Another Land
高校一年、秋の終わりごろから約三年。やっと書き終わりとても満足してます。
不思議の国のアリスはとても好きな文学です。どちらかというとあの独特の世界観がとても好きです。
アリスとともに成長する私の文章に注目です。
プロローグ
落ちていく、堕ちていく。
白うさぎに導かれ、アリスは深い深い穴へと。
そこは、血と狂乱の叫びが満ちるワンダーランド。夢であれ、夢であれ、アリスは願う。私たちの世界ではない。秩序を取り戻すために、武器を取る。
これは、もうひとつのアリスのお話。
序章 日常の終わり
「…」眠い。いつもの様に朝早くに起きるて学校に向かう。いつもの様に授業を受ける。いつもの様に部活をやって家に帰る。そう、いつも同じ日常。そんな日々に少し飽きた。何かいつもと違うものが無いかな。そんなことをふと思うことがある。
昔から内気で友達との付き合いが苦手だった。いや、人との付き合いが苦手なのかもしれない。だから友達と一緒に過ごすことがあまりなかった。
いつもと同じ1日が始まると思っていた。だけど、私の前に色白の少年が現れた。懐中時計を首から下げて立っていた。まるで不思議の国のアリスに登場する白うさぎの様だった。そして、少年は手を差し出しこう言った。
「君を探していたんだ。僕と一緒に戦ってくれ。アリス。」
これが日常の終わりの始まりだった。
第二章 お茶会に遅れた白うさぎ
アリスはワンダーランドに落ちた。白うさぎに導かれて。アリス、ここが君の住む世界さ。
「ワンダーランドへようこそ、アリス。どうだい?感想は?」
「えっ?」
訳が分からなかった。気がついたら知らない世界に連れてこられた。
「何、ここ?何処なの?」
「ワンダーランドさ。アリス。」
「ワンダーランド?此処が?それに、アリスって…私はアリスじゃないわ!」
「いいや、君は間違いなくアリスだ。君はこの世界では、アリスという役名なんだ。ちなみに、僕は白うさぎという役名で、名前はホワイト·ラビット。ホワイトと呼んでくれ。」
「役名?どういう事なの?」
「この世界では1人1人に役があるんだ。その役の者が寿命を迎えてもまた違う者がその役で生まれてくる。そうやってこの世界は成り立っている。ちなみに僕は違う。ワンダーランドが存在し始めた時から"白うさぎ"という役だ。」
「"アリス"もそうなの?」
「いいや、"アリス"という役はワンダーランドでも特殊な役さ。この世界では絶対に生まれない役。だからこの世界はずっと未完成だったんだ。だけど、君がアリスとなってこの世界に来たことでこの世界はやっと完成したんだ。」
私がアリス?私が?とても信じられなかった。いきなりそんな事を言われて素直に受け入れられるはずがなかった。
「まあ、すぐには信じられないさ。でも、この世界で過ごしていけば慣れてくる。」
「この世界の仕組みは分かったけど、何故私がこの世界に連れてこられたの?」
「君にこの世界を助けて欲しいんだ。」
「助ける?」
「今この世界は赤の女王による恐怖政治が行われているんだ。」
「それで、どうしたらいいの?」
「僕と一緒に赤の女王を倒すんだ。そのために君を探していたんだ、アリス。」
「そんなの、出来ないわ!第一、私には戦う程の力が無いわ!」
「君は気付いていないみたいだね。試しに、自分の姿を見て見るといい。」
白うさぎにそう言われて自分の姿を見てみた。驚いた。今の自分の姿は不思議の国のアリスのアリスそのものだった。
「これが私?」
「そうだよ。ちなみにこの世界は秩序が乱れて全ての役に特殊能力がついている。君は夢幻の少女という能力だ。どんな能力かは使ってみてからのお楽しみだよ。」
「…」
帰りたい。何故知らない世界で戦わなくてはいけないの?
「少し考えさせて…」
「分かった。」
もし、赤の女王を倒したら元の世界に帰れる?もし、赤の女王を倒せず処刑されたら?そんな不安が頭をよぎる。怖い。ただそれだけだった。でも、
「赤の女王を倒したら元の世界に戻れる?」
「ああ、約束する。」
「なら、それが条件よ。」
「ありがとう。」
こうして、私は元の世界に戻るため、赤の女王を倒すためのアリスの戦いが始まった。
第三章 夢幻の少女
ああ、アリスやっと受け入れてくれたか。そうだ、君の住む世界だ。さあ、行こう。楽しい楽しいお茶会へ。
あんなふうに言ってみたもののやはり不安が尽きない。本当に私は戦えるのだろうか。試そうにも、"敵"役がいないから何も出来ない。
「どうしたの、アリス。何やら考え込んでいるみたいだけど。」
「本当に私に特殊能力があるのかなって、戦えるのかなって思っただけ。」
「まあ、肝心の敵は赤の女王とトランプ兵だけだからそんな頻繁にはあわない…って言ってたらどうやら見つかったみたい。」
「えー!なんでそうなるの?!」
確かに目の前にトランプ兵がずらりと立って構えていた。
「トランプの柄や数字は強さにあまり関係ないから、すぐに倒せるはずだ。」
