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霊滅師  作者: シクル
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第四十八話「二人」

「え……?」

 亮太が間の抜けた声を上げる。当然だろう。主導権を握っていたハズの肉体が、自分の意志とは無関係に動き、武者の攻撃を刀で受けたからだ。

『何諦めてんのよ……っ!』

 グッと。武者の刀を押し返し、弾く。よろめいた武者に蹴りを入れ、右に距離を取る。

「月乃……」

『ごめんね。任せっきりで……。でもこれからは違う。一緒に戦うわよ! 亮太!』

 今までに聞いたこともないような、月乃の力強い言葉。

「……ああッ!」

 立ち上がると、今までとは違う力が沸いて来るような気がした。これが、一人で戦うことと、二人で戦うこととの違い。

『行けるわね。私「達」ならっ!』

「ああ、俺『達』ならなッ!」

 亮太は刀を構え直し、武者目掛けて駆け出した。

 今までに出したことのないようなスピードで走れる。当然だ。

 ――――二人で走っているのだから。

「「おおおぉぉぉッ!!」」

 気が付けば、二人は声を合わせていた。同じように身体を動かしていた。一つの身体を、二人の力で。

 刀を振り上げ、武者に斬りかかる。

 当然、武者はその刀を受けるが、その力に押し負ける気はしなかった。

 亮太は――――否、二人は刀を一度戻し、今度は武者の腹部目掛けて横から斬りかかる。

 刀では反応し切れなかったらしく、武者は右手の籠手で刀を受けた。

 二人は一度刀を離し、数歩後退する。

「すげえ……動きが今まで格段に違うぜ……ッ」

『当然よ。「二人」なんだから』

 二人。その言葉を月乃は強調した。

「オオオオォォォォォッッ!!」

 武者が雄叫びを上げ、こちらに突っ込んで来る。

 先程までは反応し切れなかった武者の刀が、今なら反応出来る。二人なら反応出来る。

 刀を振り上げた武者の懐に、二人は素早く入り込み、兜と胴の間、その喉元へと刀を突き出した。

 ズブリと。生身の肌に刀を突き刺す感触。決して気持ちのよい感触ではない。

 武者の首から大量の血が噴き出し、二人の顔に返り血を浴びせた。

「我ガ……主……城……ヲ……」

 二人が刀を喉から抜くと、武者はその場にドサリと音を立てて倒れた。そしてその身体は、徐々に消えていく。滅することが出来た証拠だ。

 武者が完全に消えたのを確認すると、二人は「ふぅ」と安堵の溜息を吐いた。

「……やったな」

『ええ……』

 戦いで肉体が疲労し切ってしまっていたらしく、亮太が月乃の身体から離れると、月乃はその場にベタリと座り込んだ。

「つ、疲れたぁ……」

「でも……やったな」

 そう呟いた亮太と顔を見合わせ、月乃は二コリと笑った。



 押さえ込まれていた霊力が、体中に流れて来る。勝てる。金城はそう確信した。

「ギアを上げるだと……? 関係ねえよボケがッッ!」

 フットは地面に唾を吐き捨てると、金城の頭部目掛けて思い切り殴りかかって来た。が、その拳は空しく空を切る。

 首だけを素早く動かし、金城はフットの拳を避けたのだった。

「早い……!?」

 驚愕するフットに、金城は何も言わずにニヤリと笑った。

「馬鹿にしやがってッ!!」

 右腕を引っ込め、一歩後退すると、フットは金城の頭部目掛けてハイキックを繰り出した。金城は身を屈め、ハイキックを避けると、フットの腹部目掛けて右拳を素早く突き出した。

「ゴフゥッ!」

 腹部を強打され、フットは後へよろめきながら胃液を吐き出す。

 ベチャベチャと音を立て、フットの胃液が地面へ滴る。

 金城は無言のままフットとの距離を縮め、右拳でフットの顔面を右から殴り付けた。その衝撃で左へ傾いた頭部を、左拳で更に殴り付ける。

「うらァッ!」

 一撃、顎目掛けて強烈なアッパーを喰らわせる。そして軽く宙に浮いたフットの腹部を、金城は右拳で思い切り殴り付けた。

「がァ……ッ!!」

 呻き声を上げながらフットは吹っ飛び、後方へあった大木へ背中から激突する。

 圧倒的な戦いであった。

「弱ぇな」

 金城が地面に唾を吐き捨てる。と、ほぼ同時にフットの身体が徐々に消えていく。

「処理完了……。アイツらの所に戻らねえとな」

 金城は一人呟き、脱ぎ捨てていたコートを拾って羽織ると、月乃達の元へ向かうため、元来た道を戻り始めた。



 金城が月乃達の元へ戻ると、そこには疲れた顔でフワフワと浮いている亮太と、地面の上だというにも関わらず、グッスリと眠っている月乃がいた。

「お帰り」

 余りにも呑気な顔で「お帰り」などと亮太が言っていることから察するに、あの武者を滅することには成功したのだろう。

「月乃さ、疲れて寝ちまったんだ」

「そうか……」

 金城は軽く微笑むと、月乃をおぶった。

「一晩休んでから帰るか」

 金城の提案にコクリと頷き、亮太は金城と共にこの森を後にした。



 月乃達が武者を滅した翌日の早朝。

 その日は雨こそ降ってはいなかったが非常に天気が悪く、空には暗雲が立ち籠めていた。

 そんな中、自室で身支度をしていた稜子の元に、慌てた様子で詩祢が駆け込んで来た。

「大変ですっ!」

 冷静な彼女らしからぬ焦った様子に、稜子は怪訝そうな顔をした。

「どうした? 何かあったのか出雲」

「この町の霊の数……突然増えたんですっ! それも大量に……!」

 詩祢のその言葉に、稜子は顔色を変えた。

「どの地点じゃ……?」

「この町……木霊町全域、至る所にです……!」

「何じゃと……?」

 稜子は耳を疑った。

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