第17話 尻尾
大黒天 能力主:北島栄
黒色憤怒・・・相手に破壊力のある攻撃をすることが可能。
時間停止・・・時間を数秒止めることが可能。再度使うには何回か呼吸を挟む必要がある。
傲慢荼羅・・・自分の体重よりも軽い物質を好きなように動かすことが可能。
強引強欲・・・自分から重力を引き出すことが可能。
妬鬱怠惰・・・相手の首を絞める。使っている間は心臓が止まる。
恵比寿 能力主:酒井忠
物々交換・・・自分が持つものと価値の等しいものを交換することが可能。
五穀豊穣・・・1m以内にいる相手の傷を癒すことが可能。
大胆捕鯨・・・能力で作り出した鯨を呼び出すことが可能。
「でっか...」
僕の口からは思わず本音が飛び出てしまう。
「私を倒すことがお前にはできるのか?」
「元の姿に...戻れ!」
「元の姿...これだが?」
言われて見ればそうだ。妖狐が人形をしている訳がない。妖狐はどうあがいても、元の姿は狐なのだ。
「どうすれば...考えろ...とりあえず、止まれ!」
”ドゥゥゥン”
時が止まる。僕は走ってできるだけ妖狐から離れた。
”パチンッ”
時は動き出す。僕が瞬時に移動したことに気づいた妖狐はこちらを睨んでいる。
「ほう!瞬間移動をしたか!」
「どうだろうな?」
妖狐は9本ある尻尾を地面に叩きつける。地面は振動する。
「傲慢荼羅!」
だが、妖狐はピクリとも動かない。僕よりも体重があるようだ。まぁ、僕の何倍も大きかったので、期待はしていなかったのだが。
「しょうがない...止まれ!」
”ドゥゥゥン”
僕は妖狐の方へ移動する。そして、”黒色憤怒”で地面を蹴り上げる。妖狐の顔の高さまで飛べた。
”パチンッ”
「黒色憤怒!」
僕が妖狐の顔面を殴る寸前。
「───ッ!!!」
僕は動きを止める。
”ビタンッ”
僕は妖狐の尻尾によって地面に叩きつけられた。背中が痛い。だが、なんで。
「なんで...酒井が囚われているんだ!」
妖狐の手の中には、酒井がいた。妖狐は酒井を握りしめている。
「北島!助けてくれ!北島!助けて!北島!」
「ははっ!騒ぐでない!」
「助けてくれ!北島!」
酒井は腕の中で体を動かしている。だが、手の中から抜け出せない。
「酒井を...離せ!」
「嫌だね!離すわけないだろう!」
「離して!離してくれ!」
「こら!暴れるな!」
酒井と妖狐の声が交互に聞こえる。酒井を助けなければ。
「黒色憤怒!」
狙ったのは、妖狐の顔面───否、尻尾!!!!
「あぁぁぁぁ!」
妖狐の9本の尻尾のうち1本は、赤くなる。内出血だ。
「よくも!よくもやったな!私の尻尾を!傷つけやがって!」
「いいぞ!もっとやれー!」
「あぁ!わかってる!黒色憤───」
”ビタァン”
僕は殴ろうとするも、目の前に酒井を出される。それで攻撃を止めようとした時に、尻尾で弾き飛ばされる。
「クソ!酒井を利用しやがって!」
「利用できなければ、殺すだけだからな!」
「あ、酒井!」
「なんだ?」
「アレを...使えるか?」
「それに、殺すだけなら一瞬で終わるかr」
「あ...アレってなんだ?」
妖狐の声は途中で途切れて、酒井が返事をする。なんで、途切れたのだろうか。
「アレだよ!アレ!」
「あぁ...アレか?ごめん!無理だ!妖狐がいる!」
「そう!私がいる!」
そうか。五穀豊穣は無差別に回復を行うのか。なら、しょうがない。
「止まれ!」
”ドゥゥゥン”
時間が止まる。僕は尻尾まで走る。
「黒色憤怒!」
”パチンッ”
「あぁぁぁぁぁぁ!」
酒井の悲鳴が響く。何が。何があったんだ。
「痛い!痛い!尻尾がぁぁぁ!」
妖狐の悲鳴が響き渡る。僕は”黒色憤怒”で尻尾を2本千切った。
「痛い!痛い!痛い!痛いッ!」
「さて、残り7本...」
「よくも!よくも!よくも!」
7本の尻尾が暴れ狂う。僕はその尻尾をモロにぶつかる。
「あぁぁぁ!」
急いで、時を止めなければ。
「止まれぃ!」
”ドゥゥゥン”
「はぁ...はぁ...」
尻尾の猛攻は一時的に止む。だが、数秒後にはまた始まってしまう。尻尾で覆われて外に出れない。
───この尻尾からは逃げれない。
”パチンッ”
「あぁぁぁぁぁ!」
また尻尾の猛攻は始まる。時間停止では動くことができない。潰れてしまう。このままでは。
「もう...死ねぇぇ!」
”ドォォン”
「なっ...」
妖狐の体が空を舞う。僕は何もやっていない。酒井は、妖狐の手の中にいる。では、誰が───
「おい!北島!また負けてるのか?」
この声の主は、最も聞きたかった声の主は、最も頼りにしている声の主は、
師匠だ。
「師匠!」
「なっ!何故お前が!」
「おいおい...歓迎してくれよ?七尾の狐さん?」
「師匠...どうしてここに?」
「そんなん、淤加美神様と戦ったところから、自力で抜け出したに決まってるだろ?」
「それじゃあ...フナは?」
師匠は静かに背中を指す。そこには、師匠に背負われた一人の銀髪の美青年がいた。
「フナ!」
僕は拳を握りしめる。
「師匠...本物ですよね?」
「あ?俺に偽物がいるのか?」
「いや、確認です!」
「俺の偽物になるなんて、そいつは随分とまぁ、見る目があるんだな!将来有望だぜ?そいつは!」
「師匠...本物なんですね?」
「あぁ!当たり前だ!偽物だったら、お前なんか助けない!」
「よかった...安心した...青山の偽物が現れて...それで、誰も信用できなくて...でも、師匠は師匠だけです!」
勝ちフラグの師匠が現れた。梅染も救えそうだ。
「敵は...あの狐一人か?」
「はい!そうです!手の中にいる少年は味方です!」
「助けてくれー!」
酒井は思い出したかのように、声を上げる。狐は静かに僕達を見守っている。なんだ。この違和感は。
「師匠!最後の確認です...師匠の性癖は?」
「なっ!」
師匠は、一瞬動揺する。そして───
「俺の性癖は、SMプレイだ!」
この師匠は、偽物だ。師匠の性癖は、「逆バニー」か「エロ蹲踞」の2択なのだから。
*補足*
師匠は、最終決戦で淤加美神に勝利した後、機能停止したフナと一緒に、最終決戦を行った空間に残りました。
そして、今もフナと一緒にその空間に残っています。