「でも、どうやって?」
「それは…おっと。無駄口叩いてると切り殺されるみたい。じゃあ2人で頑張って倒してみようか。」
「ち、ちょっと!」
ホワイトは戦い慣れているのか、動きが軽い。それに比べ私は戦うどころか剣なんて見たことないからかわすので精一杯。
「どうしたらいいの?誰か助けて…」
そう言って目をつぶって覚悟した。しかし剣が振り下ろさせていない。恐る恐る目を開けてみると、
「えっ?」
その光景に目を疑った。トランプ兵が眠っている。
「どうなっているの?」
「それが君の能力、夢幻の少女みたいだね。発動の条件は目を合わせることかな。そして、相手を夢の中に連れていく。夢の中か。うん、アリスっぽくていいね。」
「これが、私の能力…?」
「発動の条件が中々厄介だね。目を合わせて発動か。能力を発動させるのは奥の手にしよう。君にはまだ危険過ぎる。」
確かにそうだ。ホワイトならともかく、私はワンダーランドに来たことにですらまだ慣れていないのに、その上戦うなんて。ましてや目を合わせるなんて。自殺行為に等しい。
「なるべく、トランプ兵達に会わないようにするしかないのか…」
それもいいかもしれない。だけど戦わないで赤の女王に勝てる?自分に問いかけてみた。
「ホワイト、私戦うよ。どんなに危険でも。トランプ兵も倒せないんじゃ赤の女王も倒せないでしょ。」
「良いのかい?もしこの世界で死んだら二度と元の世界に戻れないかもしれないんだよ。それでも戦うかい?」
「うん、覚悟は出来ているわ。この方が元の世界に戻るのに近道でしょ。」
「そうだね。そもそも僕がこの世界を救ってくれって頼んだしね。」
「じゃあ、約束しよう。私はこの世界を救う。ホワイトは平和が訪れたら私を元の世界に戻す。」
「うん、約束するよ。」
「じゃあ、行こう、ホワイト!」
「アリスの望みならば僕はどこだろうと共に行こう。」
第四章 楽しいお茶会
さあ、アリスその力を手に楽しい楽しいお茶会に行くんだ。そこは血に染まる楽しいパーティさ。
森をしばらく歩いていると、白うさぎが、
「アリス、この先に帽子屋と三月ウサギが開くお茶会の会場がある。行ってみるかい?」
と言った。
「そうね、少しでも仲間がいると赤の女王を倒せそう。」
「うーん、彼らが協力してくれるとは思えないね。何せあの2人は基本的に争いを避けるし、興味無い奴や気に障る奴は皆殺しにするからね。」
背筋が凍った。そんな人たちが私に協力してくれるのか?ましてや殺されるかもしれない。でも、
「でも、やってみなきゃ分からない!行こう。戦いになったらその時よ。」
こうなったら出たとこ勝負。何がなんでも仲間にするつもりだ。
「君ならそう言うと思ってたよ。なら行こう。お茶会はもう少しで始まってしまう。」
「急ごう!」
私達はお茶会の会場へ急いだ。
「さあ、今宵も始まった!楽しい楽しいお茶会だ!さあ、みんな存分に楽しんでいってくれ!」
「ハッター、誰もいないのにどうやって楽しむの?それに今宵ってまだ昼だけど…ああ!僕達のお茶会だったね!」
森の木々の隙間から楽しげな声が聞こえた。
「ルナト、どうやら本当にお客が来たみたい。」
「なんだ、来ないと思って期待したのに。」
マジシャンが被っていそうな帽子を身につけた青年と、白うさぎと同じくらい白い肌の青年がいた。彼らは私達を見るなりガッカリしていた。
「おいおい、僕達を見てガッカリしないでくれ。」
「誰かと思えば、女王の側近の白うさぎじゃないか。なんだまたお茶会に呼んで欲しいのか?」
「女王の好きなお菓子を沢山作ろう。なにがいい?」
「ハッター、ルナト、悪いが今日はそれじゃない。赤の女王を倒す手助けをして欲しいんだ。」
「へえ、とても面白くないことを考えているね…」
帽子屋が突然表情を変えた。先程までの楽しそうな笑顔から一変、今にも私を殺しそうな目付きになった。
「あれ、そこにいる子は誰だい?」
いつの間にか私の目の前に立っていた三月ウサギは私の顔をまじまじと見て聞いた。
「わ、私はアリス。」
「へえ、あのアリスねぇ。」
「な、何?」
すると、帽子屋はステッキを取り出し襲ってきた。
「どうして君たちは戦うなんて面白くないことを考えるんだい?」
「じゃあ!君たちは今のワンダーランドで良いって言うのか?!」
「もちろん、良くないさホワイト。ただ、僕達は戦いたくないだけさ。」
「君は何故この世界に?名誉?富?それとも英雄にでもなりたいの?」
「違う、私はただ元の世界に戻りたいだけ…」
「そういうやつが僕は嫌いなんだ。楽しいお茶会!」
「アリス!お茶会に遅れた白うさぎ《スローリー・クロック》!」
「はぁ…助かった…これがホワイトの能力…?」
「ああ、対象の動きを一時的に止める。ただし、酷使すると僕の動きが止まるから、奥の手って感じかな。」
「あれぇ、僕の存在忘れてたぁ?」
「!」
「しまった!」
そうだ!もう1人いたことが頭から抜けていた!
