55. 遭遇
グラッサの街までの相乗り馬車による旅で、2日目の朝がきた。
夜明けと共にすぐに出発の指示が係員から伝えられた。
馬車に乗り込み座席に座るも、なんだかまだ眠い。
「出発!」
係員の号令で、3台の馬車は動き出した。
馬車に揺られながら、日が昇ると目が覚めて頭も冴てきた。
比較的安全な見晴らしの良い街道から、森林の中を通過する街道に入る。
「森林を通過するまで、周囲を警戒して進む。」
先頭を進む馬車から声がした。
風が吹いているのか、周りの樹木の枝があちらこちらで揺れている。
斥候の代わりをしているガルテノとミエールが、前方から戻って来て状況を説明しているようだ。
説明が終わると、馬車の一行は止まった。
「どうして止まるんだ!」
ボルタック商会の番頭が御者に向かって声をたてる。
「魔物か盗賊が現れたんじゃないのか?」
オリバーがボソッと呟いた言葉に、若い夫婦が怯えだした。
「心配いりませんよ~護衛の冒険者達がいますから大丈夫ですよ。」
不安になる乗客に向かって話すと、みんな安堵した表情に戻っていた。
御者の隣にいた冒険者も前方に移動した様子で、グレンの姿も見えない。
真中の馬車の屋根には斥候から戻って来たミエールだけの姿が見える。
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グレンからの指示で、ガルテノとミエールは森林を通過するまでの間、馬車より先行し安全を確保していた。
事前に魔物等の危険な状況と判断したら、知らせに戻る斥候を遂行中異変は起きた。
「前方右側の茂みに何かいるわ!」
ミエールが茂みの中で動いている魔物を発見した。
「気付かれない様に近づいて見てくるから、ミエールはここで待機してて!」
ガルテノが魔物の正体を確認しに動くと、いつでも攻撃出来るよう弓矢を構えて待機するミエール。
茂みの中にいる魔物とその奥にいる魔物は・・・
「アッ!」
ガルテノは奥にいる魔物の正体を確認しようと、つい深入りをしてしまった。
一番近くにいた魔物がガルテノに向かって襲ってきた。
「ガルテノ!逃げて!!」
ガルテノに襲い掛かろうとしているホーンラビットを、弓矢で攻撃するミエール!
ホーンラビットの攻撃をミエールの矢が威嚇したすきに、ガルテノは魔物の範囲から離脱してミエールが待機していた場所まで戻ってきた。
「ミエール!すぐ戻ろう!!」
ミエールはガルテノの無事を確認すると、直ぐに移動した。
犬人族の足は速い!あっという間に魔物との距離をとりグレン達と合流した。
馬車まで戻るとグレンに状況を説明した後、グレンとガルテノは護衛の任務についてる冒険者のリーダーに状況を話した。
ミエールは護衛対象の馬車に戻り、リナ・ユナに状況を説明した後屋根で待機している。
護衛のパーティーリーダーであるアデルは、グレンとガルテノの話しを聞いて馬車の移動を停止した。
「ホーンラビットは問題ないとしても、ホワイトボアの番は厄介だな!」
アデルは仲間の2人と相談をしている。
「ホワイトボアが馬車に体当たりでもしたら被害がでる。馬車の一行を街道から茂みに隠し待機させ、
我々は先行して魔物を討伐する。グレン!すまんが手伝ってくれないか!」
「もちろんだ!ホワイトボアが2匹となると厄介だ!俺とガルテノが一緒に行くが、他のメンバーは護衛に残す。」
「そうしてもらえると助かる!お礼は後ほどする。」
アデルは馬車の御者に指示を出し、冒険者達はガルテノの案内で魔物達がいる場所に移動した。
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アデルの指示で、3台の馬車は街道から少し離れて見通しのよい広場に移動した。
「冒険者達が魔物を討伐する間、ここで待機します。」
係員の言葉で、魔物が出現した事を全員が知った。
「大丈夫ですかね!」
「冒険者達が退治してくれますよ!」
2組の夫婦が心配そうな表情で会話している。
「最近よく魔物が出現すると聞いていたが、本当のようだな!」
