62. グラッサの街
ブラックウルフの集団に襲われていた奴隷商人を助けたコウは、檻の中にいた少女を見て動揺を隠せなかった。
「兄さんは徒歩で旅していなさるのかの~」
ヘッパーが俺の表情を見ながら訪ねる。
「いや乗り合い馬車でここまで来ました。」
「あんた!俺たちを助けるために、わざわざ駆けつけて来てくれたのか?」
護衛の男が驚いた表情でいる。
「襲われているのを、見過ごせなかっただけです。」
「変わっているな~普通は通り過ごすぜ!」
その通りなので、作り笑いで胡麻化した。
「でも、そのおかげで助かった~有難うな!」
「俺はコウと言います。冒険者になってまだ日が浅いですし、護衛依頼は受けたことはありませんが護衛依頼の厳しさは聞かせれています。」
「名乗るのが遅くなったが、俺はレクサ・Dランクパーティー【風月】のリーダーを務めている。」
「Dランク!」
よく見ると彼ら3人は20代前半で、装備は新人が使用するレベルの低い武具ではないようだ。
「驚くのも無理ないな~ブラックウルフ相手にこのざまじゃな~」
レクサはバツが悪そうな表情をして、言葉を続けた。
「本来は5人パーティーなんだが、魔法使いと僧侶の2人が女性の日で教会にこもっていて参加していないんだ。それに仲間の1人も前回の迷宮探索での怪我が治らないまま護衛の依頼を受けてこのザマだ!」
「そうだったんですか~魔法が使えなければ集団の魔物は苦戦するし、仲間も怪我して治っていないのになぜ護衛の依頼をうけたのですか?」
「ヘッパー爺さんの護衛は依頼料が高いんで~それに治療費にお金が必要でね・・・」
レクサは申し訳なさそうに頭を掻く。
「兄さんは腰に剣を携えているが、剣も魔法も使える職業なのか?」
レクサの隣にいたもう1人の仲間の男が、落ち着いた声で聞いてきた。
「職業は【薬師】で、剣は飾りです~それに魔法もEランクの初級程度です。」
「ほう!生産系の職業か、珍しいな~それにEランク?・・・それ以上の実力がありそうだが?」
レクサは鋭い眼光で見つめる。
「確かに剣も防具もギルドで購入した初心者物だし、魔力もそんなに感じられないな~」
レクサの意味深な言葉に、隠ぺい魔法を掛けていて良かったと思った。
レベルの高い冒険者は魔力を肌で感じるらしいし、鑑定魔法を使える冒険者もいるはずだからバレない様に日頃から気をつけていて正解だった。
「兄さんはこれからどうするんだ?」
「乗り合い馬車の宿営地まで戻ります。」
「そうか、俺たちは暫くグラッサの町に滞在するので、何かあれば声を掛けてくれ~今回のお礼がしたい。」
レクサはそう言って笑ってくれた。
出発できる準備が出来たみたいで、ヘッパーが近づいてきた。
「兄さん!ワシらはこのままグラッサの街まで移動するが、彼女はどうされるかの~」
「彼女の足は骨折していて歩けませんので、このまま連れていってもらえませんか?」
「それは構わないんじゃが、とりあえずワシの商館で預かっておくから落ち着いたら引き取りに来なさればいい。それまではちゃんと面倒は見てやるから安心しなされ。」
奴隷商人と聞いた時は危ない老人と思ったが、ヘッパーは紳士であるようだ。
「だだし、早めに引き取りにきて頂かないと売りに出すかもしれませんがの~」
ヘッパーの冗談めいた言葉に焦った俺は、当分の生活費として金貨をヘッパーに渡した。
彼女の世話をしてくれているメルンも、傍に置いてくれるように別に金貨を渡して頼んだ。
ヘッパーは金貨を受け取ると、上機嫌で馬車に乗り込んでいった。
メルンに彼女の名前を教えて、しばらく面倒を見てほしいと頼んだ。
メルンは微笑んで引き受けてくれた。
ヘッパーの馬車はすぐに出発した。
俺は馬車を見送ると、今日の宿営地の場所に向かった。
日が落ちる頃に今日の宿営地の場所に止まっている乗り合い馬車に合流できた。