「まずい、そろそろ能力の効果が消える…」
「1つ教えてあげよう。僕達の能力は二人いて効果が発揮される。ほら、そんなことを言ってるうちにハッターへの効果が切れたよ。楽しいお茶会」
「アリス!目をそらすんだ!」
でも、遅かった。ホワイトが叫んだと同時にルナトが能力を発動させた。しかし、
「何故、能力が発動しない…?」
「ルナト、どうなっている!何故アリスが操られていない!」
「アリスの能力だ…!」
ふと、ホワイトが呟いた。
「私の能力…?でもあれって…」
「うん、目を合わせて初めて発動する。恐らくルナトと目を合わせたことによって、無意識に発動して相殺されたんだね。」
「僕との相性最悪かぁ。それじゃ僕の負けだ。」
「ルナトが負けと認めると僕も自動的に負けになる。僕達は2人で一つだから。」
「じゃあ、手助けしてくれる?」
「いいよ、それがアリスの願いならばね。」
「お願いします!」
「ルナト」
「ハッター」
どうやら、来てくれるらしい。
「ありがとう!」
「ふぅ、一時はどうなるかと思った。」
「そんなに僕達危険かなぁ」
「危険すぎるよ!」
「ぷっ、あはは!」
「あはは!」
こうして、ハッターとルナトが仲間となってくれた。
第五章 猫の怪しい笑顔
アリスお茶会は楽しかったかい?さあ、もっともっと楽しいことをしよう。首が飛ぶ裁判さ。愉快だろ?女王の金切り声が響く裁判はもう少しだアリス。
「じゃあ改めて、僕はハッター」
「僕はルナトだ。よろしくね。」
「アリスです。よろしく。」
「彼らが開くお茶会は王国でも評判が良いんだ。僕達も何度か参加したことがあるけど、とにかく紅茶とお菓子が絶品なんだ。」
「へえ、食べてみたい!」
「僕も食べてみたぁい!」
「そうね、なら一緒に食べよう…。ん?」
「ん?」
「きゃあ!!!!!!!!」
私の隣に見知らぬ少年がいた。紫の耳としっぽを持った少年が。
「だから言ったでしょう。突然横にいては心臓に悪いと。」
すると、メガネをかけたいかにも賢そうな少女が現れた。
「あ、あなた達は?」
「にゃははは!僕はチェシャ猫!チェシャって呼んでくれ〜」
「チェシャが驚かせてすみません。何せイタズラが好きな性で。私はビートと申します。」
「はあ…びっくりした…私はアリス。」
「僕は白うさぎのホワイトラビット。ホワイトと呼んで。」
「僕はハッターで。」
「僕はルナトだよ。」
「ねぇねぇ、これからどこ行くの?もしかして、王国にでも行くの?」
「そうだよ。もしかして、一緒に行くの?」
「僕も行く!楽しそう!」
「チェシャ、何を言っているんですか。今ワンダーランドは秩序が乱れているというのに。」
「だからだよ、ビート。でも、君は臆病だしなんにも能力がないから行きたくない。そうだよね〜」
「そういう事を言っているのではないのです。この方々が危険なことをしようとしているのにあなたが行っては邪魔になるだけです。」
「ならないよ。君は僕の能力知ってる?」
「猫の怪しい笑顔ですよね。知ってます。」
「そうだよ〜。へへっ、ビートっ!」
「なんですか?」
「猫の怪しい笑顔!」
「あなた!どういうつもりで!?くっ!」
「僕への忠誠を誓え。ビート。」
「はい…チェシャ様…」
「これは…!」
チェシャの能力は恐ろしいものだった。相手を強制的に洗脳するものだった。
「こんなの敵に回したら赤の女王よりも面倒だぞ…」
「はい!解除!」
「はっ!私は今まで何を…」
「ふふーん、どうだった?」
「くっ…」
「大丈夫だよ。僕はワンダーランドの住人ってだけさ」
「『自称』でしょ。」
「そんなことないよ〜」
確かにチェシャの言うことは信用出来なかった。しかし、彼の実力は確かなものだった。
「ねえ、チェシャ。私の仲間になってくれない?」
「僕は最初からそのつもりだったけど。」
「でも、あなたの実力を見込んで頼んでいるの。でも、決してあなたの事を信用しているわけじゃない。」
「そ、そんな怖い顔で見ないでよ…」
「アリスの言う通りだ。」
どうやら白うさぎもチェシャに思うところがあるみたいだ。先程よりも表情は明らかに違う。
「僕達は赤の女王を倒してワンダーランドに、秩序を取り戻す。だけど、はっきり言って君のことは信用出来ない。もし仮に君が赤の女王の手先だったら君を迷わず殺す。邪魔をしても同じだ、いいな。」
「大丈夫だよぉ。僕は信用はされないけど裏切るほど友達多いわけじゃないからぁ。」
「その言葉信じますよ。」
「じゃあよろしく、チェシャ。」
「にゃははっ!よろしくぅ〜」
「はぁ、まったく世話が焼けますね。」
皆一様にチェシャの事を信じていないが、確実に赤の女王を倒す道が開けた。
第六章 恐怖の裁判
アリス見てごらん、あちこちで首が飛んでいるよ。ははっ、実に愉快だ。こんなにも愉快な裁判はないだろう?さあ、存分に楽しみたまえアリス。
「見えてきたよアリス」
白うさぎに言われ指された方を見てみるとそこには、雪のように白い城と広がる街だった。
「やっと着いた…」
「僕疲れたぁ、どこかで休憩しようよー」
「チェシャ、これからなのですよ。こんなに油断されては困ります。」
「ビートはお堅いなぁ。疲れて女王に殺されたら君の責任だよ」
「くっ…それは…」
「チェシャの言う通り。ここら辺で少し休憩しよう。ハッター、ルナトお茶会の準備できるかい?」
「もちろんさ、いつもとは少し違うけど最高のお茶会にしてみせるさ。なあ、ルナト」
「ああ、もちろんだよ。ホワイト達はテーブルとイスを用意してくれないかな。」
「どこにあるの?」
「ああ、そうだった。それ!」
そう言ってハッターは持っていたステッキを高く掲げた。すると、テーブルとイスが現れた。
「これでよしっと。頼んだよ〜」
「頼んだよって…」
「まあまあ、彼らのお茶会は一流だからね」
私達が準備しているうちに甘いお菓子の匂いがしてきた。
「さあ、アリスも手伝って。」
「分かってるよホワイト。遠くからこんなにも甘い匂いがするんだもの。早く食べたいわ!」
