第14話 悔し涙
弁財天 能力主:市川真美
絶対音感・・・7秒先の未来を見ることが可能。
酒呑童子・・・5分間だけ身体能力を大幅にあげることが可能。ただし、その後10分は動けなくなる。
美味美味・・・自分と、自分と親密な関係の人の傷を治すことが可能。
布袋尊 能力主:小田海斗
予言的中・・・数日後の正しい未来を50%の確率で見ることが可能。
疾風迅雷・・・風と雷を起こすことが可能。
幸福分別・・・今欲しいものが手に入る。一日一回使用可能。
御飯 能力主:飯田米太
空腹回復・・・飢えを治すことが出来る。
食事提供・・・その場で、食事を提供することが可能。
「そんな...飛鳥...飛鳥を...返してよ...」
飯田はその場に座り込んでしまう。その目から一筋の涙が零れ落ちる。はらり。はらり。
***
「本当だ...本当に島があった...」
俺と市川は島に到着する。もう、市川は動けるようになっていた。
「あれ?あそこにあるのは...」
市川が指差したところには、見覚えのある箱があった。あれは、替えの服やお菓子が入っている箱だ。
「うおおお!食事だ!食事だぁ!」
が、中身は服しか入っていない。お菓子は入っていなかった。
「そ...そんなぁ...」
俺はその場に崩れ落ちる。もう、腹が減って死んじゃいそうだ。
「ごめん...」
市川が急に謝ってきた。
「なんで...謝るの?」
「食べたの...私...」
「え?」
「箱の中のお菓子を食べたのは私!」
***
ボートが転覆する時に、市川は着替えやお菓子の入った箱を手に取った。
そして、みんなと離れ離れになってしまった。
「んん...危ない危ない...って...みんなは?」
周りを見ても、海。海。海。どこにも、みんなは見当たらない。
「うぅん...島を探すかぁ...」
箱を持ったまま、市川は泳ぎ続ける。そして、腹が減ったらお菓子を一つずつ食べていった。こうして、飢えを凌いだ。
***
「そっか...真美ならいいよ...」
「でも...海人が...」
「俺を飯田のところに...連れてって?」
「わ...わかったわ!酒呑童子!」
”バァーーン”
市川はその瞬間、オーラが変わる。先程、俺を助けたときと同じようなオーラだ。
「URYYYYYYYYYY!!!!!!飯田を探すぜぇ!クンクン...クンクン!あっちだぜぇ!URYYYYY!!!!!!!!!!!」
市川は俺と服の入った箱を担ぐ。そして、一気に走っていった。
「ちょっ!市川!揺れる!揺れる!」
俺は後ろ向きに担がれている。たまに、尻に木の枝が刺さっていたい。
「見つけたぜぇ!飯田ぁぁぁ!」
「誰だよ!って...市川か...」
飯田の目からは涙が溢れ、鼻汁が垂れていた。お世辞にも綺麗な顔とは言えない。
「どうしたんだ!泣いて!って...クンクン...クンクンクン...日野は?」
「連れてかれた...連れてかれちまったよ...」
「なっ...何を言って...」
その瞬間だ。市川から俺は落ちる。受け身が取れずに、顔面と地面がぶつかってしまう。
「ふげっ!」
市川も地面に倒れていた。
「ふふ...能力が...切れちゃったみたい...」
「切れる時は言ってくれよ...びっくりした...」
「ごめんね?」
市川は舌をペロリと出す。動けないのは手足や胴体であって、顔の筋肉などは動かせるらしい。
「飯田...日野が連れてかれたってのは?と、その前に...飯を食わせてくれ...死ぬ...餓死ぬ...」
「あぁ!わかった...空腹回復...」
俺の腹は何かによって満たされる。頭に血が上る。体が求めていたもの全てが体の中に入ってきたみたいだ。
それは、市川も同じだったらしく少し幸せそうな顔をしている。俺は、市川の頭がずっと土についているのも、見ているのが酷だったので、抱き寄せた。
「ありがとう...飯田?日野が連れ去られた話を...いいか?」
「あぁ...」
飯田は全てを話してくれた。国狭槌尊という男と、豊雲野神という男が来たこと。そして、2人が日野を攫い、俺と市川を殺せと命令したこと。
「なっ...飯田が俺たちの敵になる...のか?」
「なる訳ないだろ!飛鳥を攫った相手の言うことなんか聞く訳ない!それに...お前たちは俺の仲間だ!違うか?」
「違わない...」
「だろ?なら、一緒に日野を助けに行こう!そうだろ?」
「あぁ...すいません!すいません!」
後ろから不意に声が聞こえる。俺たちは振り向いた。そこにいたのは、高身長の男だった。
「あな...」
「お前はぁぁぁぁぁぁぁ!」
俺が名前を聞くよりも先に、飯田が叫ぶ。
「なんで...なんで!戻ってきたんだ!」
「伝え忘れたことがあるのです...まずは自己紹介ですね。俺は───」
飯田が高身長の男に殴りにかかる。
「飛鳥を返せぇ!」
「土壁...」
屈強な飯田が殴っても男はビクともしなかった。
「「国狭槌尊!」」
国狭槌尊が名乗るのと、飯田が名前を叫ぶのが重なった。こいつが、日野を攫った犯人なのか。
「疾風迅雷!」
国狭槌尊目掛けて風が起きる。
「土投影...」
が、国狭槌尊は右手の人差し指をこちらに向けるだけで、軽々しく攻撃を避けている。
”ゴロゴロゴロ”
国狭槌尊に雷が直撃する。だが、人差し指を空にあげるだけで、傷一つつけられなかった。
「そんな...嘘だろ?」
「このまま進んでください!そこで、俺たちと戦いましょう!そこに、日野飛鳥さんもいます!」
「なっ...」
「俺もそこに...連れてけぇぇ!」
「それでは、また会いましょう!2人共!」
国狭槌尊の姿が消える。
「そんな...」
飯田は、地面に崩れ落ちる。
「なんで...なんでだよ...俺は飛鳥を...助けられないのかよ...」
飯田は泣いていた。男を語る、悔し涙だ。
次回、北島視点へ。