第2話 池本朗
”キィィン”
”キィィン”
もう数分は刀を交えている。
「あぁ!いい刀の使い方だ!ここで殺すのは惜しい!惜しいぞ!」
「クソッ!チャンスが見えない!」
俺は困っていた。どうしても堂島に一撃を食らわせることができない。堂島を失神させることができれば、後は何とでもできる。だが、失神させることができない!
「はぁ...はぁ...」
少しずつ俺の呼吸は乱れていた。
”キンッ”
「うおっ!危なっ!」
「いやぁ...今、チャンスだったのになぁ?」
堂島は強い。体力が残っていなければ勝てない。どうすれば。どうすれば勝てる。
「もうそろそろ...終わりだぜ!」
堂島はこちらを見てニヤリと笑う。
「不動明王!」
俺は堂島の動きを一瞬止める。急いで後ろに下がった。
「千手観音!」
俺の手は4本にまで増える。この手は今着ている服を通り抜けて生えている。
『毘沙門』 能力主:久良義和
剣神乱舞・・・日本刀を出すことが可能。
千手観音・・・自分の手を最大8本まで増やすことが可能。
不動明王・・・相手の動きを一瞬止めることが可能。
「剣神乱舞!」
俺は何故か最初から能力を使いこなすことができた。何故かはわからない。まるで本能で理解したかのように。
***
時間は1ヶ月前に遡る。俺は自分の部屋の中にいた。
「なんだ...これ...」
俺は不意に頭の中に『毘沙門』という能力の内容が頭の中に入ってくる。
「千手観音?」
俺の背中から腕が3本生える。服を通り抜けて生えている。
「なっ...なっ...なんだこりゃぁぁぁぁ!」
俺は叫ぶ。急いでリビングに向かった。
「母さん!母さん!」
「義和!うるさいわ...って...腕ェェェ?」
「これ...これ!何?」
「わからない...わからないわよ!何なのよ、それぇぇ!」
「消えて...消えてよ...」
俺がそう呟くと、腕は消えた。どうやら、自分の意識で加減が効くらしい。
「腕が...無くなった?今のは...」
母さんも驚いていた。幻覚を見たかのようにこちらを指差している。
「母さん...もう1回生やすよ?」
「え...生やせるの?」
「あぁ...千手観音!」
次は腕が6本生えた。合計で腕は8本だ。
「腕が...8本...」
───そんなこんなで、俺は『毘沙門』という能力を手に入れた。
***
───久良が能力を手に入れた時と同じ時期。
「国狭槌尊!それで、梅染はどうするのだ?」
「あぁ...そうだな...それじゃ、今から攫いに行ってくるよ!」
「あぁ!行って来い!」
迦具土神に半ば強制の命令をされて、国狭槌尊は梅染を攫いに行った。
***
こちらも久良が能力を手に入れた時と同じ時期。
僕達が淤加美神を倒してからもう1年と5ヶ月が経った。デスゲームで起こったことは、昨日のことのように鮮明に思い出せる。忘れられない、忘れてはいけない記憶だ。
「ねぇ、北島?」
「どうしたの?梅染?」
「一緒に帰らない?」
「んぁ、あぁ!いいよ!」
僕は梅染と一緒に帰る。
「なぁ!北島!」
「どうしたの?酒井?」
酒井忠は、今年僕達の学校にやって来た転校生である。新しくここに来て友達がいない酒井と、友達が梅染以外死んでしまった僕はすぐに意気投合した。神は殺したから、もうデスゲームは起こらないと思っていた。だが、他の友達は作ろうとしなかった。友達を失うことが悲しいことだから。
「一緒に帰ろうぜ!」
「あぁ!いいよ!」
僕達は3人で一緒に帰る。
「こんにちは!北島君と、梅染さん!」
僕達の目の前には高身長の男性が立っている。僕達の名前はデスゲームで淤加美神の創った島に3週間ほどいたので、クラス全員失踪事件として取り上げられていた。帰ってきた後、大量のインタビューをされたので名前は知られていた。だが、今日になって声をかけてくる人は珍しかった。
「こんにちは...どなた...ですか?」
「淤加美神 の知り合い...かな?」
「なっ...お前は!豆鉄砲!」
”バキュン”
僕はすぐに豆鉄砲を撃った。だが、簡単に止められてしまう。
「北島君、今は君には用はないんだ...」
「梅染!逃げろ!」
「私も戦うわよ!」
「梅染、逃げろ!」
「遅い...」
「きゃっ!」
梅染は高身長の男に捕まる。
「梅染!」
「万物破壊!」
「土壁...」
梅染の攻撃は効かない。梅染はそのまま動かなくなった。
「梅染ぇぇ!メントスコーラ!」
僕は一瞬で高身長の男に近づく。
”バンッ”
「げふっ...げふっ...」
「北島君!」
「酒井!げふっ...来るな!」
「酒井君か...友達かな?ここを見られてるんじゃ、能力を授けるしかないよな?」
何を言っているんだ。能力を、授けるだと?また、デスゲームが...
「おっと、名乗っておきましょう。名前は国狭槌尊。伊勢神宮で待っておりますよ」
そう言うと、梅染を連れた国狭槌尊と名乗る高身長の男性は消えた。
「北島!北島!」
「梅染...が...」
梅染が連れ去られた。梅染。能力。デスゲーム。淤加美神。梅染。国狭槌尊。酒井。師匠。デスゲーム。池本朗。
───池本朗。
ごめん。池本。僕は梅染を守れなかった。僕は。僕は。僕は───
《栄...久美を...頼ん...だ...ぞ...》
*補足*
池本朗も、デスゲーム参加者です。
北島に彼女の梅染を任せて、劇的な最期を遂げました。
作者の推しです。
ちなみに、2度目の名前回。