私とホワイトはテーブルとイスの設置、チェシャとビートは食器の用意を、ハッターとルナトは紅茶とお菓子の準備を。それぞれが役割を果たしお茶会の準備が整った。そして、ハッターとルナトが紅茶とお菓子を持ってやってきた。紅茶からは湯気が立ち上り、お菓子からは甘い匂いが漂う。
「さあ、出来たよ。」
「召し上がれ!」
「すごい!」
1つ1つのお菓子が宝石のように輝いている。紅茶は鮮やかな紅色をしている。
「見事だよ。流石の腕前だね。」
ホワイトが隣で賞賛している。
「お好みでミルクと砂糖を入れてね。」
「まあ、紅茶自体も甘くて美味しいけどね。」
「いただきまーす!」
みんなも食べ始めた。クッキーにケーキなど数え切れないほどのお菓子が並んでいる。そしてどれも甘い。ホワイトが賞賛するはずだ。
「美味しかった!」
テーブルいっぱいにあったお菓子が見る見るうちになくなっていった。大半はチェシャが食べたけど…
「さて、休憩もした。お腹もふくれた。赤の女王のもとへ行こう。」
そうして、王国に向かってまた歩き出す。
「見えたよ。あれが『赤と黒の王国』だよ。」
そこは、赤と黒のトランプのような王国だった。人々は至って平和だ。あちこちにいるのはトランプ兵だろうか。見回りをしているようだ。
「平和そうに見えるけど。」
「そう、見えるだけ。」
ホワイトは怪訝な表情を浮かべる。本当にこの国で恐怖政治が行われているのかしら。
「うーん、ホワイトの言ってること本当にかもしれないね。」
ハッターが呟いた。すると、
「…!みんな隠れて…!」
ハッターがみんなを茂み隠れるように促した。
「ハッター、どうした…」
「しっ!喋らないで。」
そっと、茂みの外の様子を見るとそこには、
「申し訳ありません!お許しを女王陛下!」
傷だらけで横たわる子供とその母親らしき女性が子供を庇っている。そのすぐ近くには、王冠をつけた立派なドレスを着た女性が立っていた。
「ならぬ!私の前でその頭を下げぬとは、躾がなっておらん!裁判にかけよ!」
「お許しください!この子だけは、この子だけはお助けを!私がこの子の代わりに死にます!だからどうかお許しを!」
「ええい!やかましい!この女をここで今すぐ殺せ!」
すると、後ろから斧を持ったトランプ兵が女性に近づき背中を踏みつけた。そして、容赦なく首を切り落とした。
「酷い…」
これが、この国で起きている異変。誰彼構わず、気に入らない者は殺していく。圧倒的理不尽。
「お母さん…?お母さん!!お母さん!!!うわああああああああああ!」
目の前で無惨に母親を殺された子供はなきじゃくる。
「黙らぬか、母親一人死んだところでどうせこの世界ではすぐ再生する。喚くな。」
そして、女王は嫌がる子供を無理やり連れて行った。
「アリス…」
「…行こうみんな。あの子を助ける。」
「もちろんだ、アリス。僕は君の望むことなら何処へでも。」
許さない、赤の女王。あの子のような犠牲者を増やさないようにしないと。"母親一人死んだところでどうせこの世界ではすぐ転生し蘇る"、最低だ。あの子にとっての母親はあの人一人だけ。代わりなんているはずない、いや、いてはいけない。子供にとって親は唯一無二の存在。
「まてまてアリス。どうやって赤の女王の城に行くつもりだい?」
「頭に血上りすぎだよ。」
ハッターとルナトに言われて、我に返る。そうだ闇雲に突っ込んでも殺されるだけだ。何か作戦を立てなければ。
「目的を思い出してくださいアリス。私たちはワンダーランドの秩序を取り戻すこと。そしてその元凶の赤の女王を倒すこと。貴女の目的であり、私たちの目的です。私情を挟まないでください。」
「う、うん。ごめんビート。」
ビートの言うことはもっともだ。でも、どうしよう…
「ねえねえ、まず情報収集しようよー」
そうだ、まずは情報だ。チェシャの一言に気付く。
「とりあえず、この茂みを出よう。街に入って聞き込みをしよう。2人ずつになって3つに分かれよう。」
「了解。」
私とホワイト、ハッターとルナト、チェシャとビート、この3つに分かれ住人に聞くことにした。
1時間後、私たちは中心街から外れたところに集まって集まった情報をそれぞれ開示した。
「今分かってるだけでも、死人は3桁はいってるぞ。」
「裁判にかけられた者、またはその人の連行を妨げた者も首をはねられるようです。」
「特にこのところ、裁判にかけられた数が急に増えたらしい。」
「本来権力を持ってるはずの国王、白の大王クラウディア・スペードは不自然な程静からしい。」
「赤の女王の恐怖政治に止めることなく。黙っているっぽい。」
この国で起きていることが何となく分かってきた。
「この国の人達、国王様を助けて秩序を取り戻そう。」
「でも、どうやって赤の女王のところに行く?」
「それなんだけど、リスクを抱えても赤の女王の下に行ける方法があるの。」
「マジで…?」
「危険過ぎるのでは…」
「でも、これが最短で行けると思うの。お願い皆。」
私の提案に皆は反対みたい。でも、これしかない。
「いいよ。」
「え…?」
沈黙を破り名乗り出たのはホワイトだった。
「本当にいいの…?」
「君がお願いしたんだろう?それに僕は言ったはずだよ。君の望むことなら何処へでも行くって。」
ホワイトの笑顔はいつも安心する。
「ありがとう、ホワイト。」
「ホワイトが行くなら僕達も。」
ハッター、ルナトも名乗り出た。
「僕も行くよ。せっかく出来た友達だもの。友達を失いたくないよ。」
チェシャもだった。チェシャの目はいつもの楽しそうな目ではなく、真剣でどこか寂しそうだった。
「なら、私の知識も必要でしょう。」
「んもう!ビートは素直じゃないにゃあ!寂しいなら先に言えばいいのに!」
「貴方と違って1人でも大丈夫です。」
「ちべたい…」
「皆、ありがとう…!」
行こう、赤の女王のところへ。皆となら、大丈夫。
「じゃあ、作戦通りに。」
「了解。」
私とホワイトは赤の女王が通るであろう道の付近に、ハッターとルナトは王国外で、チェシャとビートは王城でそれぞれ待機。
「赤の女王が来た。」
「分かった。」
私は赤の女王が通るのと同時に遮るように転ぶ。
「きゃっ…」
