第四十三話「懇願」
――――貴方の存在は黒鵜にとって非常に邪魔だ。忠告してあげましょう。大人しく成仏するべきだと。
あの時、ヘッドと名乗った少年は確かに亮太に向かってそう告げた。亮太が、黒鵜にとって邪魔……?
月乃は思索するが、黒鵜と亮太との関係性が一向に見つからない。が、もしヘッドの告げた言葉が真実だと言うのなら、亮太は黒鵜に狙われている可能性が非常に高い。否、既に狙われていると言っても過言ではない。
亮太が一体何をしたと言うのだ。黒鵜について尋ねてみても、亮太自身も何も知らないらしい。彼が言うには自分の死因と何か関係があるかも知れないとのことだ。もし本当にそうなら、この黒鵜の件は亮太の死因をつきとめるための戦いということになる。
ヘッドの出現後、月乃は亮太と共に屋敷に戻り、ヘッドのことを全て稜子達に話した。稜子は黙って聞いていたが、月乃が話終わると、深く溜息を吐いた。
「こちらの情報が……黒鵜に漏れてしまったか」
コクリと。月乃は頷く。
「そして、亮太が黒鵜にとって邪魔……とな」
「婆さん、木霊町で前に黒鵜が殺したのってのはやっぱり――――」
亮太がそう言いかけた時だった。
「月乃、亮太」
稜子は亮太の言葉を遮るように二人の名前を呼んだ。
「お前達二人は、今回の黒鵜討伐任務から降りなさい」
「「――――ッ!?」」
稜子の思いがけない言葉に、二人は同時に絶句する。が、すぐに抗議を始める。
「ちょっと、それどういうことなのお婆ちゃん!?」
亮太が何か言いかけたが、それよりも先に月乃の怒号が飛ぶ。
「そのままの意味じゃ。お前達二人では黒鵜どころか、ヘッドとか言う人造霊にも敵わぬ」
お茶を啜りつつ、静かに稜子は二人に事実を告げた。
稜子の言う通り、今の自分達では黒鵜どころかヘッドにも勝てない。霊力が、稜子達にも気付けない程にまで抑えられていても、目の前で見た月乃にはヘッドの強さがわかる。自分たちでは完全に実力不足である。今の自分達が黒鵜討伐任務に加わったところで戦力どころか足手まといだ。
だからと言って、諦めて良い訳ではない。
黒鵜討伐は、亮太の死因を知るために必要な戦いだ。こんなところで諦める訳にはいかない。
「そうね……。そんな霊滅師に成り立ての女子高生と、その相棒の浮遊霊に黒鵜討伐が出来るハズないもの」
クスリと。スーツ姿の女性――――風間は笑った。
「せめてAAランクの任務くらいこなせないと……ねえ」
AAランク……。危険度で言えば上から三番目……。これまで月乃がこなした任務の危険度は、最高でもBだ。AAランクなど、到底こなせるものではない。
「じゃあ――――」
ボソリと。これまで黙っていた亮太が呟く。
「AAランクの任務をクリア出来りゃ良いんだよな?」
亮太は、不敵な笑みを風間に向けた。
「そう……ね。まあせいぜい死ぬのがオチだから、やめときなさい」
「悪いな。俺はもう、死んでんだよ」
亮太はニヤリと笑うと、稜子の方を見た。
「婆さん、俺と月乃がAAランク……いや、AAAランクの任務をこなせりゃ、黒鵜討伐に参加させてくれるな?」
「駄目じゃ。今のお前達では不可能じゃ」
稜子は首を横に振り、キッパリと断った。
「お婆ちゃん……私からもお願い。亮太のためにも、チャンスくらいは頂戴」
正座のまま、月乃は頭を下げた。
「だからと言ってお前達を死なせる訳にはいかん」
しかし稜子は首を縦には振らず、二人の頼みを頑なに断った。
「なら、私が同行すれば、二人は死なずに済むんじゃないですか?」
不意に、二人に助け舟を出したのは詩祢であった。
「詩祢さん……」
その言葉に、稜子は「う~ん」と唸る。どうやら少し考えが揺らいだらしい。
「いや、待ってくれ。アンタが行くのは賛成出来ねえ」
そう言って詩祢を制止したのは、先程まで黙っていた金城であった。
「アンタはこの町の地元の人間だ。黒鵜はいつ俺達のとこへ来るかわからない。そんな状況でアンタが任務でココを出るのはやめた方が良い」
「……つっきー達に諦めろって言うの?」
「そうじゃねえ」
金城は首を横に振る。
「俺が行く」
「……え?」
思いもよらない金城の言葉に、月乃達は唖然とする。
「俺がこいつらと一緒にAAランクの任務に行ってやるっつってんだよ」
「金城さん……」
月乃が感嘆の声を上げる。
「あら金城、どういう風の吹き回し?」
「俺はそこにいる亮太って奴のこと、勘違いしてぶん殴っちまったからな……。そのお詫びみたいなもんだ」
亮太も殴り返しているため、お互い様と言えばお互い様なのだろうが、それでは金城は納得出来ないのかも知れない。
「城谷さん、これで良いか? 俺が抜けても出雲さんと風間が残る。十分に対応出来るハズだぜ」
「何で私だけ呼び捨てなのよ……!」
不満そうな風間をよそに、金城は「城谷さん!」と稜子に詰め寄る。
月乃と亮太も、真剣なまなざしで稜子を見つめている。
「……仕方ないの……」
稜子は「ふぅ」と溜息を吐くと、首を縦に振った。
「許可する……が、必ず生きて帰って来るのじゃぞ」
「お婆ちゃん……!」
「婆さん……!」
感嘆の声を上げる二人に、金城は笑顔で親指を突き立てた。