61. 奴隷商人と少女
襲われている荷馬車を見捨てる事が出来ず、つい手助けをしてしまった。
「ブラックウルフはどうなった?」
俺の後方の茂みを見ながら訪ねる。
「何回も魔法を放つと森の奥に逃げて行きました。」
「逃げて行ったのか・・・そうか~有難う!助かったよ。」
「怪我をした方は大丈夫ですか?」
「ああ!中級ポーションのお陰で、命は何とか助かったが、出血がひどくて無理が出来ない状態だ。」
護衛の冒険者達は、仲間の手当と周りの警戒をする。
安全が確認出来ると、檻の上で怯えていた老人と年配の御者の人が降りてきた。
「危ない所を助けてくれて何とお礼を言えばいいのか!ホントに有難う!!」
老人と御者の2人は何度もお礼を言う。
「私は奴隷商人のヘッパーといいます。王都からグラッサの街まで奴隷を輸送している最中に襲われまして、生きた心地がしなかったわい~いや~ホント感謝いたします~」
ヘッパーと名乗る老人は、檻の中の奴隷達が怪我をしていないか確認していた。
檻の中には男が4人、女が8人座っている。
「ヘッパーさん、この人達は全員奴隷なんですか?」
「そうじゃのう~男達は犯罪奴隷で、他は主に借金奴隷で身売りされた女達ですわ!」
男達は手かせに首輪、女達は首輪だけがされており、衣服もボロボロの布切れを着けているだけの姿だ。
「おや!ヘッパーさん~檻の中にいるこの女性も身売りされた人ですか?」
檻の端でうずくまっている1人の女性が目に映った。
彼女だけ首輪もなく、衣服は汚れてはいるが布切れの服ではない。
「そうそう!彼女は身売りではなく輸送の途中で拾ったんだわ!」
「拾った~彼女の名前は?顔を見ても構いませんか?」
うつむいていて顔はわからないが、全体の雰囲気が異世界の住人ではない感じがした~もしかしてあの時召喚された彼女では!
「うむ~困ったことに彼女は記憶を失っているようで、自分の名前もわからないんじゃわ!」
「記憶がない!・・・何があったんだろう?」
「兄さん~彼女のお知り合いかな?・・・これでもワシは真っ当な奴隷商人じゃで、奴隷でもない人間の身売りは本人の承諾が必要なんじゃが、記憶もないので扱いに困っているんじゃ~知り合いであれば引き取って貰いたいんじゃがの~」
へッパーに了解を得てから檻の中に入り、彼女の隣に座る。
彼女の顔を見るなり確信がもてた~間違いなく召喚された彼女だ!
「あの~俺の事を覚えていますか?」
彼女は顔を上げて、俺を見つめるが何の返事もない。
顔にも擦り傷があり、怯えている目をしている。
彼女の横にいる小柄な少女が、彼女の代わりに返答した。
「彼女のお世話をしていますメルンと言います。彼女は頭の怪我で記憶を無くしているみたいで、自分の名前や何処にいたかも覚えてないそうです。」
奴隷少女のメルンは、行き倒れていた彼女の世話をするようヘッパーから言われているようで、怪我の手当を親身になって行っている。
「彼女の怪我は酷いのか?」
彼女の状態が気になる。特に右足に添え木をあてて布で縛っている部分だ!
