第4話 入院生活開始
俺は目を覚ます。ここは、どこだ。天井には蛍光灯が優しく光っている。
「ここは...」
確か俺は、堂島によって凍ったはずだ。ここにいるということは、堂島は死んだのだろう。起き上がろうとするが、痛い。体中が痛い。
「うぅぅあぁぁ...」
俺は鈍い悲鳴をあげる。声の低い悲鳴だ。体の底から沸き上がるような悲鳴だ。
俺はベッドの上に寝ていた。隣には仕切りもある。そう考えると、ここは病院だろう。
「えっと...誰かー...」
俺が声を上げても沈黙が続く。
「誰かー...」
「あのー...」
俺は一人呟く。だが、誰も反応しない。
「これ...自分で行くパターンなのか...」
「ナースコールすればいいわよ」
不意に仕切りの奥から声が聞こえた。
「あ、ありがとう...その...君は?」
「名乗るなら...自分から...じゃない?」
口調と声色からして若い女性だろう。中学2年生から、高校2年生辺りだろうか。
「あぁ...ごめん...俺の名前は久良義和。ナースコールがどれかわからずに困っている!」
「しょうがないわね...押してあげるわよ...」
仕切りの奥の女性はナースコールを押すような動作をする。
「で、名前だっけ?加藤愛美よ...」
「ありがとう...加藤...さん?」
「あんた何歳?」
「俺?俺は...15歳の中3だ...」
「そう、同い年か...なら、呼び捨てでいいわよ、久良!」
「あ、はい...か...加藤...」
ナースがやってくる。
「愛美ちゃん、呼んだ?どうしたの?」
「久良君が、起きたみたいよ...」
「あら、そうなの?教えてくれてありがとうね!」
「まぁ、ナースコールがわかってなかったみたいなので...」
仕切りの奥からナースがやってくる。俺の方が窓側らしい。
「こんにちは!」
「こ...こんにちは...」
30代位のナースがニコニコしながらこちらを見ている。
「意識を取り戻しましたね、よかったです」
「あの...俺は?」
「あぁ!久良君、何でここにいるのか、わからない感じ?」
「はい...すいません...」
「久良君、自分のお腹のところ、見てみ?」
俺はナースに言われた通りお腹を見る。グルグルに包帯が巻かれていて、少し赤く滲んでいた。
「うっ...腹が...」
「そう。久良君、通り魔に腹を斬られたみたいなの。鋭い刃物でね。まぁ、死なないだけマシやね」
「あ...あの...他には...」
堂島の名前は出さなかった。友好関係があると疑われたくないから。
「あぁ...1人ね...頭から刃物に刺されて死んでしまったわよ...」
俺らの戦いは第三者の通り魔事件ということにされていた。それは、そうだろう。「能力」のことを言ってもどうせ誰もわからない。大人は信じてくれない。こんな孤独でいるのに。
「そう...ですか...」
堂島は死んでいた。やはり、俺の作戦は成功したようだ。負けた時に相討ちにまで持っていく作戦だったから、まぁ。勝ちとは言えない。負けたのであろう。
***
一通り診断が終わった後、俺はまたベッドに寝かされた。
「診断、お疲れ様」
隣で加藤が話しかけてくる。
「お、おう...サンキュー?」
「へへへ...」
「なぁ...聞いていいかどうかわからないが...一つ聞いてもいいか?」
「えぇ...何?」
「どうして...ここに入院してるの?」
場に沈黙が流れる。仕切りの奥からは何も聞こえない。
「あぁ!ごめん!聞いちゃ駄目だったよね!ごめん!」
「白血病...」
「え?」
「白血病よ。私が入院してる理由は」
「と...倒置法...お、お前!さては!」
俺は唾を飲み込む。
「倒置法使いなのか?お前も!」
「なっ...何を言っているの?あなたは...」
加藤も俺のギャグに乗ってくれた。2人は笑い合う。何だろう。この子とは、仲良くしていけそうだ。
***
「久良君、体の様子はどう?」
「うぅん...まだ少し痛いです...」
「そう、なら無理は禁物ね。しっかり寝てて頂戴ね!」
「はぁい...」
数日、俺は入院していた。加藤が起きている時は話をしているが、加藤が寝ている時は暇だ。何もすることがない。
「はい。愛美ちゃん。おはよう」
「んぁ...おはようございます...」
「体調はどう?」
「最近は...元気ですよ」
「そう。なら、今日は散歩に行かない?」
「あ、はい。いいですね。散歩」
「なら、行こうか。立てる?」
「はい。立てますよ」
仕切りの奥ではゆっくりとポールのようなものに掴まった加藤がいた。
「それじゃ、行こうか!」
「あの...」
「あら、愛美ちゃん。どうしたの?」
「久良君の姿を、一目見てもいいですか?」
「えぇ。いいわよ」
ポールを持った女性はゆっくりゆっくりこちらに近づいてくる。加藤はどんな顔をしているのだろう。
「んぁ...」
俺が見たのは───
「あ、久良君...こんにちは...」
「こ...こんにちは...」
俺がみたのは、顔がとても綺麗な女性だ。「綺麗」や「可愛い」などという言葉でしか表せない。ただでさえ語彙力が少ないのに、美女が目の前にいるともっと語彙力が下がる。容姿淡麗だ。胸は豊かだ。とても大きい。学生とは思えないほどの大きさだ。ピンクの入院服を着ているが、その胸の大きさは隠せていない。胸以外も、華奢な体つきをしている。
「ふふ、よろしくね!」
加藤は俺に微笑んでくれた。