「何だ、貴様。」
「すみません、足をひっかけてしまって。」
「私の行先に遮るように転ぶとは、貴様どういうつもりだ。この者を裁判にかけよ!」
狙い通り。私は赤の女王に気付かれぬようホワイトにアイコンタクトをする。
「連れて行け!」
「はっ!」
トランプ兵によって連行される。よし、順調に進んでる。あとはホワイト、頼んだ。
私はトランプ兵によって連行され、地下牢獄に投獄されていた。
「結構、寒い…」
暗く寂しいところ。こんなところに長くいたくない。
「出ろ、裁判だ。」
機械のように喋るトランプ兵。この人たちも赤の女王に洗脳みたいなことされてるのかな。もし、そうならこの人たちも助けてあげないと。
「これより、赤の女王スカーレット·ダイヤが罪人を裁く。」
ホワイトの話によれば裁判が始まると同時に城から開始を告げるトランペットが鳴る。そして、裁判は、国民全てに様子を見せるため屋外で裁判が開かれる。
「キングトランプ、この者の罪状を告げよ。」
すると、キングのトランプが模様の服を着た男の人がやってくる。周りには多くの裁判官らしきもの達が座って私を見ている。
「罪人、アリス。この者は転倒し女王の行先を妨げました。これは赤の女王の法律第324条『女王の歩む先を妨げてはならない。』に反します。」
「ならばこの者の首を即刻はねよ!」
「ナンセンス、赤の女王!」
『ナンセンス、女王』は、突入の合図。外に待機していた、ハッター、ルナト、チェシャへの合図。そして、次々と裁判会場に乗り込む。
「な、何者だ、貴様ら!」
「失礼、通りすがりの帽子屋と。」
「三月うさぎだよ。」
「にゃははははは!ねぇ、僕と遊んでくれるんでしょ!目いっぱい遊ぼうよう!」
「悪いけど、赤の女王、貴女のやっていることはこの国の秩序を乱すだけ。ここで倒させて貰うわ!」
とは言ったものの、本来の目的は地下牢に囚われているであろう人々の解放と、トランプ兵の洗脳解除。私たちはホワイトとビートが全員逃がすまでの足止め。あわよくば女王を倒す。
「さて、君たちにはここでやられて貰うから。」
「憎まないでね〜アリスの願いだから。」
「さあ、遊ぼうよ。待っていたんだよ、存分に力を解放できる場所を。」
そして、皆一斉に暴れ出す。
「さて、始めようか。楽しいお茶会!」
「楽しいお茶会!」
ハッターとルナトの抜群のコンビネーションはトランプ兵達を圧倒、混乱、薙ぎ払っていった。
「猫の怪しい笑顔!僕よ!僕の中にある獣の本性をさらけ出せ!」
チェシャは自分自身を洗脳し、みるみるうちに恐ろしい獣へと姿を変えた。そして、その力はハッターとルナトと同じく周りを圧倒していた。
「アリス…?アリス…だと…?」
「赤の女王、覚悟!夢幻の少女!」
"獲った"!そう思った。だが、
「かはっ…」
「貴様、アリスと言ったか…?」
赤の女王に首を捕まれていた。
「アリスっ!」
「動くな貴様ら。この娘がどうなってもいいのか?」
「…っ」
「さて、アリス。貴様がアリスである証拠は先程の特殊能力、夢幻の少女。」
女王の首を絞める手はさらに強まる。
「よこせ、そうすれば貴様の罪も命も助けてやろう。」
「何を…!」
「逆らおうとすればこの娘を殺す。ああ、ついでにこの世界も滅ぼしてやろうか」
「夢幻の少女…!」
「貴様っ…!」
必死に能力を発動し女王と距離をとる。
「けほっけほっ…!はぁ、はぁ、はぁ…」
「アリス!」
危なかった…能力を発動してなかったら死んでいたかもしれない…
「小癪な。一撃で仕留めよう」
そう言って女王は巨大な鎌を出現させる。
「何…?」
「惨殺せよ、恐怖の裁判」
すると、鎌は女王の手から離れ高速回転を始め、
「まずい…逃げろ!」
ハッターが叫んだ時にはもう遅かった。鎌は周りの兵や裁判官を無差別に殺していった。
「アリスっ!避けろ!」
「…っ!」
ルナトが咄嗟に庇ってくれた。目前に広がるは地獄だった。誰も彼も首をはねられ、あちこちに血が飛び散っていた。
「ダメだ、ビート達を待ってたら僕達の命が先に無くなる!」
「でも!」
「君はこんなところで無駄死にするつもりか!ハッター!」
「はいよっ」
ルナトの合図と共にハッターは能力で土煙を起こす。
「待て、逃がさん…!」
「…!」
女王の低い声が聞こえ、あの鎌と共にその姿が見えた瞬間。
「優しき審判者」
「…ちっ」
別の声が聞こえ、大きなあの鎌は寸での所で止まった。
「女王、そこまでにしてくれないか。何もここで殺す必要は、ないのだろう」
「ふん、良いだろう。貴様に免じてここまでにしてやろう」
「ここは引いてくれ。大丈夫、ホワイト達は先に逃がした。国外に出ればすぐに合流できる。行きなさい、アリス」
「行くよ、アリス!」
ルナトに手を引かれ私たちは裁判場を後にする。
私たちは無我夢中で走りやっとの思いで国外へと出る。外に出た先の大きな森でホワイト達と合流した。あの王様が言っていたことは本当だった。
「アリス!」
「ホワイト!ビート!よかった無事だったのね…!」
「それより、どうやって女王のもとから逃げたのですか?」
「クラウディア・スペード様のおかげだよ」
「白の大王…!」
あの人が国王…
「クラウディア様、ご無事でしたか……!良かった……!」
「大丈夫?」
「ありがとう、アリス。僕は大丈夫だよ」
「よし、みんな落ち着いたら一旦状況を整理しよう」
ハッターの提案でここまでの状況整理することになった。
「ホワイト、ビート、地下牢に囚われていた人々。おおよその数は?」
「ざっと、100人はいました。全く、何をそんなに捕まえる理由があるのでしょうか」
「少しだけ話も聞けたよ。皆、口々に女王はいつも監視しているようだ、って言ってたよ」
いつも監視しているよう……ホワイトの言葉に不意に空を見上げみた。
「ホワイト、あれずっとあったの……?」
見上げた空にはかすかにオーロラのようなものが見えた。
「何だ、あれは……?あんなの僕は知らない……!」
「あれから微妙に女王の気配を感じる。うん、あれが国民を監視してるものと結論付けていいでしょ」
何のためにあんなものを……?
