57. 代償
定期便に支障が出ると判断したアデル達は、護衛の仕事を優先し先行して魔物の討伐を試みていた。
最後の一匹だと思われたホワイトボアを目の前にして、油断してたアデル達。
近くの茂みから現れたオークに気付くのが遅れた。
オークは大きな石の斧を振り回してアデルを吹き飛ばした。
不意を突かれたアデルは槍で直撃を防いだが、勢いよく飛ばされて気を失ってしまった。
「アデル!ニック!大丈夫か?」
一緒にいたニックも吹き飛ばされたが、アデルの後ろにいたので衝撃が少なかったようだ。
「俺は大丈夫だが、アデルが重傷だ!」
「ホワイトボアが突進して来るぞ!」
モーリスがホワイトボアに狙いを定めて矢を射る。
「ガルテノ!アデルとニックを頼む!」
吹き飛ばしたアデル達に襲い掛かろうとしているオークの注意を引き付けるため、グレンはオークに向かっていった。
モーリスの攻撃はホワイトボアの勢いを止める事は出来ず、そのままモーリスに体当たりをしてきた。
「失敗だ!」
魔物の攻撃を自ら真横に転がり辛うじて避けたが、足を痛めてしまったモーリスは痛めた足を引きずりながら茂みに逃げる。
「モーリス!そこに隠れて動くな!」
グレンがオークに攻撃を加え、体制を立て直しながらモーリスに声を掛ける。
「ガルテノ!!ホワイトボアがそちらに突っ込むぞ!」
アデルは血だらけで地面に倒れたまま動かない。ニックは意識はあるようだ。
ガルテノはホワイトボアの注意を自分に向けさせ、オークと反対方向の茂みに走った。
ガルテノの読み通り、追って来る魔物を途中で反転して真上からナイフを突き刺した。
魔物の悲鳴と共に、激しく振り払われて飛ばされ木に体を打ち付けてしまった。
傷を負った魔物は、ガルテノに向かった突っ込んでくる。
直ぐに動けないガルテノはナイフを構えて魔物の眉間を狙う。
ガルテノが目を閉じた瞬間に、ガルテノの影からロキが飛び出し魔物の首に嚙みついた。
ロキに噛みつかれたホワイトボアは、地面に倒れたままガルテノを睨みつけ起き上がろうとしている。
「ロキありがとう!」
ガルテノは息を整えると、起き上がり地面に倒れているホワイトボアにとどめを刺した。
「ロキ!僕は大丈夫だから、コウさんに知らせてほしい!」
ガルテノがロキの頭を撫でながらお願いをすると、ロキは頭を下げて後ずさり暫くして走り去った。
グレンはオークの攻撃を避けるのが精一杯で、最初の一撃以外は近寄る事も出来ない。
「大丈夫か?無理をするな!」
ニックが体制を立て直して、グレンの加勢に加わった。
「アデルは大丈夫なのか?」
「気を失っており、傷も深く危険な状態だ!」
「逃げるにも逃げられそうにもないな!」
「ああ!やるしかないな!」
グレンとニックはオークの左右に展開し、チャンスをうかがう。
石の斧を振り回して攻撃するオーク!
その背後から気付かれないように近づき一瞬の隙をついて、ガルテノが上空から背中に飛び乗り首を絞めつけた。
オークはもがきながら体を回転し、自分の体を木にぶつけてガルテノを払い落とす。
オークの巨体と木に挟まれたガルテノは、息が出来ない状態のまま地面に倒れる。
「ガルテノ大丈夫か!」
声を掛けるのと同時に、グレンとニックが左右から攻撃する。
悲鳴を上げながら石の斧を振り回し、グレンとニックを吹き飛ばす。
そのまま木の下に倒れているガルテノに向かって石の斧を振り下ろすオーク!
