約束の証 03
「俺がクロエに渡す」「じゃあ俺はクリスだ」と言い合う声が店の中まで届き始めた。名前を呼ばれた2人はその声の主に気づき、バタバタと店の扉に向かって走っていく。バンという音とともに勢いよく店に入ってきたのは私とエドの父だ。
「クロエ〜!! サラじいちゃんが薔薇の杖を買ってきたぞ!」
「クリス〜!! エドしいちゃんがドラゴンの剣を買ってきたよ!」
たくさんの買い物袋を汗だくになって抱えている2人は、目の前にいる双子を見つけると満面の笑みでお土産を渡し始める。
「「やったあ! おじいちゃんありがとう!」」
たったいまおねだりした物が手に入った子供達は、大喜びで杖と剣をぶんぶんと振り回し中庭に走っていった。「おばあちゃ〜ん」という声が遠くから聞こえてきたので、母達に見せに行ったのだろう。それにしてもお父さん達の荷物が多い。よけいな物を買ってないといいけど。私は腕組みしながら2人を問いただした。
「もう! いったい他になにを買ってきたのよ?」
「ああ、これだよ。明日は苺祭りでたくさんの観光客が来るから」
そう言って2人が袋から出したのは大量の苺の飾りとタペストリーだ。タペストリーは折りたたまれていたのでどんな柄か見えない。たぶんこれも苺柄なんだろう。
「他の店は外観も苺で飾り付けしていて豪華だったから、うちの店もどうかと思って買ってきたんだ。どう? サラちゃん」
お店の準備で忙しかった私達は他の店を見ていなかったが、エドのお父さんは買い出しついでに偵察したのだろう。たしかに私達のお店はシンプルだったかも。年々街全体の飾り付けも豪華になっていて、それも観光の目玉のひとつになっていた。
「お義父さんありがとう。たしかにうちの店だけシンプルだと悪目立ちしそうね。あとで飾らなきゃ」
「サラ! 俺はこれを買ってきたぞ」
そういって私の父さんが出したのはさっきのタペストリーだ。「大人気で何軒も探したよ」と言いながらバサリとタペストリーを3つ広げる。私とエドは広げられたタペストリーのデザインを見て思わず絶句した。
タペストリーの四隅には薔薇と剣が重なった刺繍がされている。それだけ見れば上品で素敵なタペストリーだ。しかし真ん中に堂々と「ローズ&フィリップよ 永遠に……」「フィリップ王子の気高き誠心を讃えよ」「ローズ その崇高な魂は美しく咲き誇る」と刺繍されているではないか!
「ひえっ! なに? このポエムタペストリー! 誰が買うの?」
「俺が買ってきたんだけど」
「そうだった」
突然こんなものが出されたので驚きのあまり、父が買ってきたことすら忘れてしまう。父はなにをそんなに驚くんだとばかりに不思議そうに私を見ていた。
「これも最近の流行りらしい。店の中に飾ったらどうだ? うちも祭りを盛り上げないとな」
「そ、それはそうだけど……」
毎年苺祭りはお店と双子の世話で忙しくて、出店でなにを売られているか知らなかった。まさかこんな事になってるとは。そういえば数年前からお祭りで苺のネックレスや靴が飛ぶように売れるとは聞いていたけど、商魂たくましいとはこのことね。
「それにこれは王家公認の品だからな」
「え? これ王家公認なの?」
「そうだぞ」
「サラちゃん、そこにある絵本もそうだよ」
お義父さんに言われてあわてて絵本の裏表紙を見てみると、たしかに大きく王家の紋章が入っている。そしてもう一つ王家の横に貴族の紋章があり、それには見覚えがあった。




