18. 2人はいつまでも
オルガンの音が聞こえ、扉がゆっくりと開く。家族や友人の顔が見え、少し緊張してきた。それでも遠くにエドが見えると、私の心は彼でいっぱいになる。
ここまで長かったな。でも私は前世の記憶を思い出してからも、ずっとエドと一緒で幸せな日々だった。
隣には「お父様」がいる。「お母様」だって涙ぐみながら私を見ている。今日からはローズの「お父様」と「お母様」も家族だ。私の中にいるローズが喜んでいるのがわかった。
一歩一歩エドに近づくにつれ、今までの思い出が押し寄せてくる。
一緒に魔術を勉強したの楽しかったな。婚約破棄の時は悲しかったけど、また会えたのは嬉しかった。フィリップ王子として再会してからも、あなたは私を一番に想ってくれていた。つないだ手の温かさは、今でも忘れられない。
私はとても大馬鹿で未熟な子供だったけど、ちょっとは成長できたよね?
エドが泣きそうな顔で私を見ている。私達が結ばれるまでは記憶を思い出したくないと言ったけど、どこかで思い出してくれるかな? でもあなたが望まないなら、一生思い出さなくてもいいよ。ただそばに居てくれるだけでいい。
私は生まれ変わって、あなたのもとにいる。この先も、その先もずっと一緒にいることを神の前で誓いたい。
祭壇の前まで来るとお父さんが涙目でエドを見て、「頼んだぞ」と私をエドに託す。私はエドの顔を顔を見たとたん、こらえていた涙がぽろりとこぼれた。エドが心配そうに、私の涙をぬぐう。
初めて涙をぬぐってもらえたけど、幸せな涙で良かった。
私達は牧師様の前に2人で向き合い、跪いた。牧師様が私達の頭に手をかざし、問いかける。
「エドワード、あなたは無垢の乙女サラを妻とし、いかなる困難が襲いかかろうと2人で乗り越えることを誓うか?」
「はい、誓います」
「サラ、あなたは誠心の若人エドワードを夫とし、いかなる困難が襲いかかろうと2人で乗り越えることを誓うか?」
「はい、誓います」
牧師様が頭から手をかざすのを止め、一段上の祭壇に上がる。
「2人の誓いは確かに神が受け止めた。さあ、立ちなさい」
私達は立ち上がり、お互いを見つめる。
「それでは、誓いのキスを」
初めてはふれあえないキスだった。2度目は私からした苦しいキス。ようやくエドと本当のキスができるんだね。
エドの手が私の手を優しくつつみこむ。私達は少し照れながら見つめ合い、一歩前に踏み出した。エドの顔が近づくのを感じ、私はそっと目を閉じる。
優しくふれたエドの温かさは、私の体に伝わり心まで届く。体中がエドへの愛しさでいっぱいになった。
私はゆっくり目を開けると、エドの目をじっと見つめる。エドは幸せいっぱいの顔で微笑んだあと、目を見開き私をくいいるように見始めた。
「サラ……サラ!?」
「そう、サラよ?」
私はにっこりとエドに笑いかける。
「うわ――!! サラじゃないか!!」
エドはガバっと私の腰を抱き上げ持ち上げた。あまりに高く抱き上げるので、足が床につかない。
「きゃあ! エド!」
「サラ……!」
集まった友人や家族を横目で見ると、何が起こったのかわからずポカンとしている。そりゃあ、そうよね。私とエドしか今の状況はわからないんだもの。
「本当にサラなんだね?」
「本当だよ」
エドは涙を流しながら、それでも半信半疑で私に確認してくる。私は本当なんだと伝えるためにも、エドの頬をつねった。
「ほら、みんなビックリしてるから、下ろして」
「え? ああ、そうか」
ようやくエドは周りの反応に気づいて私を抱きかかえるのを止めたが、それでも呆然としている。刺激が強すぎたかな? 牧師様までなにごとかと驚いていたので、式を進めてもらうため急いで話しかけた。
「牧師様! もう大丈夫ですので、続きをお願いします」
「ああ…そうか。ビックリしたよ」
「すみません」
牧師様は場を仕切り直すかのように、コホンと咳払いをした。列席者のみんなもその音にハッとして、牧師様に注目する。
「よってここに、この2人を夫婦と認める!」
わあ! と周りから歓声があがる。私達2人の両親も笑顔で見送ってくれた。まあそれでも後から「あれはなんだったの?」「エドワード大丈夫?」と聞かれ、ごまかすのが大変だったけど。
あれから半年、私達はカフェを開店する準備をしている。エドのお父さんと共同なので、一緒に仕事できるのはすごく嬉しい。お父さんの作ったジャムはあの頃と一緒で、すごく懐かしい気持ちになる。
私の父も最初は「俺もそっちの店で働きたい!」とぶつぶつ言ってたけど、どうせじっとしてられない性格だ。美味しい果物を求めて、いろんな土地に行ってしまう。お父さんには私達のお店のメニューに役立つ果物を仕入れてきてもらおう。
どんなメニューにしようか、インテリアはどうするか? いろいろ考えるのは本当に楽しい! いっそ苺専門店にしてしまおうかな?なんて夢中で考えていると、エドが私の頬にキスをした。私が驚いて振り向くとエドは私の手を取り、自分の膝に乗せる。
「ねえ、この自宅の設計図どう思う? 部屋数が多すぎるような……父さんは何考えてるんだ?」
「どれどれ?」
エドは後ろから私を抱きしめるかたちで、設計図を差し出してきた。もう片方の腕は私の腰にぐるりとからまっている。
「たしかに部屋数は多いけど、まあ、たぶん、これは……」
少し前にエドのお父さんからこの部屋の意味を聞いていた私は、思わず口ごもってしまう。もう! エドもなんとなく察してほしい! 私の首筋にキスしてる場合じゃないってば!
「客間にしては多すぎると思うし、店の倉庫は別に借りるし……」
「ほら、その、空き部屋の場所が、ね?」
私は設計図を指差し、空き部屋が私達夫婦の部屋の隣にあるのを教える。
「……ああ! 子供部屋か!」
ようやく気づいたエドはニコニコと「父さんも気が利くな」と笑って、私をぎゅうっと抱きしめた。
「それならもう子ども用の家具とか、買おうか?」
「エド……お父さんたちは孫用の家具を競って買ってるのよ。お母さんたちは洋服や絵本を買ってるわ。」
「知らなかった」
自分で言うのもなんだけど、あなたは私ばかり見てるからね。全然まわりのことを気にしていない。今だって家の中だから良いけど、外でもすきあらばキスしてくる。
「絵本といえば、私達のあれが絵本になるなんてね……」
「教科書にも載ってるぞ」
「エドはまだいいわよ。私なんてあの時もう記憶があったから、授業の時なんだか恥ずかしくて」
そう、私達のあの戦いは絵本どころか、教科書にも載っている。まあ大きな出来事だもんね。それでも当事者の私にとっては、なんだかおとぎ話の主人公になったみたいで実感がわかない。あの絵本は私達2人が過去を乗り越えた証として、大切に持っているけどね。
でもそれならば私達は絵本の主人公のように、「2人はいつまでも幸せに暮らしました」と終わらせなくちゃいけない気がする。
私は後ろを振り向き、エドの瞳を見つめる。何度生まれ変わっても、また一緒にいたい。次はもう記憶がない予感がする。それでも私は誓いたい。
「生まれ変わっても、絶対に幸せにしてあげるからね」
私達は今日何度目かのキスをし、幸せをかみしめた。
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