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霊滅師  作者: シクル
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第五十話「菊」

「……ハァ!? どういうことだよ城谷さんッ!」

 金城の怒声で、月乃は目を覚ました。

 武者を滅した月乃達は、薙刀村の村長宅に泊めてもらっていた。疲れているので休ませてくれと頼むと、村長は「霊滅師様方なら大歓迎です」と笑顔で泊めてくれた。武者を滅したことを相当感謝しているらしい。月乃達はその厚意に甘え、一泊させてもらっていた。

「……金城さん、どうしたのかな……」

 眠そうな顔で欠伸をしながら月乃が呟くと、月乃が寝ている部屋の中へ亮太が入って来る。霊は寝る必要がないのだが、眠そうな顔から察するに亮太も眠っていたようだ。

 霊でも疲れない訳じゃないから、やっぱり眠って休憩するのは大事だ。とは亮太の弁である。

「さあな。俺も今ので目が覚めたんだよ……」

 眠そうな目をゴシゴシと擦り、欠伸をしながら亮太はそう言った。

 二人で覚醒し切っていない頭を一所懸命に活動させつつ、金城の怒声の理由を考えていると、部屋の外からドタドタと足音が聞こえた。

「おい! お前ら、大変だ!」

「あ、おはようございます金城さん……」

「おはよ」

 二人が眠そうな顔のまま挨拶をすると、金城は「呑気に挨拶なんてしてる場合じゃねえ!」と二人を怒鳴り付けた。

「城谷さんがすぐに戻れって言ってる! 木霊町が大変なんだッ!」

 城谷さん(つまり稜子のこと)と、木霊町が大変という二つの言葉を聞き、やっとのことで二人は事の重大さを察したらしい。

「とにかく、今すぐ戻るぞ!」



「嘘よ……嘘……。そんな……あり得ないわ……だって貴女は……もう…………」

 驚愕で表情を歪め、目の前のあり得ない現象を恐れ、詩祢は震えた。

 あまりのことにカランと。大鎌が手から離れ、地面へと音を立てて落下した。

「嘘じゃないです。お久しぶりですね――――詩祢さん」

 その声、その笑顔、その仕草を詩祢は知っている。

「どうしたんですか? そんな顔して」

 そう言ってクスクスと笑う彼女は、紛れもなく――――

「き……菊……?」

「はい、詩祢さん」

 あどけない表情。あつらえたかのように似合っている着物。間違いない。菊だ。

「でも、どうして……だって貴女……」

 彼女は菊だ。が、彼女が今ココに存在するのは明らかにおかしい。何故なら彼女は……菊は既に、成仏しているのだ。その瞬間、一部始終を詩祢は見ている。故に彼女は、ここにいるハズがないのだ。

「私が、どうかしたんですか?」

 が、目の前にいるのは確かに菊だ。不思議そうに問うその姿も、詩祢の知っている菊そのものだった。そう、詩祢の記憶の中でしかもう会えないハズの、菊の姿。

「菊……貴女本当に……菊……?」

「はい、そうですよ? 人をお化けみたいに……って私お化けでしたね」

 着物の袂で口元を押さえ、菊はクスリと笑った。

「菊……」

 不意に、詩祢の頬を涙が伝った。

「詩祢さん?」

 止めようにも涙は止まらず、気が付けばボロボロとこぼれ落ち、詩祢の巫女装束の胸元を濡らした。

「泣いて……いるんですか?」

「あ……当たり前じゃない……っ! だって、だって私は……っ!」

 ずっと貴女に会いたかった。そう続くハズの言葉は、詩祢の口からは紡がれなかった。

「菊……菊ぅ……っ!!」

 あの日から、何度呼んでも返事のなかった親友の名を、詩祢は叫んだ。

「詩祢さん。私は、ココにいます」

 菊はそっと詩祢の傍まで歩み寄り、そっと彼女を抱き締めた。

「あの時と、逆ですね」

 詩祢は菊に抱きつき、大声で彼女の名を叫びながら泣いた。



 パァンッ! と銃声が響き、目の前の悪霊の頭部が穿たれる。続けざまに一体、また一体と悪霊の頭部へ弾丸を撃ち込む。

「ったく! 何体いんのよっ!」

 風間は悪態を吐きつつも、悪霊の頭部目掛けて両手に握られた二丁の拳銃から弾丸を放つ。

 稜子の要請による町内全体への放送により、何とか無事だった住民は避難させた。協会の増援も呼んであるので、事態が鎮静化するのは時間の問題だろう。が、不可解だ。この現象そのものが。木霊町に溢れる悪霊は、明らかに人為的に放たれたものだ。これだけの量の悪霊が同時に、それも木霊町のみに現れるハズがない。

 月乃達が任務に向かってから受けた説明によると、今回風間達が木霊町に集められたのは黒鵜が木霊町町内、もしくはその付近に移動したとの情報が入ったからである。詳しい現在位置までは伝えられていない。

 風間は半信半疑だったのだが、この事態から察するに、黒鵜は本当に町内、もしくは付近にいるのであろう。この大量の悪霊を木霊町町内に放ったのも恐らくは黒鵜。が、謎のなのはその目的だ。悪霊の犠牲者は全員病院に搬送されたが、その誰もが昏睡状態。死んでいる訳ではないのだ。恐らく、生気を吸い取られている。

「しまった!」

 思考にふけっている内に油断が生じた。背後を悪霊にとられ、背中に触れられた。

「く……っ!」

 すぐに離れたため、ダメージは少ないが、確実に生気を少し吸い取られた。

 風間はすぐに背後にいた悪霊の頭部に弾丸を撃ち込む。

 悪霊が断末魔の悲鳴を上げつつ倒れていく中、風間は悪霊の腕に青いブレスレットが装着されていることに気付く。見れば、どの霊にも青いブレスレットが装着されている。

「このブレスレット……まさか!」

 そのブレスレットを、風間は知っている。霊力をそのブレスレットを通じて別の場所に送るためのものだ。

 霊力を送る。生気を吸い取る。ブレスレット。

「こいつら……霊力や生気を黒鵜の元へ送っている……!?」

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