60. 子供?
想定外の出来事に遭遇したが、結果的に誰も命は落とさなかった事に感謝している冒険者達!
コウはアデルとグレン達と話が済むと、その夜は安心して睡眠が取れたようだ。
4日目の朝は、誰よりも早く目が覚めた。
草むらで朝の用を済ませると、小さな黒蜘蛛の集団が俺のアイテムバックに入って来た。
「シノ!この小さな蜘蛛は何だ?」
今まで見たことがなかったので、驚いてしまった。
「驚かせて申し訳ありません!ご主人様がこんなに早く起きるとは思っていませんでしたので、私の分身の回収が遅くなりました。」
「シノの分身!」
「はい~ご主人様の魔力のお陰で子供が沢山出来ましたので、夜の哨戒に当たらせていました。」
「俺の魔力で子供が出来たと?・・・」
「ご主人様との子供です。」
「いやいやいやまてまて!俺はシノと子供が生まれるような事はしていないぞ!」
「ご主人様の魔力に包まれたシノの体は、子供が出来る条件を満たしております。」
「要するに、俺の魔力を浴びたため~子供が出来たという事なのか??」
「一緒に過ごして居れば、ごく自然な現象かと思います。」
シノの言い分に、反論する気力が薄れてしまった。
俺の常識はここでは通用しない。
「子供の件はいいとして~くれぐれも他人にバレない様に!」
「承知しております。このまま大きく育てば何匹かは人族化に擬態出来ると思います。」
「人間の姿になれるのか?」
「ご主人様と私の子供であれば当然かと~特に最初の子は、ご主人様と私の魔力を強く引き継いでいます。」
シノは嬉しそうに話す。
子供が出来たことは嬉しい~しかしその行為を行う過程が大事で・・・俺は・・・・・
これ以上考えるのはやめよう!
シノとの会話を切り上げ、出発の準備に戻った。
「出発!」
係員の号令で3台の馬車は動き出した。
「この先の街道は比較的安全なので、安心できますな~」
「あと2日でグラッサの街に着く~もう少しの辛抱だ。」
乗客の声が聞こえてくる。
4日目の移動は何事も無く順調に進んだ。
もう少しすると夕暮れになる頃、斥候のガルテノが戻って来て先頭の馬車にいるアデルに話しをしている。
先頭の馬車が止まり、係員から休息の指示が出された。
「今日の宿営地までもう少しかかります。皆さんは休憩して下さい。」
乗客らは馬車から降りて、一息ついていた。
俺も馬車から降りて、近くの場所に腰を下ろした。
辺りの景色を眺めていると、ミエールが傍に来て耳打ちに話しをしてきた。
「コウさん、ガルテノと下見してきたけど、この先の分かれ道があり近くの茂みにブラックウルフの集団がいたの!」
「ブラックウルフ!・・・強い魔物なのか?」
ウルフといえばココの従魔と、ロキのモフモフした可愛い姿しか思い当たらない。
「Ðランクの魔物で、集団で行動しています。頭がよく統率が取れていて狂暴です。レベルの低い冒険者では簡単に命を落とすと聞いています。」
「で・・・どうするつもりなのか?」
「グレンさん達が協議していますが・・・たぶん、振り切って一気に走り抜けるのではないかと思います。」
アデルの体も本調子ではないし、下手に戦って怪我人が出るよりも戦わず逃げるのも選択のひとつだ。
俺が口を挟みことではない!彼らの判断に任せよう。
ミエールが俺に伝え終わると、すぐに元の場所に戻って行った。
馬を休ませていた御者が馬車を引く準備を始めた。
「皆さん~出発の準備をします。」
係員の合図で乗客や荷馬車の人達は馬車に乗り込んだ。
馬車が動き出すと、相乗り馬車の御者が乗客に知らせてくれた。
「もう少し進むと全速で走り出すから、しっかり捕まっていてくれ!」
乗客の顔が強張っているが、声を出す人は誰もいない。
「このような状況はよくある事だ!」
オリバーが涼しい表情で教えてくれた。
ゆっくり動いていた馬車は、徐々にスピードを上げて行く。
ミエールが教えてくれた街道の別れ道にさしかかると、ブラックウルフの集団が1台の大きな荷馬車を取り囲んで襲っていた。
