約束の証 06
少しずつ日が傾き空が赤く染まり始めるなか、私はエドと隣り合って小さな箱を見ていた。
「最近恋人や夫婦でお揃いの指輪を着けるのが流行ってるの知ってる?」
「え? そうなの?」
子供ができてからというもの装飾品はまったく身につけていない。ネックレスは子供に引っ張られて首を絞められるし、リボンもすぐにほどかれるから身につける物はすべてがシンプルだった。そうなると必然的に興味も薄れていく。流行るなら恋人時代に流行ってほしかったな。
「パートナーがいるっていう証だから、さっきみたいに男から誘われるのが無くなるよ」
ムスっとした顔で拗ねた言い方をしているけど、さすがに観光客以外の人にはエドがいるから誘われないよ。でも嫉妬してくれるのは正直うれしい。エドは気づいていなかったけど結婚前女の子にすごくモテてたから、私はひそかに嫉妬する事が多かった。記憶があるのは私だけだから、寂しかったのもあるのかな。
「それで僕達も外出する時くらいは同じ指輪をしたいなと思って、特注で作ってもらったんだ」
「さっきの金物屋さんで頼んだの?」
「うん。実は夫婦で指輪をするのが流行りだっていうのも、あの店の人に聞いたんだ。息子夫婦が装飾品の店を出したいらしくて、最初のお客になって宣伝してほしいって。僕達は仲が良い事で有名だから」
そう言ってエドは箱を手に取った。その時ふっと前世での記憶が蘇る。エドがフィリップ様で私がローズだった時だ。あの時の指輪は……と思いを馳せていると、エドが私に見せるように箱を開けた。
「エド、これって……」
そこにはあの時と同じ、水色の石がついた指輪が2つ入っていた。
しかも石をよく見ると、転移の魔法陣まで書いてある。
「僕達はもう魔力が無いから魔術は発動しないけど、この魔法陣はサラを守りたいという証だから」
「エド……」
エドが箱から指輪をそっと取り出し、私を愛おしそうに見つめながら指輪をはめる。赤く染まった空は少しずつ暗くなっていて小さな星が輝き始めていた。家々に灯る蝋燭の温かい光が私達を優しく包み込む。
「サラに何かあったら、僕がすぐに駆けつけるよ。さっきみたいにね」
エドはイタズラっ子の様に笑って、私の指輪にそっとキスをした。私も箱から指輪を取り出し、同じ様にエドの手に指輪をはめる。
「私もエドに何かあったら、絶対に駆けつけるわ」
私達はお互いの決意を確認しあうように見つめ合う。おでこをくっつけクスクス笑いキスをしようとした瞬間、バタンとドアが開く音がした。
「おかあさーん」
「おとうさーん」
「「見て〜!かっこいいでしょ?」」
双子が中庭に転がるように飛び出してきて、杖と剣を持ってビシっとポーズを取っている。その後ろから私の両親が出てきて、なにやら2人にポーズの指示をし始めた。
「クロエ! こうしたらもっと可愛いわよ!」
「クリス! 右手をもっとあげるんだ!」
子供たちがきゃあきゃあ言いながら別のポーズを取ると、エドの両親も笑いながら出てきた。
「クロエちゃん、さっきの変なポーズ、お母さんに見せてあげて!」
「クリス! おまえも片足あげるやつやってごらん!」
エドの両親まで双子に指示を出して、変なポーズを取る2人を見て大笑いしている。私とエドは突然の家族の登場に呆気にとられていたけど、すぐにお互いの顔を見合わせて笑いだした。子供達も両親もエドも笑っている。もちろん私だって……。それなのに私の胸の奥には、今まで何度も感じた不安が生まれる。
今までもそうだ。時折この幸せな時間が突然終わってしまうんじゃないか? という不安が襲ってきていた。仲直りできると思ったのに、もう一度逢えたのに死んでしまった過去。今が幸せであればあるだけ残酷に幸せが奪われる恐怖があった。
でもそれももう終わりにしよう。私はエドの横顔をそっと覗き見る。エドはもうあれから悪夢を見ない。私も過去を受け止め恥ずかしがることはやめた。そっと指輪をなでるとエドの覚悟が伝わってくるようだった。
過去からつながっている私達の人生はこれからも続いていき、明日もきっと素敵な日になるだろう。ううん、明日も明後日もその次も。たとえ私達がまた生まれ変わっても、幸せになることをあきらめなければ叶うと信じたい。
「おかあさーん! こっち来て!」
「おとうさーん! 見ててね!」
子供たちがぴょんぴょん跳ねながら私達を呼んでいる。後ろでは両親達が笑顔で私達を見ていた。私とエドもお互いを見てにっこりと微笑んだ。
「今いくわ!」
「ちゃんと見てるよ!」
私達は手をつないで家族のもとに走り寄る。あちらこちらで準備されている苺の香りが風に運ばれてきて、私達の鼻をくすぐる。私達家族は甘い幸せの香りに包まれ笑い合っていた。
番外編まで読んでいただき、ありがとうございました。これにてすべて完結です。
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