「監視、だけとは思えない」
「アリスの言う通りだにゃあ。あれのせいで僕たちの能力が阻害されてるよ。おかげで力の大体半分くらいしか使えなかったにゃ」
「なるほど、大方女王に反抗できないようにするためってところだね。うんとっても性質が悪いね」
みんなが話し合ってる中、私は一つの大きな疑念を抱いた。
「どうしたアリス?」
「……何で女王はこの世界の秩序を乱しているのかなって……」
「そういえば、考えたことなかったな……」
大体にして赤と黒の王国を支配したいなら、この世界の秩序を乱す必要なんて、ましてや赤の女王にとって抗う手段を与えているようなもの。何処に意味が……?
「アリス、そのことは赤の女王を捕縛してから聞きましょう。そのためにもう一度作戦をたてましょう」
「うん、そうだね」
一方その頃、赤の女王。
「アリス、アリス……!」
赤の女王は玉座にて裁判場の時のこと思い出していた。右手で隠すその顔の隙間からは、おぞましい笑顔がのぞかせていた。
「ふふふ……ふはははははははは!!!」
玉座の女王をクラウディアは壁越しに見ていた。
「まさか、赤の女王の奴……!」
「アリス、夢幻の少女。貴様の能力、必ず手に入れてみせる……!100年の執念、待ちに待ったぞ……!このときをどれ程待ちわびていたか……!ははははははは!!!」
第七章 優しき審判者
残念だよアリス。君にこの世界のこと気に入ってくれると思っていたのに。仕方ないけど君のことを殺すしかないようだ。そうだね、なるべく残酷に殺してあげよう。楽しみにしていて、アリス。
私たちは赤の女王打倒のために再び作戦会議を始める。しかし、女王はまるで難攻不落の砦の如く弱点が無く会議は煮詰まっていた。
「女王を倒すのに一番厄介なのがあの鎌だ。女王の特殊能力、恐怖の裁判が発動された状態であの鎌の攻撃を受けると命を奪われる。迂闊に近づけない」
「なら、鎌を奪えば良い?」
「そうするしかないね」
「でも、簡単に奪えるほど女王は隙だらけじゃないにゃ」
チェシャの言う通りだ。……あれ?そういえば……
「女王、私に妙に執着していたよね……?」
「言われてみれば……確かにそうだったね」
「じゃあ!」
「駄目だ!」
私の言葉を遮ってホワイトは叫んだ。その表情はどこか苦しそうだった。加えて、ホワイトにしては珍しく怒りに満ちた表情だった。
「ホワイト……?」
「君たちアリスを囮にして女王を倒そうしているのか?!そうなら僕はこの作戦に参加しない!」
「ホワイト、君は赤の女王を倒すのに犠牲なしで終わらせるつもりだったのか?まあ、別にアリスを犠牲にするつもりなんてこれっぽっちも考えてないけどね」
「例え、アリスを犠牲しないと言っても囮にするのは変わらないのだろう?!アリスを危険に晒すなんて僕は許さない!」
「ホワイトの言っていることも私も一理あります。アリスを危険に晒し、更に命を落とすリスクも高まります」
そうだ。確かに、私が囮として女王の所に行けば真っ先に殺される可能性だってある。ましてや、女王は何故私に執着しているのかも分からない。相手の狙いが分からない状態で闇雲に突入しても全滅するかもしれない。それでも……
「ホワイト、綺麗事だけでこの世界が救えるなら私はいらない。いくら、ホワイトがこの作戦に賛同できないとしても、この作戦で私の命と引き換えにこの世界が救えるなら、私は構わない。だって、私はこの世界を救うためにやってきたんだから」
「アリス……君は……」
「それにあなたが呼んだんだよ。私にこの世界を助けて欲しいって。だったら、どんな手段を使っても助けるのが、私たち“人間”ってものなんだよ」
周りのみんなも私の言葉に頷いてくれている。
「ごめん、アリス」
「いいよ、私たちの方こそホワイトの意思を尊重していなかったね。配慮が足りなかった、ごめん」
私が差し伸べる手を取るホワイトの手は離さないといった意思を感じる。
「でも、この作戦が危険であることに変わりはない。少しでもアリスの命が危険と感じたら、僕は作戦より彼女を優先させる。これが僕がこの作戦に参加する条件だ」
「みんな良い?」
私が聞くまででもなかったみたい。みんな黙って頷いてくれた。
「じゃあ、各自配置を決めようか。チェシャは……」
準備は万端、舞台は整った、やることはただ一つ。
「アリス、無理だけはしないでくれ……」
心配そうにホワイトは私の手を握る。何処までも心配性だなと思いつつ、ホワイトの心配は尤もだった。無茶をすれば私はあの鎌の餌食。元の世界に戻るどころか、命を落とす。それだけは何としても避けなくてはならない。
「大丈夫。ホワイトとの約束ちゃんと守るわよ」
「命も優先だけど、女王を倒すことも優先事項ですよ」
本当にビートはどこまでも冷静で助かるよ……そう、命を優先して女王を倒すことを怠っては意味がない。この作戦はもともと私が提案した、打倒女王のための作戦。私が完遂しなければならない。
「一人で成し遂げるなんて思わないんだにゃあ。君の隣には仲間がいるんだからね」
「たまにはいいこと言ってくれるのねチェシャ」
「たまにはなんてひどいにゃあ」
