第7話 偽りの愛
「5m以内にいないと...死ぬ?」
「えぇ!5m以内にいないと死ぬのよ!」
「そんなの...嘘だろ?」
「嘘だと思うなら離れて見ればいいんじゃないかしら?」
「そんなの...本当に死んだら、駄目だろ!」
「じゃあ、疑わないでちょうだいよ!」
俺は仕方なく加藤の言うことを聞くことにした。確認することが出来ない。死んだら元も子もないからだ。
***
俺が加藤から離れられなくなってからもう早くも一週間が経った。加藤の病気が不調なので、加藤が散歩に行くことはなかった。俺の腹の傷の糸は抜かれる予定だ。
「明日、お腹を縫った糸を抜くからね?」
「あ、はい...それって...手術室に行きますか?」
「えぇ!行くわよ?大丈夫!麻酔はつけるから!」
「そ...そうですか...」
まずい。このままでは、非常にまずい。加藤から離れてしまう。手術室に行く前に死んでしまうかもしれない。
ナースはどこかに行った。
「ねぇ?義和?ピンチね?」
「あぁ!わかってるよ!解除...してくれないんだろ?」
「えぇ!だって、あなたを殺すためにここに来ているんだもの!」
「クソ...どうすれば...」
純愛 能力主:加藤愛美
強欲性愛・・・自分の欲しい体を手に入れることが可能。
妬心深愛・・・相手を凍らせることが可能
愛情遊戯・・・相手に警戒されることなく近づくことが可能。
無償慈愛・・・自分を犠牲に誰かを助けることが可能。
贈愛自他・・・愛する相手に愛を贈ることが可能。
狂愛偏愛・・・この能力にかかった相手は自分の半径5m以内にいないと死ぬ。
俺は一昨日加藤に説明された能力の概要をまとめる。この6つの能力と、俺の3つ能力の全てを利用するんだ。待てよ。もしかしたら...
「なぁ?加藤?」
「何?どうしたの?」
「一週間前に...俺にあんなにベタベタ触れたのは...愛情遊戯を使ったのか?」
「えぇ!そこで、愛情遊戯と贈愛自他・妬心深愛を使ったわよ!」
「そうか...なぁ?もう1つ...質問をいいか?」
「何かしら?」
「お前の白血病...お前の愛した人から無償慈愛で奪った病気だろ?」
***
「お前の白血病...お前の愛した人から無償慈愛で奪った病気だろ?」
「なっ...どうして...それを?」
「図星か...」
「どうして!どうしてわかったの?」
「お前が優しい女の子だって知ってるからな!」
隣の仕切りの影が動く。そして、義和がこちらにやってきた。
「なっ...義和?」
「お前は...優しいよ...俺は...わかってる!」
「騙されない...騙されないわよ!」
「お前は...俺のこと、好きなんだろ?」
「なっ...な訳ないでしょ!」
「おいおい!”贈愛自他”は愛する人にしか使えないんだぜ?」
「あ...」
「それに、俺はお前が好きだ。どんなに、ブスだろうが、俺はお前を愛してやるよ...」
「本当?」
「あぁ!お前は、好きな人に一生懸命になる健気な可愛い少女だからよ!」
「私の...本当の顔を見ても...笑わない?」
「あぁ...笑わないよ!それに、笑わせないよ!」
私は、強欲性愛を解除する。私の「本当の」顔が現れる。義和は何一つ嫌な顔をしなかった。
「あぁ...加藤...お前は綺麗だ...」
「───」
私達はキスをした。
***
俺は加藤に近付く。思ってもないようなことを口で言う。綺麗事を並べるだけで女性は喜ぶ。
「あぁ!お前は、好きな人に一生懸命になる健気な可愛い少女だからよ!」
「私の...本当の顔を見ても...笑わない?」
「あぁ...笑わないよ!それに、笑わせないよ!」
加藤は強欲性愛を解除する。そこには、ブクブクと肥ったお世辞にも可愛いとは言えない女性がいた。
学校では男子から「豚」などと言われ、笑われ者にされるような体型だ。だが、ここで嫌な顔をしては行けない。ここは、自分が生きるためだ。背に腹は代えられない。
「あぁ...加藤...お前は綺麗だ...」
俺は加藤にキスをする。流石に舌を入れられたくはないので、すぐに唇を離した。
「あ、あぁ...」
加藤は戸惑っている。上手く喋れていない。
「あぁ...加藤!俺は嬉しいよ!」
「ど...どうして?」
「そんなの、決まってるだろ?好きな人にキスが出来たからだ!」
俺は思ってもないことをペラペラと口から出す。
「そ...そうなの?」
「あぁ!もう...もう!俺は...心残りはない!」
「な...何を言って...」
「俺はもうここで、死ぬことにするよ!」
俺は1歩ずつ後ろに下がっていく。一歩ずつ。ゆっくりと。俺は偽りの愛を語る。
「何を言っているの?やめて!ねぇ!」
「いや、お前の唇の感覚を忘れる前に死にたいんだ!いいだろ?」
「そんなの...キスくらいいつでもしてあげるから!」
「いいや!最初のキスがいいんじゃないか!」
俺は1歩1歩後ろに下がる。もう3mは離れているであろう。壁際で丁度6mほどだろうか。
「ねぇ...やめて!離れないで!」
「あぁ...加藤!いや、愛子!好きだ!大好きだよ!」
俺は加藤から5m離れる。俺の命は───
奪われなかった。
「はぁ...俺の勝ちだな...」
加藤は死んでいた。俺の代わりに。無償慈愛で俺の死を自分に移行したのだ。
「かー!ぺっ!」
俺は痰を吐く。急いで、口を洗いに行った。
「あんなブスにファーストキスを奪われちまった...最悪だよ...」
次の日、俺は糸を外したので、その後すぐに退院することができた。
次回、北島達に戦いの幕は移動。
残り4人の新キャラの登場までしばし待て。
実際、いつ出すか迷ってるところ。