ボルタック商会の番頭さんも不安そうだ。
「兄ちゃんは彼らとは知り合いみたいだが、加勢しないのかい?」
オリバーが自分の腕をさすりながら俺に尋ねる。
「俺の攻撃力は大した事は無いんです。それに彼らなら問題は無いと思いますよ。」
オリバーにそう言いながら、馬車から降りて辺りを見渡す。
リナとユナも馬車から降りてミエールと話をしているところに顔を出した。
「大丈夫か?状況を知りたいんだが、魔物の種類等を教えてくれないか!」
「アッ!コウ兄ちゃんだ!」
「コウさん!相乗り馬車に乗っていたんですか?」
「ああ!グラッサの街までの1人旅だ。」
「状況ですが・・・街道の前方2キロ先にホワイトボアの番に追い立てられたホーンラビットの群れが押し寄せています。」
ミエールが俺に状況を説明してくれた。
本来であればパーティーメンバー以外は教えないルールだが、俺は信頼されていると判断した。
「コウさんお願いがあります。・・・ガルテノに万が一の事があれば私は・・・彼らの手助けをしてくれませんか!」
ミエールの真剣な表情に驚いた。
「彼らのレベルであれば問題は無いと思うが・・・それにグレンもいる。」
「嫌な予感がするんです。」
犬人族の危険察知能力なのか?
それにしても~恋人を思う気持ちは羨ましい!
「ミエールがそこまで言うのであれば、ロキを彼の護衛に付けておこう!」
周りに誰も見ていない事を確認して、ロキを召喚した。
「あっ!ワンちゃんだ!」
召喚されたロキは、リナとユナに犬と間違えられてモフモウされている。
「ロキは犬ではなく狼だよ。」
2人に説明したが、どちらでもかまわない様子で嬉しそうに撫でている。
ロキもシッポを振りながら、おとなしく撫でられている。
「ロキ!ガルテノの影で待機し、危険が迫れば彼らを助けるんだ!」
ロキに命令すると、俺の方を見てすぐに走って消えた。
「ワンちゃん早いね~」
リナとユナは、ロキがいなくなると残念そうにしている。
「コウさん!願いを聞いてくれて有難うございます。」
「気にしないで下さい。それより街道に魔物が出て来る自体おかしいですね!」
「魔物は怯えている様子でしたので、近くに上位種がいるのでは?」
ミエールがそう話すと、後方の方で鳥たちが空に向かって一斉に飛び立った。
「何かいる見たいです。」
ミエールは「様子を見てきます」と告げると後方に走り出した。
「コウ兄ちゃん!私達はどうすればいい?」
「君達の仕事は、護衛対象の馬車を守る事だ。」
リナとユナは馬車の屋根に昇り、ミエールが戻って来るのを待つことにした。
暫くするとミエールが戻ってきた。
「ゴブリンの集団がこちらに向かっています。」
ミエールの報告を何故か冷静に聞ける自分がいる。
「数と種類は分かるか?」
「目視出来たのは緑色のゴブリンでこん棒を持っているのが6匹と、弓を持っているのが2匹です。あと剣を持っているのが1匹いました。こちらの存在には気付いていない様子で、偶然こちらに進んでいるだけと思われます。」
剣持ちはゴブリンソードマンである可能性が高いな!近くに巣穴がある可能性もある。
こちらの馬車が見つかると面倒な事になりそうだ。
「ゴブリンの討伐経験は?」
「まだありません!」
「俺とミエールでゴブリン達の注意を引き付け、ここから離れた場所に誘導する。リナとユナはここに残り魔物が来たら皆に知らせてほしい。」
「いや!私達も一緒に戦う!」
リナとユナの決意が固いのか、首を縦にはふらない。
皆でゴブリン討伐に行けば、ここの守りがいなくなる。
悩んでいると、後ろからオリバーが声を掛けてきた。
「兄ちゃん!俺がここで見張っているから安心して行ってこいや!」
「オリバーさん!話を聞いていたんですか?」
「いや!魔物の気配がするんだよ!俺は戦力にはならないが、皆を逃がすぐらいは手伝うぜ!」
「オリバーさん有難うございます。」
オリバーの突然の手助けに感謝して、リナとユナを連れてミエールとゴブリン退治を開始する事になった。