絶体絶命的な状況になった時、オークの背中に矢が刺さり悲鳴を上げて振り向くと、オークの顔目掛けてロキが飛びつく。
オークは反射的に後ろに倒れこんだが、直ぐに立ち上がり矢が飛んで来た方向を向く。
次の瞬間に、オーク目がけて火球と石つぶての魔法が大きな体に直撃してそのまま倒れこんだ。
倒れこんだオークの首元にロキが噛みつき、再三の火球と石つぶての魔法攻撃に弓矢が容赦なくオークの全身に浴びせられた。
ロキの牙による攻撃で動けないオークに、ミエールが矢で心臓を射抜くと断末魔の悲鳴と共に動かなくなった。
「ガルテノ~大丈夫!死なないでよ~」
ミエールがガルテノの傍に駆け寄り抱きしめる。
「ミエール~助けに来てくれたのか~」
木に打ち付けられた衝撃で気を失いかけていたが、ミエールの声で意識を持ち直した。
「よかったわ~もう大丈夫よ~ロキが知らせに来てくれたお陰だわ!」
「グレンさん大丈夫ですか?」
「コウ殿!助けて頂いて感謝する。」
グレンの傍にはリナとユナの姉妹が駆け寄る。
「お兄ちゃん!大丈夫~しっかりして!ユナ早く回復魔法を!」
動揺しているユナに、リナは回復魔法を促す。
「ヒール・・・ヒール・・・」
「ユナありがとう!もう大丈夫だ。それよりガルテノや他の仲間にも回復魔法を掛けてやってくれ!」
グレンが回復して安心したようで、ユナは落ち着きを取り戻した。
「分かったわ!私が皆を回復して来るわ!」
ユナはグレンの傍から立ち上がり、直ぐに行動を起こした。
「グレンさん~間に合って良かったです。」
「コウ殿・・・面目ない!」
「何を言っているんですか!相手はCランクのオークですよ!命があるだけでも運が良かったです。」
「そうですよグレンさん!Dランクのホワイトボア2匹だけでも凄いのに、オークまで倒せたんですから自慢しても良いと思いますよ。」
ユナの回復魔法で動けるようになったガルテノが、ミエールに抱えられながらやってきた。
「ガルテノもよく戦ってくれた!感謝だ。」
グレンがガルテノの姿を見て安心したようだ。
「コウさん~ロキの助太刀を指示して下さり感謝します。」
ガルテノはコウの傍にいるロキの頭を撫でて、コウに感謝している。
「ガルテノさん気にしないで下さい。ロキの助太刀はミエールさんの依頼でして、感謝なら彼女にして下さい。」
ガルテノはミエールを見つめてそのまま抱きしめた。
2人の姿をリナが羨ましそうに眺めていると、ユナが走って戻ってきた。
「お兄ちゃん!回復魔法を何回も掛けても治らないの!」
ユナはどうしていいか分からない表情で訴える。
ユナの案内で移動すると、そこには意識のないアデルが倒れた状態でいた。
アデルの傍には、ユナの回復魔法で動けるようになったニックとモーリスがいる。
「アデルの意識が戻らないだ!」
ニックとモーリスが不安な表情で、グレンを見つめる。
「コウ殿、アデルを助けてはくれないか?」
グレンに頼まれ、アデルの状態を確認する。
「ユナの回復魔法の重ねがけで表面の傷は治っており、体力も回復してるはずだが?」
内臓の損傷が激しく、ユナのレベルではまだ無理な状態かも知れない。
俺は薬師だ!戦闘より人の命を助けるのが使命だ!
「ポーションを使って見よう!」
ギルドの工房で作成した初級ポーションをアイテムバックから取り出した。
「すまないが、俺もギルドで購入した初級ポーションを使用してみたが、効果は変わらなかった。」
モーリスがすまなそうに呟いた。
「せめて中級ポーションでもあれば良かったんだが、現在は手に入らないんだ!」
ニックが悔しそうに話す。
「血の気が引いてきている、早く治療をしないと手遅れになってしまうよ!」
ガルテノがアデルの顔色を覗き込んで心配している。
「馬車に付き添いの聖女様が居るので、治療してもらうことは可能じゃないですか?」
ミエールの言葉にグレンが口を挟んだ。
「いや、動かす方が危険だ。・・・コウ殿のポーションを使用して貰えないだろうか?」
俺が作った初級ポーションが利くとは思わない。
それに検証もしていないポーションを使用していいんだろうか?
グレンの願いにどうするか、思案するコウであった。