うん、何も心配することなんてない。私には心強い仲間がいる、信頼して背中を預けられる仲間が。
「行こう。最後にするんだ」
向かうはもちろん女王の城。最後の戦いだ。
「緊張してる?」
女王の玉座の近くまで何とか忍び込めた。そこでホワイトが声をかける。
「してないように見える?」
「僕と同じでよかった。安心したよ」
「でも、怖くないよ。みんないるから」
「アリスならそう言うと思ったよ」
ホワイトのこの言葉はすごく落ち着く。覚悟を決めるように深呼吸をする。ホワイトに目配せして女王の玉座に突撃する。
「女王、あなたの望み通りの状況になったかしら?」
「ああ、貴様の護衛さえいなければな。貴様らの考えていることなど、分かりきってる」
「えっ……」
すると女王の前に傷だらけのビートと首輪をつけられたチェシャが投げ出された。
「この二人を殺してしまうのは非常に惜しい。私が一生飼ってやる。猫には首輪が良く似合うな」
胸の奥底が熱く苦しい感覚。味わったことない感覚。気持ち悪い。怒りの感情なのかどうかすらもうわからない。
「この世界の者たちすべて私が飼ってやる。喜べ!この私に一生仕えることができるのだ!奴隷としてな!ははは!」
「女王!」
高笑いをやめてもにやにやとこちらを眺めている。何がそんなに面白いのか理解できないし、したくない。
「来るが良い!貴様のアリスの能力、この私が頂く!」
勢いよく女王に向かっていく。でも、怒りに任せた突撃じゃない。もちろん、作戦は遂行させる。必死に手を伸ばし鎌に届くかと思ったその瞬間、違和感を覚えた。何かが狂っていることに。
「はい、そこまでだよ~」
実に気の抜けた声。でも、その声には聞き覚えがある。何度も私を助けてくれた人の声。体は勝手に止まり、後ろを振り向いた。
「ダメじゃないか~物語が台無しになるところだったよ~」
何かを惜しむような表情で彼は言った。私を含めたこの場の全員の視線が彼に集まり固まる。
「ホワイト……?いや、誰なのあなた」
「白紙にされてきた作家たちの思い。名もなき作家たち、ホワイト。それが僕だよ」
第八章 もう一人のアリス(アナザー・ランド)
「君、誰だ……ホワイトじゃないだろ!」
「やだなぁハッター。さっき説明しただろう?」
「なるほど、僕たちの知ってるホワイトではないことは分かった」
「流石ルナト~理解が早くて助かるよ~」
ホワイト以外の人々は全員時間が止まったように動かない。女王でさえ驚きで言葉が出てない。かく言う私も驚きが隠せない。
「いやぁ、僕の描いたシナリオ通りに動いてくれてうれしかったよ~面白いねぇ自分が書いたキャラクターが思い通りに動くって~」
私以外の人たちは理解できていない。それもそのはず。この世界の人間かと思っていた自分は誰かに作られた存在だと言われれば混乱もする。
「でも、最後はダメだよ~特に女王、君だよ~何回もアリスを殺そうとするから止めるのが大変だったよ~アリスもアリスで女王に突っ込むとか馬鹿なことしてくれちゃってさぁ。ほんと、人間ってどうして思い通りに動いてくれないのかねぇ」
全部彼の手のひらの上で転がされていた。私たちは彼にとってただの演者、人形でしかなかった。彼も私たちのことをそんな風にしか思っていなかった。
「酷い話だにゃあ……僕たちはアリスのため、アリスは君のために戦っていたのにそれすらあいつにとっては喜劇でしかなかったのにゃあ……」
「気に入らん……この世界の王が私ではなく貴様だというのか……そんなことがあるはずないんだ!」
女王が玉座から鎌を抱え飛び出していった。
「私こそがこの世界の王なのだ!」
「危ない!」
鎌が彼の首を吹き飛ばそうとした瞬間、
「不思議の国のアリス(アリス・イン・ワンダーランド)」
「え……」
言葉を失った。私の能力と同じ名前だった。でも、同じ名前のはずの能力は全く違っていた。
「私の鎌が……!」
「その能力は返してもらうよ。もともと僕が作った能力だしね。ついでに君の役も元に戻しておいたよ。君は赤の女王スカーレット・ダイヤではなく、醜い紅蓮の魔女ブラッディ・ロマンに戻しておいたから」
ホワイトがそう言い放つと、みるみるうちに女王の姿が美しい姿から年を召した老婆の姿へと変わっていく。
「どうなっているの……」
「僕の本来の力、不思議の国のアリス(アリス・イン・ワンダーランド)だよ。僕がすべての能力、役を創って貸し与えたからね。すべての能力は僕の管理下に置かれているんだよ。僕がこの能力を発動させるだけで、君たちの能力は僕に返却されるんだよ。」
同じ名前の能力、だけどその力は恐ろしいなんて言葉で表せるものじゃなかった。やっていることは赤の女王、もとい紅蓮の魔女より酷いものだった。
「何故わしから鎌を……!」
ロマンはしわがれた声でホワイトに問い詰める。彼はあざ笑うように答える。
「君はやりすぎだよ~確かにアリスの能力に執着する女王の役を与えて、相手にするには絶望的過ぎる能力も与えた。でも、殺してまで奪うような感情は植えつけないよ~?意思を自分の判断でこの物語を台無しにしようとした。君は僕の物語にいらない。だから君から役を返してもらっただけ」