アデルとグレンに事の経緯を伝え終えると、オリバー達が休息を取っている焚き火に当たり一息入れた。
「兄ちゃん首尾はどうだった?」
オリバーが隣に腰掛けた。
オリバーにも事の経緯を話すと、ヘッパー老人の奴隷商人は知っていたみたいで、商館の場所を教えてくれた。
「奴隷も使い方次第で冒険の役に立つ。奴隷商人と知り合いになっていて損はないぜ!」
「いやいや奴隷を買うなんて~考えられません!」
「変わっているな兄ちゃんは?冒険に奴隷を使うのは当たり前だ。」
オリバーは奴隷について詳しく説明をしてくれた。
パーティーに自分の奴隷がいると、宝物や報酬の分け前は当然主人のものだし、それに主人の命令は絶対で裏切る事はない。
戦闘もできる性奴隷であれば娼館に行く必要もなくなり、夜の面倒も見てくれるので迷宮の深層部を目指すパーティーには必要な人材だという。
ただ戦闘力重視の奴隷は本人の意思を尊重しなければならず、強制は出来ないとの事だ。
「グラッサの町には娼館が多いから、必要なら紹介するぜ!」
オリバーの言葉に顔が緩んでしまった。
「その時はぜひお願いします、」
俺は社交辞令の言葉をかわし、夜遅くまでオリバーと話が弾んだ。
セシール村を出発して5日目の朝が来た。
「今日の昼頃にはグラッサの街に入る検問を通過して、そこから約2時間ぐらいでグラッサの町に到着します。」
案内係りが皆に伝えると、慌ただしく移動の準備に取り掛かっていた。
「やっとグラッサの街に着きますね~」
「一時はどうなるかとヒヤヒヤしましたが、これで一安心ですな~」
乗合い馬車の乗客が笑顔で話す。
俺もオリバーの横に座り少し安堵していると、3台の馬車はグラッサの街に向けて動き出した。
グラッサの街にある検問まで何事もなく順調に進んだ。
「もうすぐ検問所です。検問では身分証を提示して下さい。」
案内係りの言葉に困ってしまった。
「兄ちゃん~ソワソワしてどうしたんだい?」
「オリバーさん~俺、身分証なんて持っていませんよ!」
「ハッハッ~何を言うかと思えば・・・冒険者はギルドカードが身分証の代わりになるぜ!」
「エッ!そうなんですか~ギルドカードは便利ですね。ちなみに無ければどうなります?」
「まあ~検問所の詰め所で取り調べられて、問題がなければ通行料5銀貨を支払えば通してもらえるかな。」
オリバーは笑いながら教えてくれた。
言われた通りに、身分証の提示にギルドカードを出した。
内心ドキドキしながらだったが、無事検問を通れた。
「皆さん~後2時間ぐらいで町の入り口に着きますよ。!」
案内係りの声も、いつもよりトーンが高い。
検問を通り過ぎると、辺り一面麦畑が広がっており、チラホラと民家も見える。
「兄ちゃんはグラッサーは初めてだったな!」
「はい!どんな町なのかワクワクしています。」
「グラッサの町は別名迷宮都市と言われていて、ダルリア第Ⅰ迷宮と第Ⅱ迷宮がある。この迷宮のお陰で冒険者や商人がこの町に多くやってくるので町は潤い、色んな施設があるし長く滞在しても飽きないぜ!ただし気おつけるのは貴族だ!ここいらすべてダリヤ辺境伯の領地で、王宮に次ぐ権力を持っているから関わらないのが一番だ!」
オリバーいわく、辺境伯の配下の貴族が厄介だと教えてくれた。
「忠告有難うございます。」
オリバーとは今後も付き合える関係でいたいと思ったら、オリバーから先を越された。
「兄ちゃんとは今後も付き合っていけそうだな!よろしく頼むぜ!」
「オリバーさん~こちらこそよろしくお願いします。」
オリバーと意気投合していると、グラッサの町に入る城門に到着した。
門番の兵士はいるが、有事でない限りここは素通り出来るとの事で、何事もなく町の中に入れた。
「皆さんお疲れ様でした~グラッサの町に到着です。」
案内係りのアナウンスで、俺はグラッサの町に降り立った。