「はい、頭の傷は血が止まりましたが、右足は骨が折れているようで動けません。」
メルンは自分が来ている服の一部を切り裂き、彼女の為に添え木で手当てしたようだ。
「彼女は何者かに襲われたのか?」
「彼女が倒れていた場所は、狂暴な魔物がいるイザベェルの森に続く森林の方角で、魔物に襲われて
逃げてきた様子でした。」
メルンは彼女の傷だらけの腕や、背中にも大きな傷があるのを教えてくれた。
「もしお知り合いでしたら、診療所で診てもらえるようにお願いします!」
メルンは丁寧に説明をして、小さなバックを渡してくれた。
「このバックは、彼女と同じ場所で拾いました。」
メルンから渡されたカバンは明らかに異世界の物ではなく、自分達がいた世界の物に間違いはない。
女性のカバンの中身を覗くのは失礼だが、彼女の事が分かる物があるかもしれない。
自分に言い訳をしながらカバンの中を覗く。
若い女性なら裁縫道具や化粧品とか香水、それに携帯に財布があると思ったら何もない~あったのは薄いハンカチーフ1枚だけだった。
「中身はハンカチーフだけか?」
現代文明の物は転送しないのか?・・・俺が召喚された時は、カバンも無かったな~
期待したぶん少し落ち込んだが、手にしたハンカチーフを広げて見ると、名前が刺繍されてあった。
文字はカタカナで【タカコ】と刺繍されていたので、彼女の名前はタカコだろう。
「私もカバンの中身を見ましたが、この布切れ1枚しか入っていませんでした。」
ハンカチーフの名前を見ている俺に、メルンが教えてくれる。
名前の事は話さないので、カタカナは読めないようだ。
彼女には悪いと思ったが、せめて名前の確認をしたいので鑑定させてもらった。
【名前】 :【タカ・ヒメ】 【HP】 :【・・・】
【種族】 :【人間】 【MP】 :【・・・】
【年齢】 :【16歳】 【ATK】:【・・・】
【レベル】:【レベル1】 【DEF】:【・・・】
【ファーストジョブ】:【 ・・・】 【魔力】 :【・・・】
【追加ジョブ】 :【 ・・・】 【AGI】:【・・・】
【システムスキル】 :【 ・・・】 【魅力】 :【・・・】
【経験値スキル】 :【 ・・・】 【LUK】:【・・・】
俺の時と同じだ!空白欄があるという事は、まだ表示条件を満たしていないからだな。
でも今知りたい名前は【タカ・ヒメ】・・・
この世界では、本名は表示していなかったはずだ。
俺の光翼は【コウ】・志賀崎は【シバ】の表示だから、彼女の名前はタカコで呼び名は【タカ】・名字の【ヒメ】は色々考えられるので、今はやめておこう!
「彼女の名前は【タカ】です。同じ村の出身です。」
このままでは彼女は身売りされると思い、俺は彼女を引き取る為に嘘をついてしまった。
「そうかそうか~兄さんの知り合いか~それじゃ引き取ってもらえるかの~」
「いや、この状態では無理なので!・・・グラッサの街まで連れて行ってもらえませんか?」
「そりゃそうだ!助けたもらったお礼もしたいので、グラッサにあるワシの店に寄っておくれ。」
ヘッパーは笑いながら、俺の耳元で小声でつぶやく。
「ワシの店は質が良く色んな種類の奴隷を扱っております~性奴隷もご希望があればお安くしますよ~」
「性奴隷!いやいやそれは犯罪で捕まりますし、本人も嫌がるでしょう!」
「何を言いなさる!身売りされた奴隷は買い手が付かなければ娼館に売られます。買い手もつかず娼館で一生を終えるよりは性奴隷を承諾し、気に入った男性に引き取られる方が安心できるというもんじゃがな!」
ヘッパーの言うことは、この世界では当たり前の事みたいだ。
奴隷制度はこの世界では公認されていて、必要不可欠な商売と認識されている。
奴隷にも最低限の人権があり、買い取り主は衣食住を保証する義務が発生し、本人の承諾なしの性行為は禁止、監禁・拷問等ももちろん禁止されている。
ただ、どの世界でもあるように極悪人の奴隷商人もいるので、下手に関わると同じ罪で牢獄行きになるので気をつけるようにアドバイスを受けた。
俺が女に飢えているように見えたのかはわからないが、犯罪行為は絶対にしてはいけない。
だが・・・合法的な娼館なら・・・一度は行って見たいと思うコウであった。
こちらの世界は男性より女性の割合が多く、たしか一夫多妻は認められていたな。
一般庶民ではあまり見かけないが、貴族や金持ちは当たり前のようにいるようだ。
まだ結婚をしているわけでもないし、健全な男であれば仕方のない事と自分に都合の良い言い訳をして期待を膨らませていた。




