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霊滅師  作者: シクル
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第五十九話「斧」

「これは……ッ!?」

 金城は目の前で浮いている斧を凝視した。何の変哲もない……ハズの斧が、宙に浮いている。恐らく……否、確実に、先程金城の背中を切り裂いたのはこの斧だろう。

 しかし、何故……?

 この斧はネックの使っていた斧だ。特に大したものは感じられなかったし、ただの斧のハズだ。元々意思を持った斧だとは考えにくい。

『さぁ……続けようぜぇ……ッ!』

「な――――ッ!?」

 どこからか金城の耳に聞こえたのは紛れもない、ネックの声であった。

 浮いている斧。ネックの気配。聞こえる声。三つの現象が、金城を一つの解答へと導いた。

「貴様……まさかッ!?」

 憑依。魂が消滅する寸前、最後の力を振り絞り、近場にあった斧に憑依した……ということだろうか。信じ難いが、そうでなければ今の状況に説明がつかない。

『行くぜぇ……!!』

 ブン! と斧が金城の首元目掛けて横に振られた。

 金城は素早く後退し、斧を避けたが、その際に背中に激痛が走る。先程切られた部分だ。

「ぐ……ッ!」

『さっきは散々ボコボコにしてくれやがって……ッッ!! 借りは返させてもらうぜェーッ!』

 縦に、横に、無茶苦茶な動きで斧は金城目掛けて回転する。ギア解放による疲労と、背中の激痛が原因で、素早く動くことが出来ないながらも、金城は必死でそれを避ける。

『隙ありィッ!』

 避け損ね、右肩を切られる。激痛と共に傷口から大量の血液が零れ堕ちる。

「がァァッッ!!」

 叫び、右肩を押さえる。背中同様、傷はかなり深い。手早く止血しなければ命の危険に関わる。

『良い様だァ……』

 笑い声の混じったネックの声。

『終わりだッッ!!』

 斧は、金城の頭部目掛けて思い切り振り降ろされていく。

 深手を負った今、金城にそれを避ける力はない。

「おおおおおおおおッッッ!!!」

『――――ッッ!?』

 

 斧は、金城の頭上で止められた。


『馬鹿な……ッ!?』

 真剣白刃取り。相手が斧なため、「真剣白刃取り」とは言い難い。が、とにかく、金城は頭上で振り降ろされた斧を、両手で受け止めたのだ。

『は、離せ……ッッ!!』

 斧が必死に逃れようともがくが、金城は一向に離そうとしない。

「今度こそ……終わりだ!」

 金城は斧を持ち替え、柄の部分を持つと、反発する斧の力を無視して強引に地面に振り降ろした。

 斧の刃先が、地面に突き刺さる。

 抜け出そうとする斧に追い打ちをかけるように、金城は斧を踏みつけた。更に深く、斧は地面に食い込んで行く。

『おい……待てッ!! ふざけんなッ! 抜きやがれッッ!!』

 金城は喚く斧を更に踏みつけ、地面へと深く深く食い込ませる。

『糞……ッ! 抜かねえならせめて俺を消しやがれッッ!! こんな所に刺さったままなんて御免だぞ!!』

「断る。お前はココで一生――――自分の罪を悔いていろッ!」

 いつまでも喚き続ける斧を放置し、金城は激痛に耐えながらも千鳥足でその場を離れた。

 妹の首を置いた木の場所まで辿り着き、その木にぐったりともたれかかると、コートのポケットから携帯電話を取り出した。

「もしもし……? 城谷さん……ですか?」

 その後、駆けつけた協会の増援によって金城は妹の首と共に救助され、ネックの宿った斧には封印が施された。



 金城と離れてから数分が経過した。

 走ったので随分と離れたハズなのだが、この位置からでも憎悪に満ちた金城の叫び声が聞こえて来る。

「金城さん……大丈夫かな……」

 ボソリと。不安げに月乃が呟く。

「……さあな。だが金城はあんなのにやられるような奴じゃない……と思う」

「と思うって……曖昧ね」

 月乃が呆れ顔で言うと「仕方ないだろわかんないんだから」と亮太は言い返した。

「とにかく。俺達は前に進まなきゃいけない。俺達をここまで辿り着かせてくれたみんなのためにもな」

 亮太の言葉に、月乃は真摯な表情でコクリと頷いた。

 あの日、突如亮太が憑依した日から随分と時間が経った。

 楽しいことも、辛いことも、悲しいことも沢山あった。

 月乃の直感だが、恐らくこの戦いは、亮太にとって最後の戦いになるだろう。黒鵜の殺害した人物は、亮太と見て間違いはないだろう。故に黒鵜との戦いで、亮太は死因を知り、そして黒鵜を倒すことによって――――亮太の未練は晴らされる。

 霊の未練が晴らされるということは、現世に留まる理由がなくなるということだ。亮太と過ごせる残りの時間は、戦いだけなのかと考えれば、すごく寂しい。

「……どうした?」

 自分でも気が付かない内に足を止めていたらしい。少しだけ月乃より前方にいた亮太は、こちらへふわふわと飛んで来る。

「ううん。なんでもない」

「そうか……。じゃあ行くぞ」

「……うん」

 頷き、月乃は廃工場に向かって走り始めた。



 しばらく走ると、何やら建物が見えてきた。間違いない。黒鵜がいるであろう廃工場だ。まだ少し遠いが、屋根が見えてきたということは、後少しで到着するということだ。

「いよいよだね……」

「ああ」

 月乃の言葉に亮太が頷き、廃工場へ向かって走り出そうとした時だった。

「やはり、来ましたね。ネックでは役不足でしたか」

 前方から聞こえる、まだ幼い男の子の声。

 目の前に立っていたのは小学生程度に見える少年――――ヘッドであった。

「忠告したハズですよ。大人しく成仏するべきだと」

 呆れたように言うヘッドを、亮太は睨みつけた。

「お前の忠告なんか聞けるかよ。通せ」

 ヘッドは首を横に振る。

「仕方がありませんね。私が直接、貴方達の相手をする必要があるみたいですね……!」

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