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霊滅師  作者: シクル
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第五十三話「手」

「何よ……これ……?」

 バスを降り、木霊町の城谷家付近のバス停に到着した月乃達の目に映ったのは、大量の低級悪霊達がうろつく木霊町の姿だった。

「城谷さんから聞いた通りだな……」

 金城はその顔に驚愕の色を浮かべ、ボソリと呟いた。

「おい、コイツら……明らかに俺達に敵意を向けてるぞ」

 亮太の言葉に、月乃はコクリと頷くと、鞘から刀を抜いた。隣で金城も身構えている。

「亮太、アンタは下がってて。指輪が壊れちゃ困るから、無駄な戦いはしないで」

 亮太は右手の中指にはめられた指輪を見つめる。昨日の武者との戦いのせいで、傷が増えてしまっている。この先、あのレベルの悪霊と戦うことがあるだろう。そのことを考えれば、確かにこんな雑魚と戦っているような余裕は、亮太にはなかった。

「すまん、任せた」

「おう。任せろ」

 金城は亮太の前に立ち、亮太の方を振り向くと、ニッと笑った。

「金城さん! 来ますっ!」

 月乃がそう言うのとほぼ同時に、悪霊達は二人に向かって飛びかかって来た。

 月乃は少々怯えながらも素早く刀で悪霊を斬り、滅する。隣で金城も片っ端から素手で戦い、悪霊達を滅している。

 二人が戦っている中、自分が何も出来ないという状況に、亮太は歯がゆさを感じたが、今は戦うべき時ではない。亮太には、余裕がないのだ。

 しばらく戦っていると、月乃が斬ろうとしていた目の前の悪霊が、月乃以外の者による背後からの攻撃で消滅した。

「え……?」

 消滅する悪霊の後ろにいたのは、ナイフを握った妃奈々……否、日奈子であった。

「妃奈々ちゃ……違う、お母さん!?」

「月乃。よく帰って来たわね」

 日奈子はそう言った後、「亮太君もお帰り。金城さん、娘をありがとうございます」と付け足し、ペコリと金城に頭を下げた。

 金城は目の前の悪霊をぶん殴って滅すると、戸惑いながらも日奈子に一礼する。

「お母さん、どうしてココに?」

「さっき詩祢から連絡があったの。黒鵜の居場所がわかったわ」

「本当か!?」

 日奈子の言葉に、亮太は顔色を変えた。

「ええ。詩祢の言う事だから、間違いないハズよ」

「黒鵜は……どこにいるの?」

「以前貴女達が行った人食い屋敷……あの付近にある廃工場に、黒鵜はいるわ」

 人食い屋敷……。以前月乃達が任務で向かい、青年の霊と戦った場所であると同時に、亮太が戦う決心をした場所でもある。

「月乃、亮太君。金城さんと共に廃工場へ向かいなさい」

「え? でも、お母さんは?」

 月乃の問いに、日奈子は首を横に振った。

「ただでさえ人手が足りないの。貴女達三人が抜ける上に、私まで抜けたらまずいもの。協会からの増援が来るまでは、何とか私と詩祢、風間さんでなんとかしないといけないわ」

 そう言って日奈子は「だから、行って」と付け加えた。

「金城さん。引き続き二人をお願いします」

「ええ。任せて下さい」

 日奈子は「ありがとうございます」と金城に頭を下げた。

「さ、行きなさい。黒鵜は亮太君の死因の関係者……そうなんでしょう?」

 日奈子の問いに、亮太はコクリと頷いた。

「よし、行くぞ」

 亮太の言葉に、月乃と金城の二人はコクリと頷くと、月乃を戦闘に廃工場のある方向へと駆け出した。

 日奈子は三人が見えなくなるのを確認すると、安堵の溜息を吐いた。

「さ、いるんでしょ。いい加減出て来なさい。雑魚が消えた時点で貴方には気づいていたわ」

 日奈子がニヤリと笑うと、突如、上空から巨大な何かが日奈子の目の前へと落下して来た。

 ズドン! と巨大な音がして、何かが着地した部分のアスファルトが派手に凹む。

「さあ、貴方とは私が遊んであげるわ。いらっしゃい」

 日奈子はナイフを構え直した。



「大丈夫かな……お母さん」

 廃工場へと向かう途中、月乃がポツリと不安そうに呟く。

「大丈夫だろ……。強いからな」

 亮太は一度、日奈子と戦ったことがあるからわかる。日奈子は、強い。あの時悪霊化があそこまで進行していなければ、亮太はあの時日奈子に滅せられていたかも知れないくらいにだ。

「そう……よね」

 少しは安心したのか、不安そうな顔をしていた月乃の顔が、少しだけ緩んだ。



 スパリと。ナイフでこちらへ伸ばされた手を切り落とす。無数にあるあの悪霊の手は、骨などという概念はないらしく、ナイフで容易く切り落とすことが出来る。が、問題はその手の数だ。あれだけ無数の手、一々切り落としていたのでは切りがない。

「ォォォオオ……ッ!」

 その悪霊は自我を失っているタイプの悪霊らしく、まともな言葉は喋らず、ただ唸り声を上げるだけだった。

「いくら悪霊化しているとは言え……ここまで変質している霊は珍しいわね」

 ボソリと呟き、日奈子は目の前の悪霊を見つめた。

 ジーパン一枚だけの、上半身裸の筋肉質な男。その男の手は二本だけではなく、何本も何本も肩や背中から生えているのだ。そしてその無数の手は、宙や地面でゆらゆらと揺れている。

 無数の手の内に三本が、日奈子目掛けて伸ばされる。

 足元へ向けられた最初の一本目を、日奈子は軽く跳んで避け、その手の上に着地する。次に日奈子の頭部目掛けて伸ばされた二本目の手を切り落とすと、一本目の手から飛び降り、二本目と同じく頭部目掛けて伸ばされた三本目の手の平にナイフを突き立てる。そのままナイフを下へと動かし、切り裂く。最後に先程まで日奈子が乗っていた一本目の手が日奈子の腹部目掛けて伸ばされたが、日奈子は素早く反応し、その手を切り落とした。

 何本もの手を切り落としたため、辺りには大量の血が飛び散っている。

「オオォォォォッ!!」

 悪霊の唸り声は、雄叫びへと変わった。

「少し……手こずりそうね」

 ボソリと。日奈子は呟いた。

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