荷馬車は街道の分かれ道から近くの茂みで、車輪がぬかるみにはまって動けなくなっている。
護衛の冒険者が戦っているのが遠目から見えたが、馬車のスピードは一向に落ちない。
「オリバーさん助けにはいかないんですか?」
俺はてっきり加勢に行くもんだと思い込んでいた。
「今、馬車を止めるとこちらにも被害が出る。襲われている連中には申し訳ないが、護衛を引き受けている以上覚悟はしているはずだ。」
オリバーは厳しい口調で、元冒険者としての説明をしてくれた。
オリバーのいう事は理解できる。・・・できるが目の前で起こっているのをどうしても見過ごせない。
「オリバーさん!様子を見てきます。今日の宿営地に戻らなかった、そのままグリッサの街に移動して下さい。」
オリバーに伝えるのと同時に体が勝手に動いてしまった。
「兄ちゃん~無理せず必ず戻ってこい!待ってるぜ!!」
馬車から飛び降り、襲われている荷馬車の様子を伺う。
普通の荷馬車と違い、大きな檻にボロボロのホロが気持ち程度に掛けられており、檻の中には人が10人程入れられている。
荷馬車の雇い主と思われる小柄な老人と御者の2人は、檻の上に逃げて怯えている。
護衛の冒険者達はといえば、1人は足と腕を噛まれて荷馬車の横でうずくまって動けないようだ。
もう2人はブラックウルフに囲まれて防戦一方で分が悪そうだ。
「シノ!荷馬車の周りにある樹木に移動し、ブラックウルフを足止めしてくれるか!」
「承知致しました。子供達にも手伝わせます。」
「くれぐれも見つからないように、頼んだ!」
シノは黒蜘蛛の姿のまま、子供たちを引き連れて移動した。
コウは助太刀するタイミングを探していた。
ブラックウルフは全部で12匹いるが、4匹は倒れている。
俺は新たに土魔法を覚えていた。
多分リナが使用したストーンブラスト(石つぶて)を見て使えるようになったんだろう!
この魔法なら威力は小さいが、何回も使えるし初級冒険者として振舞える。
強化魔法で、攻撃力・防御力を上げて、護衛の2人が防御の限界を超えてブラックウルフに飛びつかれた瞬間にストーンブラストの魔法を放った。
「キャインー」
飛びついたブラックウルフに空中でストーンブラストが命中した為、悲鳴と共に飛んで行った。
護衛の2人はもうダメかと思った瞬間だったので、目の前の出来事にあっけに取られながらもすぐに状況を判断して剣を構え直す。
俺は近くにいるブラックウルフ目掛けてストーンブラストをやみくもに放ち、シノが待ち構えている茂みの方に追いやった。
「大丈夫ですか?」
「助かった!手を貸してもらえるか?」
2人は怪我はしているが命には問題はないが、もう1人の方は怪我が大きく出血がひどい。
「気おつけてくれ!茂みに逃げたがまたすぐ襲って来るぞ!」
「分かっています~魔物は俺に任せて、それよりも仲間の治療を優先したほうがいい!」
「わかった!頼む!」
俺は茂みの方に逃げたブラックウルフを追いかけて、その場を一時的に離れた。
茂みの中に入ると、逃げ込んだブラックウルフは全て始末されていた。
「ご主人様、お怪我はありませんか?」
シノが念話で話しかける。
「大丈夫だ!まだ何もしていないようなものだ。」
8匹のブラックウルフもシノの手にかかれば、赤子の手をひねるような物みたいだ。
「それにしてもシノは凄いな!」
「ご主人様、私は何もしていません、全てこの子供達です。」
「エッ!子供達だけでこの魔物を仕留めたのか?」
「まだまだですが、いずれはご主人様の役に立てるよう精進させます。」
「もう十分に役に立っている!」
シノの感覚に微妙なズレを感じたが、俺の事を思っての事と理解している。
ブラックウルフをこのままにしておくとマズイのでアイテムバックに収納して、シノと子供達を回収した。
如何にも苦戦した表情を作って、荷馬車の近くで治療している冒険者の元に戻った。




