63. 目的
グラッサの町にある中央広場の停留所に無事到着した相乗り馬車の一行。
町の検問で商人の荷馬車とグレン達の護衛馬車は別々の方角に移動し、グレン達とはその後、ギルドで落ち合う約束をしていた。
「兄ちゃん!ここでお別れだ、また何処かで会うことになるだろう!」
「オリバーさん~色々有難うございました。」
オリバーが手を挙げて商店街の方に歩いて行った。
馬車の乗客達もそれぞれ荷物を抱えて移動を始めていたが、年配の老人が1人その場に立っていた。
確か王都にあるボルタック商会の番頭さんだったかな?
「どうかされましたか?」
掛けなくてもよい言葉をつい掛けて、老人から睨まれてしまった。
「君はお節介好きの男のようだな!」
「同じ馬車で旅をしたもの同士です。気になっただけですよ。」
すぐに老人の傍に若い男2人がやってきて老人のカバンを預かる。
「私はボルタック商会の番頭をしているベルガーという。君のお陰で無事到着したかもしれないし、これも何かの縁だ!店に寄った際は私の名前を出しなさい~さすれば融通が利くだろう!」
「そうですか~ベルガーさん有難うございます。俺はコウと言います。冒険者をやっていますので、何かあった時はよろしくお願いいたします。」
オリバーが言っていた言葉を思い出し、社交辞令の挨拶はしておこう!
ベルガーは若い男と共に、町の中へ消えていった。
広場に1人だけになって、ここに来た目的を思い出していた。
「まずは町の中を見て回ろう!」
円形の中央広場から十字に道が開けおり、商店街が多く並んでいる道を選び歩き出した。
さすがは王都の次ぐ都市だけあって、露店や飲食店・酒場が多く並んでいる。
行き交う人も多く、冒険者らしき風貌の人達の姿も多く見られる。
一通りお店をチェックして、お腹が空いていたので気に入った1軒の酒場に入った。
「いらっしゃ!お好きなテーブルに掛けて下さい。」
日が落ちるにはまだ早い時間だが、店の中は思ったより広く結構にぎわっている。
すぐにメイド姿の若い女性が注文を聞きにくる。
よく見ると耳が尖っており~エルフだ!
この世界のメイド姿と言えばエルフなのか?
いやそんな事はない、普通の人族もいる~いや耳がモフモフやシッポがあるメイド姿をした女性もいる。
ついつい見とれてしまったが、大きな町だけに色んな人種がいるようだ。
後で聞いた話によると、人族の数が一番多く、次にエルフ族(人間社会にいるのはほとんどがハーフエルフで、ハイエルフやダークエルフは森から出ないらしい)・ドワーフ族・獣人族(猫人族・犬人族)・竜族の割合で数が少ない。
例外として以前は人族の次に多く存在した魔族がいたが、人族と魔族の争いが各国で起こり魔族はほとんど絶滅し、今は辺境の土地に数百人程度しか生き残っていない。
店の中の客を観察しつつおススメの食事を頼み、しばし目の保養と決め込む。
「おまたせしました~ボアステーキとクリームシチューです。それにパンと果汁水も置きますね。」
「有難う!これは美味しそうだ~」
肉がアメリカンサイズでデカい~食べ応えがありそうな量だ!
