていた。
「キャロル~今日は店じまいだよ。」
マーロンに言われて受付にいた彼女は、入り口に【Close】の看板を出し扉に鍵を掛けた。
「おババ!今のガキは何者だ?」
ガッシュの言葉に、受付にいたキャロルも感想を話す。
「彼が店内に来たときは何も感じなかったに、魔道具のショーケースを見ていたら急に魔力を感じて、おババ様が帰ってきたら完全に魔力が消えたのにビックリしました。」
「もしかして!鑑定魔法?」
ソフィアが驚いた表情を見せる。
「それは無いだろう~鑑定魔法はおババみたいに魔力の高い魔導士か、教会にある魔道具でしか使えないはずだ!」
「おババ様!彼を鑑定しましたか?」
キャロルの言葉にマーロンは厳しい口調で答える。
「人様を勝手に鑑定するのは神を冒涜するようなもんだよ。」
「すみません~言葉が過ぎました。」
キャロルはシュンとしてうつむきながら謝る。
「仮に鑑定したとしても魔法が弾き返されたかもしれないよ。」
マーロンはあの時鑑定魔法を使わなかったのは、彼が持っていたバックに違和感を感じたとは言わなかった。
「彼の目的は何でしょうか?先ほど錬金術師を目指していると言われましたが~」
ソフィアは自分のポケットに入ってある魔道具を取り出す。
「ホントに冒険者かどうかも怪しく思えるし、テリオス商会と取引がしたい他国の商人かもしれませんね!」
キャロルが気お取り直すと、ガッシュが笑いだす。
「テリオス商会がどういう店かはギルドでわかるだろう!」
ソフィアは手にした魔道具を見つめながらつぶやいた。
「もし錬金術師であればこの魔道具を作れるのかしら?」
「ソフィア~しばらく彼の様子を調べておくれ。」
マーロンから言われて彼女はコクリと頷く。




