第12話 伊江村へ
布袋尊 小田海人
予言的中・・・数日後の正しい未来を50%の確率で見ることが可能。
疾風迅雷・・・風と雷を起こすことが可能。
幸福分別・・・今欲しいものが手に入る。一日一回使用可能。
***
───こちらも、現在。
「あぁ...腹減った...」
小田は海のど真ん中で漂流していた。小田は木片を掴んで頑張って浮いている。
***
どうして、小田が漂流することになったのかの、話をする必要がある。
───小田が漂流する一週間前のことだ。
「なぁ!みんなでボートに乗って伊江村に行かないか?」
伊江村は沖縄本島に一番近い島である。片道9kmだ。本来はフェリーで移動するのだが、今回は俺の同じクラスの飯田米太と、日野飛鳥のカップルに誘われたので、俺と市川も参することになった。
「人数は?」
「ボートの大きさ的にも...俺ら4人だ!」
「そうか...なら、ダブルデートだな!」
「あぁ!」
飯田は体格がよく、筋肉もついている。なので、ボートで伊江村まで向かうことも出来るのだろう。俺も飯田がいれば安心だ。そして、日野は弱々しい痩せ細った男よりも男っぽい。ボーイッシュな、女の子と言ったほうがいいだろうか。顔は健康的な小麦色で、髪はうなじの後ろよりも短い。そして、市川より巨乳だ。
「それで、行くのは?」
「もちろん、土曜日の明日に決まってるだろ!」
こうして、予定は決定した。
***
「さて、行くかぁ!」
俺たちはボートに乗りこむ。ボートの上には俺たち4人の他に、濡れたときの着替えや、お菓子が箱に入って、乗っている。もちろん、服の上からしっかり水着は着ているのだが、服は十分濡れる可能性がある。帰る時に濡れていては町中を歩けない。
俺達はボートを漕ぐ。
「───ッ!」
俺は不意に、予言的中を使った。すると、漂流している未来が見えた。そんな訳ない。だって、伊江村は9km先に見えているし、時折フェリーも通っている。漂流しても、気づいて貰えるはずなのだ。
「小田?どうした?」
「いや...なんでもない...」
「そうか!帰りに体力は残しておけよぉ?」
飯田はそう言いながら、ボートを漕ぐ。俺の前にある飯田の筋肉のついた太モモが漕ぐのと同じペースで動く。
***
「なぁ?どうやって、『弁財天』と『布袋尊』はここまで連れて行く?あいつらは外国にいるぞ?」
「おいおい!沖縄は外国じゃねぇよ!」
「お前こそ、何言ってんだ!琉球王国は立派な外国だ!それに、蝦夷地も外国だろ?」
「はぁ...迦具土神は昔に囚われすぎだな...」
「んん...何をぉ!」
「2人共!喧嘩はやめてくださいよ!」
豊雲野神が、迦具土神と国狭槌尊の喧嘩を止める。
「『弁財天』と『布袋尊』は、私の能力で本州まで連れていきますよ!」
「あぁ!そうか!なら、豊雲野神任せられるか?」
「えぇ!お任せあれ!」
「なぁ...迦具土神?」
「なんだ?」
「あの、今同じボートに乗っている男に能力を授けたら...面白そうじゃないか?」
国狭槌尊の提案に、迦具土神は一瞬目を点にするが、すぐにその言葉の意味に気づく。
「あぁ!面白そうだな!やろう!やろう!是非ともやろう!仲間割れが楽しみだ!」
3柱は、ダブルデートが行われるボートを殺し合いの行われるボートに変えようとしていた。
***
「あぁ...空が青いなぁ...」
俺は雲一つない空を、市川を腕の中に抱き寄せながら眺める。もちろん、ボートの上でだ。
「おぉい!空なんか眺めてないで、ボートを漕いでくださぁい!」
「あぁ...もう!わかってるよ!」
”ピュー”
風が一度だけ吹く。水面には波ができ、ボートは大きく揺れた。
「うおぉ!」
「風かぁ...」
市川は、被っていた麦わら帽子をその細く白い右腕で押さえる。
「あれ...伊江村は?」
俺たちが進んでいた方向に、島はない。後ろを振り返っても、島はどこにも見えない。
───伊江村と、沖縄本島が消えた。
「なっ...嘘だろ?」
「島が...消えた?」
「いや...逆だよ...俺たちが...ここに来てしまったんだ...」
「ここは...どこなんだよ!」
「わからん...」
「そんなぁ...どっちに行けばいいのかわからないじゃない!」
「焦るな...焦るなよぉ?俺...今は...どうすればいいんだ...」
「小田!島の場所がわかれば帰れるんじゃない?」
「あ、あぁ!そうだな!何が...必要だ?」
「うぅん...コンパスとか?地図は...海だからわからないし...スマホもここは圏外でしょ?」
「あぁ...じゃあ、コンパスが欲しい!」
俺の手元には、コンパスが現れる。だが、俺らが求めていたコンパスではない。そう、方位磁針ではなかった。
「なっ...なんで!」
「すげぇ!けど、これじゃない!」
「今の何?どこからコンパス出したの?」
「あぁ...そうか...能力とか知らないんだ?」
「能力って...なんだ?」
俺たちは飯田と日野に能力の説明した。俺の手元にはコンパスがあったので、すぐに信じて貰えた。
「で、それで幸福分別を使ってそのコンパスが出た訳ね?」
「あぁ...失敗だ...」
「明日まで能力は使えないと...はぁ...」
市川と飯田・日野は揃ってため息をつく。
「なんで、方角がわかるコンパスじゃなくて、円を書くコンパスを出しちゃうのかなぁ...」
飯田は嘆くようにそう呟いた。