お腹も空いていたせいもあり、綺麗に食べ挙げて満足です。
店員にギルドの場所を聞くついでに、魔導士が経営する道具屋の事も尋ねた。
「魔導士の道具屋ですか?」
店員が考えていると、近くのテーブルで飲んでいた2人組の男が声を掛けてきた。
「テリオス商会の事だろう!兄ちゃんは冒険者かい?」
「はい、駆け出しですけど一応冒険者登録しています。」
「そうかい~冒険者には便利な店だが、高ランクの冒険者か金持ちしか相手にしない店で有名だぜ!」
話し掛けてきた男に店の場所を教えてもらい、お礼にエールを2人におごった。
「悪いな兄ちゃん~あの店に用事があるのかい?」
30代位の男は、エールを受け取ると機嫌がいいのか店の事を色々話してくれた。
事前に店の話しが聞けたのは、運が良かった。
2人にお礼を言って酒場を後にした。
酒場を出てから、教えてもらったテリオス商会の前にたどり着いた。
店のたたずまいはこじんまりしていて、入口は小さく今にも壊れそうな扉だ。
老朽化が進んでいてぼろい建物だが、店の中に入ると思ったより広さがあり左側には部屋がありくつろげるイスとテーブルが置いてある。正面のカウンターの後ろには別の場所に行けるような扉、見た目どうり全て古い様に見えるが・・・なぜか違和感を感じる。
「いらっしいませ~何かご入用ですか?」
カウンターにいる若い女性が声を掛けてきた。
「初めてこの町に来たので色々見て回っているんですが、このお店は何を扱っていますか?」
「冒険者の方ですか?失礼ですが~ランクは?」
「駆け出しの冒険者で、Eランクです。」
「Eランクの冒険者の方ですね。」
彼女はランクの確認と俺の装備を眺めてから、カウンターの後ろの棚に並べてある商品を指差し丁寧に説明を始めた。
「当店は主に薬を扱っている道具屋です。冒険に必要な傷薬・毒消し薬に一般的な腹痛や便秘に効く薬に、風邪薬と解熱鎮痛薬に避妊薬もあります。また値段は高くなりますが速効性がある初級回復ポーションもあります。あと魔道具もあちらのショウケースにありますよ。」
説明と同時に商品も確認したが、一般的な道具屋の商品だ。
「初級以外のポーションは置いていないのですか?」
「中級ポーションは受注生産で、ギルドからの依頼しか受けていないのでお店では販売していません。」
「ポーションはここで作っているんですか?」
「私は販売員なので、詳しい事はわからないんです。」
俺の質問に困惑している彼女をみて、これ以上は聞かない方が良いと判断した。
「すみません~企業秘密ですよね~」
俺は笑いながら彼女にお礼を伝え、魔道具があるショウケースに移動し商品を眺める。
指輪・ネックレス・ブローチ・髪留めが何種類も飾られている。
俺は鑑定魔法を使い魔道具の効果とランクを調べた。
以前セシール村の道具屋で売られていた同じ値段の商品より、明らかに性能が良く適正表示だった。
全ての魔道具をチェックしていると、入口から冒険者らしい背の高い男とその後ろから老婆が入って来た。
「お帰りなさい。」
店員の彼女が言葉を掛けると、俺は慌てて鑑定魔法を止めて入り口の方を向いた。
2人は一瞬俺を凝視したが、首を少し下げて隣のテーブルがある部屋に向かい老婆だけがでイスに腰かけた。
老婆がイスに座ると部屋の奥にある扉が開いて、中から若い女性がお茶を運んで来た。
「お疲れ様です。領主様のお話は如何でしたか?」
耳が尖っているのでエルフだと思われる背の高い女性は、テーブルにお茶を差し出すと尋ねた。
出されたお茶をゆっくり口に運んで老婆が話す。
「無理難題な話なので、すべて断ってきたよ。」
「切り落とされた腕と足を元に戻す回復ポーションなんて今の時代にあるわけないだろうに、領主様の言葉は無茶苦茶だったな!」
低い声で話す男は老婆の後ろに立ったままで、腰に剣を携えているので護衛のようだ。
「まあ~領主も王宮からの書状で困惑しているんだろうな!」
老婆はお茶を飲みながら、1枚の紙をエルフの女性に渡した。
紙を受け取った彼女は、お辞儀をして部屋から出て行った。
隣の部屋のやり取りを見ていた俺は、その時老婆と目が合ってしまった。
直感的にマズイと思い直ぐに目をそらし、店員の彼女にお辞儀をして俺は店を出る事にした。
「また来ます。」
言葉を掛けて入り口の扉を開けようとした時、老婆から声を掛けられた。




