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霊滅師  作者: シクル
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第四十七話「挑発」

 武者の刀を受ける度に、両手が痺れる。生前も腕力があったのだろう。そして悪霊化したことにより、その腕力に磨きがかかっているのだろう。

 先程の前蹴り以来、亮太の攻撃は一撃も命中していない。否、命中させる隙がないのだ。防戦一方。受けては避け、受けては避け、反撃などしようものなら逆にその隙を突かれる。

「駄目だ……強過ぎる……ッ」

 横に振られた武者の刀を、後退することによって避けると、亮太はそのまま距離を取った。

『亮太……大丈夫っ!?』

「あぁ……一応……な」

 外傷はない。武者の攻撃を一応は回避出来ているからだ。が、戦いによる肉体的疲労、防戦一方であることへの精神的苦痛は、亮太に深刻なダメージを与えていた。

 この調子では長くは持たない。いずれ確実に武者の攻撃を回避し切れず、死ぬことになる。

「城ニハ……近ヅカセヌッ!」

 ゆっくりと。武者がこちらへ歩み寄って来る。

「さっきから同じことばっかうるせえんだよッ!」

 亮太は刀を構え直し、武者に思い切り斬りかかる。が、武者はそれをいとも刀で容易く受けた。

「おおおおッ!!」

 闇雲とも見える動きで、何度も何度も武者に斬りかかる。上から、右から、左から。が、やはり武者は全て完全に見切っているらしく、最低限の動きで亮太の刀を受けている。

「オォォォォォォッ!!」

 ゴッ! と鈍い音がして、亮太の腹部に激痛が走る。前蹴りだ。武者の右足が、亮太の腹部に食い込んでいる。

「かは……っ!」

 そのまま数メートル吹っ飛び、後ろの大木に背中から激突する。

『ぐ……ぅ……っ』

 武者はゆっくりと亮太の方へと歩み寄って来る。

 無理だ。勝てるわけがない。こんな化け物相手に、一人でまともに戦える訳がない。

「俺じゃ……無理だ……」

 今日初めて漏れた、亮太の弱音だった。


 俺じゃ……無理だ……。亮太が弱音を吐いた。絶対に諦めないと言っていた亮太がだ。が、それも当然だろう。目の前にいる武者はそれだけ強いのだ。

 亮太だけじゃとても勝てる相手では……。

 そこまで考え、月乃は疑問を感じた。

 亮太だけ……? 亮太は一人で戦っている……? 私がいるのに……。

 月乃の中で、前に人食い屋敷で言われた言葉を思い出す。


 仲間の霊に戦いを任せ、自分は肉体の中でアドバイスか? 今度の霊滅師は随分と情けないな。


 日奈子にはこうも言われた。

 

 月乃は亮太君に頼り過ぎよ! もう少し自分で戦えるようになりなさいっ!


 そうだ。そのために修行をしてきたのだ。自分だけでも戦えるように。亮太だけに戦いを任せっ放しにならないように。

 だが今の自分はどうだ? 何だかんだで、結局自分は――――

『亮太に任せっきりじゃないのっ!』

「月乃……?」

 亮太は一人で戦っているのではない。月乃と共に戦っているのだ。そんな大切なことを、自分は今の今まで忘れていた。亮太にだけ戦いを任せてしまっていた。

 違う。憑依状態だからって、亮太にだけ戦いを任せるのではない。

 ――――一緒に戦う。

「オオオオォォォッ!!」

 武者が、目の前で刀を振り上げ、唸り声を上げていた。

 だが、亮太の腕は動こうとしていなかった。



 ギロリと。目の前でニヤニヤしているフットを睨みつける。

 金城を圧倒したことに、優越感にでも浸っているのだろう。

「どうした金城……。もう終わりか? つまんねーなおい」

 フットはどうやら、どこまでも金城を挑発するつもりらしい。腹は立つが、冷静でいなければならない。怒りで我を忘れてしまっては相手の思うつぼだ。

 それに、策がない訳ではない。

「だんまりか? だんまりか金城? ホントつまんねえなお前は」

 ゲラゲラと。フットは金城を指差しながら笑う。

「つまんねえのはお前だよフット」

 溜息を吐くと、金城は着ていたコートを脱ぎ捨てた。

 黒いタンクトップから露出されている鍛え上げられた両腕が外気に触れる。

「あぁん? 今なんつった?」

 フットの問いに、金城は軽く笑った。

「聞こえなかったか? お前の方がよっぽどつまんねーっつってんだよ」

「何だと……?」

 金城を散々挑発していた割には、挑発に乗りやすい性格のようだ。フットは眉間にしわを寄せて金城を睨みつけている。

「勝ち目がねえのに口だけは減らねえんだな金城……」

 フットの言葉に、先程までの挑発するような雰囲気はない。完全にこちらの挑発に乗っている。

「挑発してたお前が挑発に乗るなんて……こりゃお笑い種だぜ」

 金城がニヤリと笑う。

「誰が挑発に乗ってるって……? あぁ? 金城……ッ!?」

 今にも飛びかかって来そうな勢いだ。このフットという男、非常に単純である。こんな男の挑発に乗りかけていたかと思うと、そんな自分に腹が立つ。

「行くぜ……」

 バン! と右拳と左の手の平を合わせる。

 ギア……金城は自分でそう呼んでいる。霊滅師に成り立ての頃、自分の霊力をコントロール出来ず、霊と戦闘をする度に周りの物や人間を巻き込んでしまっていた。

 克服するため、自分の霊力をコントロールする修行を行った結果、自分の霊力を制限することに成功した。全部で三段階、通常が一、これから二に上げる。

 フットを倒すには二で十分だろう。

「――――ッ!?」

 金城の変化に気付いたのだろうか。フットの表情が一変する。

「上げるぜ……ギアをよ」

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