第15話 人格・夢幻・子使
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「あぁ!もう!何で色々なところに能力持ちを呼ぶんだよ!」
「おいおい...迦具土神だって、賛成したじゃないか...それに、『毘沙門』の久良義和以外の6人は2人ペアなんだ!4方向だけだし、文句ないだろ?」
「ここには、3柱しかいないんだぞ?1方向間に合わないじゃないか!」
「だから、まだ『福禄寿』と『寿老人』の2人には、送り出してないだろ?」
「そうだけどさぁ...」
迦具土神は小さくため息をつく。
「で、そろそろ『毘沙門』もこちらに進んでくるぞ?」
「あぁ...そうだな...」
「『弁財天』と『布袋尊』は豊雲野神が管理してくれるから良いとして、残りの3チームは私達で管理しないとならない!あぁ!後一柱は欲しかった!」
「甕速日神はどうせ、断ってだろ?だから、無駄だよ!我慢するしかない!」
「ていうか、よく40人もの能力者を淤加美神は統率できたな...」
豊雲野神が会話に入ってくる。
「あぁ...あの変態戦闘狂か...あいつに負けるくらいなら、もう少し努力するわ!」
「なら、頑張るぞ!」
「しょうがない...やるか...国狭槌尊!梅染の土人形に、淤加美神の情報を聞いて!あそこまで統率できた理由を聞く!」
「あぁ!わかった!」
国狭槌尊は梅染の土人形をイジる。
「あぁ!わかったぞ!」
「お?本当か?」
「あぁ!ゲーム参加者にスパイを送り込んでいたらしい!」
「スパイか...」
「そのスパイの名は赤木梨優だ!」
「赤木梨優か...どんな能力だ?」
「赤木梨優...能力が特殊だな...」
「そうなのか?」
「あぁ!3つ持ってる!」
「3つ?有り得ないぞ!一人一つに決まってる!」
「いや、『人格』という能力がある!」
人格 能力主:赤木梨優
多重人格・・・自分に何個か人格ができる。その分だけ能力が手に入る。ただし、能力の内容は一つに限定されてしまう。進化も不可。
「それで、3つなのか...でも、戦いに送りこませるには能力は1つでいいよな?」
「あぁ...そうだよな...」
「で、残りの2つは?」
「『夢幻』と...『子使』だ!」
夢幻 能力主:赤木梨優
夢見心地・・・相手を眠らせ思うがままの夢を見せることが可能。
子使 能力主:赤木梨優
神の使ひ・・・神の使者であることを表す。
「はぁ...強い...のか?」
「『夢幻』は強いだろうな。うん」
「よし!じゃあ『大黒天』と『恵比寿』に対抗する能力は決めた!」
「お、なんだ?『夢幻』か?」
「いや、違う!『子使』だ!」
「なっ...なんでそっち?」
「変態戦闘狂の使者がいただろ?そいつも一応変態戦闘狂の使者なのなら、強いはずだ!土人形を作れ!」
「はいはい!ったく...雑用なんだから...」
「なんか言ったか?」
「言ってないですよ!」
国狭槌尊は、淤加美神の使者の土人形を作る。
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───これは、淤加美神の秘書である妖狐の土人形である。
能力は『子使』で戦闘向きだとは言えないし、それこそ日常生活に応用することもできない能力である。
だが、妖狐は人を化かす力がある。人に変身して、騙すのだ。
「それでは、行ってきます」
淤加美神の秘書の妖狐の土人形は北島達のところに移動していった。
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「あぁ...歩くの疲れた...」
「ホントだよ!終わりが見えない!終わりが!」
僕たちはトボトボ歩いていく。何もしなくても人間、腹が減る生き物なのにずっと歩いているのだ。空腹が過ぎる。食べ物に有りつかなくては。
「食べ物...どこかにないかなぁ...」
「北島栄さん。久しぶりですね?」
「誰だ!」
僕は声の下方向を見る。そこには、一人の女の人がいた。初めて見る。
「酒井...警戒するぞ...敵かもしれない...」
「待て、北島...この人、知らないのか?」
「あぁ...知らない...」
「じゃあ、なんで{久しぶり}なんて言ったんだ?」
「僕は...お前なんか知らない!誰だ!誰だよ!」
「北島栄さん。私に名前なんかありませんよ。付けて貰っていませんもの」
わからない。誰だかわからない。姿を変えているのだろうか。
「そうだ!姿...姿を変えているんだろう?」
「いいえ。違います。今は姿を変えていません...」
「なら、なんだよ...どこのどいつなんだよ...」
女はニヤリを笑う。
「そうだ。お腹が空いているでしょう。これ。食べてください」
女の人は僕達の目の前におにぎりを出す。僕の口の中には唾液が広がる。お腹が減った。食べたい。食べたいが、毒が入っているかもしれない。
「酒井...貰うなよ?毒が入っているかもしれない...」
が、遅かった。酒井はもう手におにぎりを持っていた。
”パクッ”
「なっ!話を!」
僕は声を荒げる。酒井を睨む。
「あぁ!大丈夫!大丈夫!物々交換で交換したから!もし、毒が入っていても大丈夫だよ!」
「そうか...よかったぁ...」
酒井は、僕の分のおにぎりも手に持ち、物々交換で交換してくれる。僕は交換したおにぎりを食べる。
「美味しい...美味しいよ...」
女の人はおにぎりを美味しそうに食べる僕達を目を細くして見ていた。狐みたいな顔だなぁ。