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霊滅師  作者: シクル
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第六十三話「白」

 もう少し長い時間気絶したままかと思ったが、思いの外亮太は十分程度で目を覚ました。

 最初は状況を把握出来ていなかったが、月乃の説明により、自分が悪霊化していたこと、ヘッドを撃破したことなどを理解した。

「少し、休む?」

 月乃が問うと、亮太は首を横に振った。

「いや、休んでる暇はないし、俺は大丈夫だ」

 多少心配ではあったが、休んでいる暇がないのは事実だ。

 月乃はコクリと頷くと、廃工場へと走り出した。

 これから月乃達が向かう廃工場は、もう何年も前に使われなくなっており、人食い屋敷が近くにあるせいもあってか、誰も寄りつかなくなっているような場所だ。黒鵜がヘッドのように霊としての気配を消すことが出来るのなら、そこは格好の隠れ家となるだろう。

「……着いた」

 走りだしてから数分後、月乃達は黒鵜が潜んでいるであろう廃工場へと到着した。

 手前に巨大な駐車場があり、工場自体はその奥にある建物だ。

「亮太。駐車場の中、見て」

 月乃に言われ、駐車場の方へと視線を移す。

「アレは……」

 亮太の目に最初に映ったのは、病院のベッドらしき物の上に横たわる、儚げな少女の姿だった。服すら身に着けていない少女の身体には、幾本ものコードが繋がっており、そのコードの先には巨大なカプセルのような物があった。そのカプセルのような物の中には青白いエネルギーのような物が貯蓄されている。

 そして横たわる少女の前に、一人の男が立っていた。

 男……というよりは、老人と言った方が正しいかも知れない。禿げもせず、白髪でもない、綺麗とは言えないが黒い髪の生えた頭、背筋もしっかりとしており、一目見ただけでは老人だとは思えない。が、彼の発する雰囲気は老人の物であった。

 そして月乃は、亮太は、直感的に理解する。

 この男が――――黒鵜。

「黒沢……亮太」

 駐車場の中へと入ると、月乃達が言葉を発するよりも先に、黒鵜と思しき男が口を開いた。

「何故……消えないッ!」

 突如として語気を荒げ、男は亮太を睨みつけた。

「悪いな。アンタの勝手な都合で消える訳にはいかない」

 負けじと亮太も、男を睨みつける。

「お前が……生まれなければ……! 水葉は……ッッ!」

「……水葉? 何の話だ?」

 男は拳をギュッと握り、亮太を一層強く睨みつける。

「これを見ろッ!」

「ッ!?」

 男は素早く亮太に近づくと、強引に少女の横たわるベッドらしき物傍へと連れて行く。

「亮太っ!」

 男は亮太の後頭部を掴むと、少女の傍へと無理矢理亮太の顔を近づけた。

「何を――――」

「いいから見ろッ!」

 男の剣幕に押され、亮太は目の前で横たわる少女の顔を凝視する。

「――――ッ!」

 一瞬絶句したが、すぐに亮太は口を開く。

「この娘……は」

「亮太……?」

 月乃が急いで亮太の元へ駆けよると、亮太の様子がおかしいことに気が付いた。

「見たか!? 思い出したかッ!?」

 男の声を最後に、亮太の意識は途切れた。



「何だ……これ……ッ」

 先程まで廃工場の駐車場にいたハズが、いつの間にやら真っ白な空間へと移動していた。

 夢とも現実とも判断し難いこの空間に、亮太は困惑する。

「ここは……?」

 探索しようと、一歩踏み出した時だった。

「――――――――ッ!?」

 突如として起こる頭痛。そして――――


 膨大な量の記憶じょうほうが、亮太の脳内に流れ込んだ。


「ああああああああああああああああああああああああああああッッ!!!」

 頭が痛い。当然だ。通常ならあり得ない量の情報を一瞬で脳内に叩き込まれているのだ。確証はないが、そう形容する他なかった。

 見たことのないハズの景色が、人物が、建物が、一気に亮太の脳内へと入り込む。

「うわああああああああああッ!!」

 叫ぶことしか出来ない。頭を両手で抱え、両膝を地面に付き……否、この真っ白な空間に地面などあるかどうかすら怪しい。が、気が付けば亮太はドサリとその場に倒れていた。

 倒れても尚、頭痛は続いて行く。

「この記憶は……ッ!」

 一瞬とも永遠ともつかぬ時を過ごしたような気がする。が、この空間に時間という概念があるかどうかわからない。

 徐々に、頭痛は治まっていく。

「あの娘……は……」

 亮太が呟くと同時に、真っ白だった景色が一変した。



 夢だ。一言で形容するならば。

 自分の登場しない。傍観する形の夢のようなものだ。亮太は今、そんな状況にある。

『ココは……?』

 見えるのは、ボロボロのアパートだ。そこからすぐに視点は切り替わり、アパート内の一室へと変わった。その部屋の中、一人の男が机の上で何やら作業をしている。

 ボールペンだろうか。恐らく、内職である。

 ボロボロの部屋の中、机の上で黙々とボールペンを組み立てている。

『おい、アンタ……』

 亮太が話しかけても、男は返事をしなかった。霊故ではない。直感的にだがわかる。亮太は本来、ここには存在しないハズなのだと。

 それにしてもこの男、どこかで見たような顔だ。まるでついさっき見たような顔……と、そこまで考えて亮太は気付く。

『……さっきの』

 先程、廃工場の駐車場にいた男であった。

 しばらく男を見ていると、ガチャリと音がして、部屋のドアが開く。

「ただいま」

 少女の声がして、亮太と男はほぼ同時に玄関の方へと視線を移す。

『あの娘は――――ッ』

 玄関に立っている少女の姿は正しく――――先程廃工場の駐車場で、病院のベッドのような物の上に横たわっていた少女の姿であった。

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