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霊滅師  作者: シクル
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第九話「不覚」

「詩祢さん……コイツ……」

「ええ、当たりね」

詩祢がコクリと頷き、男の方を見る。

中肉中背で白衣を着たその男は、普通の中年となんら変わらなかった。

ヘタすれば人間と見間違える程だ。

「コイツが……?」

半信半疑で月乃が問うと、詩祢は「ええ」と答えた。どうやらこの男が詩祢の目標ターゲットである危険度Aランクの悪霊のようだ。が、とてもそうは見えない。

「単刀直入に聞くわ。成仏する気ある?」

詩祢が問うと、男は嘲るように「ククッ」と笑った。

「ないな。それに、まだこの学校の生徒は解体バラしてないんでね」

男はニタリと笑うと白衣のポケットからメスを取り出した。

「詩祢さん、やっぱり依頼通りです。解体屋吉柳かいたいやきりゅう、本物です」

「解体屋?」

亮太が問うと、菊はコクリと頷いた。

「ええ。各地の学校を転々としながらその学校の生徒を必ず二、三人 解体(バラ)し、ホルマリン漬けにしてその学校を去る……。もう五年も前からそんなことを繰り返している殺人鬼です」

五年も前から……。亮太はゴクリと唾を飲み下した。

五年間も人間を解体バラし続けた殺人鬼が、今目の前にいるのだ。流石の亮太でも多少の恐怖を感じずにはいられなかった。

ふと亮太は月乃の方を見る。

「月乃、大丈夫か?」

「あ、うん。見た目が生きた人間っぽいからそんなに怖くはないけど……」

が、やはり震えている。

まあ月乃にしては気絶していない分上出来だろう。

「で、君達は雑談しにきたのか?巫女に、女子高生……新鮮そうな生の身体を、早く解体バラさせてくれよ」

ニタリと笑う吉柳に、亮太は嫌悪感を覚えた。

解体バラされるのは貴方の方じゃないの?」

スッと。詩祢が大鎌を構えた。

「月乃、行くぞ」

「う、うん」

詩祢だけで済ませてしまいそうだが、一応憑依しておく。月乃に気絶されても面倒だ。

『気をつけてね……』

「ああ」

亮太は月乃の身体で右手を動かし、憑依出来たことを確認すると、吉柳の方を見た。

見た目はただの中年なのだが、吉柳のまとった雰囲気は確かに狂気に満ちた殺人鬼のものだった。

ブルリと。亮太は身震いする。果たしてそれが武者震いだったのかそれとも、単純に恐怖を感じて震えていたのか……亮太にすらわからなかった。

「亮太君……だったわね?」

「ああ」

短く応え、頷く。

「自分の身は自分で守りなさい」

冷たい、突き放すような言葉だった。詩祢には亮太の身を案じている余裕はないらしい。

つまり、それほどまで吉柳は危険なようだ。

「ああ」

亮太は短く応えると、刀を鞘から抜くと、近くにいた菊に鞘を手渡した。

「鞘、しっかりと預かりました」

菊はニコリと笑うと、すぐに後ろへ下がった。

「開幕といこう」

吉柳はニタリと笑うと、パチンと指を鳴らした。

「な―――ッ」

不意に。ガッシリと詩祢の足を掴まれた。

完全な不意打ち。吉柳一人に気を取られ過ぎた証拠だ。相手は一人とは限らない。

「油断したな巫女よ」

『詩祢さんっ!』

つぎはぎの、まるで破れたぬいぐるみを何度も修繕したかのような姿。

そんな姿の少女が詩祢の足を掴んでいた。

『ゥゥ…………ァァイイィ……』

つぎはぎの少女が詩祢の足元で呻く。

その姿はあまりにも哀れで、醜くかった。

再び感じる、先程の異臭。

あの異臭は吉柳が放ったものではなく、このつぎはぎ少女が放ったものだったのだ。

「大丈夫ですかッ!」

亮太が急いで詩祢の足元へ刀を振り降ろそうとした時だった。

ヒュン!と風を切る音がし、亮太の頬をメスがかすめる。

美しい白髪が数本、ハラリと床に落ちた。

「君の相手は僕だ」

「テメエ……!」

亮太はギロリと吉柳を睨んだ。

「こ…………のっ!!」

足を掴むつぎはぎ少女に、大鎌を縦に振り降ろそうと詩祢が大鎌を振り上げた時だった。

「ッ!?」

ガクンと。足元が揺らぐ。凄まじい力で押されている。

何とか倒されぬようもう片方の足でバランスを取りながらも、ドンドン押されていく。

「詩祢さんっ!!」

ドン!とドアにぶつかる。詩祢の背中に痛みが走る。

進行経路をドアに断たれても尚、つぎはぎ少女は押すのをやめなかった。

「君にはとりあえず退場してもらおう」

ココまで来てやっと、このつぎはぎ少女の目的がわかった。

詩祢をこの部屋から出すことだ。

「乗ってやるわよ……! 亮太君、月乃ちゃん、私が戻るまで何とか粘って!!」

詩祢はそう言うと背後のドアを急いで開けた。

このままドアごと吹っ飛ばされるよりは素直に外に出た方がマシだ。

さっさと片付けて吉柳を倒さなければならない。

案の定、つぎはぎ少女は準備室から出て理科室に入ると手を離した。

ゆっくりと立ち上がり、虚ろな目で詩祢を見た。

「大丈夫ですかっ!」

鞘を持ったままの菊が準備室を出て詩祢の元へ飛んで来る。

「ええ、一応……ね。痣は出来たかもだけど」

そう言って詩祢は菊に見えるよう、袴の裾を少しだけ上げた。そうして外気に晒された足首には、生々しく赤い手形が残っていた。

「詩祢さん……ココ……」

「ええ、かなりいるわね」

背後に複数いる存在。詩祢は振り向かずにその存在を知覚した。

理科室内に複数の呻き声が聞こえる。

足元にも数人。横にも。背後にも。

「全員、アイツが殺してきた生徒かも知れないわね」

「気味悪いこと言わないで下さいよ……。実際そうだとは思いますけど……」

詩祢が大鎌を構えると同時に、その隣で菊も鞘を構えた。

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