第八話「補助」
出雲詩祢……。亮太は心の内で今彼女が名乗った名前を繰り返す。
霊滅師で、巫女。
だがそれより気になるのは詩祢の隣にいつ着物姿の少女だった。
見るからに霊ではあるが悪霊ではなさそうだ……。亮太と似たような存在なのかも知れない。
「あら……?もしかして、目標奪っちゃった?」
詩祢が申し訳なさそうに問うと、亮太はコクリと頷いた。
「何やってるんですか詩祢さん……」
「仕方無いじゃない。どっちにしろ倒さなきゃいけないんだし」
「そういう問題じゃないですよ。ちゃんと謝って下さい」
少女の霊に促され、詩祢は「ごめんね」と亮太に頭を下げた。
『あの……』
「何?」
詩祢は月乃の声に笑顔で答える。と、同時に亮太は月乃の身体から一旦出た。
その方が月乃も会話しやすいだろう。
「さっきAクラスって言ってましたけど……どういうことなんですか?」
月乃達が受けた依頼の危険度はCクラスだったハズだ。
実際、先程の霊も大した霊ではなかった。(その大したことない霊にやられかけたのだが)
それなのに危険度Aクラスというのはどういうことなのだろうか……。
「ああ、アレね……。私達が受けた依頼はAクラスなの。どういう訳かCクラスの霊と同じ場所にいるみたいなんだけど……」
「おいおい。あのババア知ってて俺達をココに行かせたのか……?」
月乃の隣で亮太が顔をしかめる。
「ううん。それはないと思う。多分、情報の行き違いがあったんだと思う」
「行き違い……ねえ」
と、亮太は腕を組んで溜息を吐いた。
「それにしても、ココのどこにいるんでしょうね……?」
「もう少し調べなきゃダメね……」
そう言って詩祢は辺りを見回した。
見た感じ特に変わった場所はない……。
「あ、貴方達はもう帰ってもいいわよ。さっきの霊、貴方達で除霊したことにして良いから」
そう言われて、亮太はムッと顔をしかめた。
まるで足手まといになるから帰れと言われているような気分だ。
例え彼女にそんなつもりはなかったとしても、亮太にとっては少し気分の悪い言い方だった。
「いや、俺達は……」
と、亮太が言いかけた時だった。
「い、いえ。あの、さっき助けてもらったんで……お礼が、したいです」
月乃だった。
帰りたがると思っていたのだが、亮太の予想に反して月乃はココに残ることを望んだ。
「……そう。じゃあ一緒に探しましょう。気をつけてね」
詩祢の方も案外すんなりと許可してくれた。
理科室の中を色々と探しては見たのだが、結局おかしな点は発見出来なかった。
「ココにはいないんじゃないですかぁ?」
若干呆れ気味に、霊の少女が詩祢に問う。
「そんなハズはないんだけどなぁ……」
詩祢は困ったような表情で答えた。
「なあ、さっきから気になってたんだがお前は何なんだ?」
亮太が霊の少女に近付き、問う。
すると、彼女は首を横に振った。
「人に名を聞く時はまず己から……って言うじゃないですか。先に自己紹介して下さいよ」
そう言って彼女はニコリと笑った。
「あ、そう言えば名乗ってませんね」
ピタリと動きを止め、こちらを向いて月乃が言う。
「私、城谷月乃です。一応、霊滅師やってます」
ペコリと月乃が頭を下げる。
「黒沢亮太。見ての通り霊だ」
多少ぶっきらぼうに亮太は名乗った。
そんな二人を見てニコリと着物姿の少女は笑った。
「月乃ちゃんに亮太君ですね……。わかりました。私は菊、亮太君と一緒で霊でーす」
菊と名乗った彼女の高いテンションに二人は若干戸惑った。
「はいはい。自己紹介が終わったなら探索続けましょ。私は、もう名乗ったから良いわよね」
パンパンと手を叩く詩祢に促され、一同は再度探索を始めた。
が、一向に何かが見つかる気配はなく、本当にこの部屋にいるのか疑わしくなってきた。
「詩祢さん、本当にココなんですか?」
月乃が問うと、やはり詩祢は困ったような表情になる。
「確かココだったと思うんだけどな……」
そう言いつつ、詩祢は隣の準備室へと続くドアへと近づく。
詩祢に続いて、亮太達三人もドアへと近づく。
「もしかしたら……こっちかも」
ガチャリと。詩祢はドアを開けた。
「――――ッ!」
不意に鼻をつく異臭。
肉体のない亮太と菊には感じ取れないハズなのだが、亮太も菊も鼻を押さえている。
「菊達が反応するってことは……」
「霊が出した異臭ってことですよね……」
詩祢を先頭に、ゆっくりと中へ入る。
進めば進むほど異臭は強くなる。
「……やあ」
「「ッ!?」」
不意に聞こえた声に、全員の表情が驚愕に歪む。
準備室の奥に、一人の男が立っていた。
「来ないのかと思ってたよ」
男は、こちらを見るとニヤリと笑った。