意思を持つことが許されない世界が存在するの?いいえ、あってはならない。この世界が間違っている。誰もが意思を持って自由に生きる。誰かの物語の登場人物じゃない。皆一人ひとりが主人公の世界のはず。
「何でこの世界を創ったの。誰かを操りたいなら、物語を書き続ければいいじゃない」
私がそう尋ねるとホワイトから笑みが消えた。そして、ひどく冷たいまなざしを向けてきた。
「僕たちは名もなき作家。幾度も書いては白紙になってきた作家たちの思いが僕だ。僕たちは描き続けた。創造し続けた。だけど誰の目にも止まらない、記憶に残らない、僕たちの努力が否定された気分だったよ。でも、世界は僕たちの努力を見てくれていたんだ。そして僕たちにチャンスをくれた。それがこの世界だよアリス」
皆怒りの表情を浮かべていた。人間の私利私欲は本当に醜い。自己満足のために生み出されたなんて知ったら誰だって怒りを覚える。
「では、何故アリスは創らなかったの?何故現実の世界から連れてくる必要があったの」
私は落ち着いていた。何故かはなんとなくわかっていた。この人たちの、ホワイトの気持ちがわかるから。
「君をずっと見ていたんだ。でも、君は僕を知らない。だから、ワンダーランドの中だけでも僕を見て知ってほしかった」
ホワイトのこの言葉ですべて分かった。私はこの人を知ってる。
「白井 月兎君、でしょ」
「えっ……」
私は彼を知っている。同じクラスの男子、白井 月兎。いつも教室の端にいて本を読んでいたり、物語を書いている。彼のことは知っていたが、話すことが苦手だった私は話に行く勇気がなく知らないふりをしていた。
「あなたがずっと私を見ていたのと同じく、私もあなたを見ていたわ。でも、話に行く勇気がなかった。いえ、話すことから逃げていた。ごめんなさい」
「あ……あ……」
「でも、あなたのおかげで話すことから逃げなくなったわ。感謝している、ありがとう」
「アリス……僕は……僕は……」
「だから、夢から覚めたら仲良くしてね」
別れを告げる。この世界と、この世界でできた大切な仲間に。
「皆ありがとう、とても楽しかったわ。そして、ごめんなさい。私たち人間の欲があなたたちを汚したわ。あなたたちのことも絶対に忘れない。また、会いましょう」
「やめてくれ……この夢を終わらせないでくれ……僕のアリス……!」
「もう一人のアリス(アナザー・ランド)」
最終章 私と彼の物語
“やあ、アリス……”
“全てを終わらせましょう。この物語は完結したわ”
“お前はあの約束を守れるのか。夢から覚めればすべて忘れるぞ”
“忘れないわ。だってあの夢は私の世界にしたのだから。私の中で永遠に生き続ける夢。忘れるはずないわ”
“流石アリスだ。さあ、いつでも目覚められるよ。起きて白うさぎに会っておいで”
私はあの夢から覚めた時には病院にいた。通学中に倒れたところを、同じ高校に通う生徒が見つけてくれたらしい。時間にして約三日ほど眠っていたらしい。検査しても原因がわからずしばらく病院から出してもらえず、かなり退屈していたのは言うまでもなかった。五日後に心身ともに健康であると医師から診断され、ようやくいつもの生活に戻った。学校でしばらく私は話題になったらしい。色んな人が私のところにやってきた。以前の私だったらほとんど話さず逃げていたが、あの夢のおかげで多くの人と話すことができた。自然と自分自身も明るくなった気もする。
「白井君」
「え……あ、有栖川さん……」
「何書いてるの?」
「え……こ、これはえっと……」
彼が何を書いてるのか知ってる。でも、ちゃんと自分の目で見てみたかった。
「不思議の国のアリス?」
「そ、それの派生というかなんというか……登場人物の名前とかは不思議の国のアリスから拝借してますが、ストーリーは僕が考えました。異世界バトルみたいな感じで……ファンタジーが好きなので……」
「あれ、完結してないんだ?」
「あ、はい……なかなか終わりが決まらなくて……」
この物語はまだ終わっていない。あの夢は私の物語、世界。この物語は、
「ねぇ、よかったら私と一緒に終わりを書かない?」
「え……!い、いいんですか……!」
「もちろんよ」
この物語は私と彼の物語で世界。私と彼で紡ぎ完結させるのだから。
皆様こんにちは。作者の成瀬です。
高校一年の時に友達に影響されて書き始めた作品です。このサイトでは初めて完結させました。私の第一作にしたいという願望を書き出しておきます(?)
この話を書こうと思ったきっかけが私の部活の仲間で、アリスの話が好きだというのでその人のために書いたのが始まりでした。ですが、だんだんと書いてるうちに小説を書くことが楽しくなっていき、友達ではない第三者の方々に読んでほしいと思い、執筆、掲載をし始めました。ですが、高校生というのは想像より忙しく、さらに私はいろいろ制限があったのでなかなか執筆が進まずそのまま受験シーズンに突入してしまいました。無事に大学合格し、現在は元気に短大生してます。それに伴い自由な時間が出てきて、最近執筆活動を再開させることが出来ました。これからいろいろな作品を掲載していく所存です。
最後まで読んでいただきありがとうございます。また、別の作品でお会いしましょう。