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霊滅師  作者: シクル
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第四話「遭遇」

――――霊滅師。

読んで字の如く霊を滅する職業。

霊感体質の者だけが就ける仕事で、主に悪霊の除霊を行うので相手の霊によっては生死を伴う職業である。

「じゃ、じゃあ俺のことも滅する気か……?」

と、亮太が恐る恐る問うと、月乃は「馬鹿ね」と呟いた。

「アンタ、悪霊なの?」

「いや、違うけど……」

「だったら滅する必要なし。さっさとどっか行きなさい」

そう言って月乃はそっぽを向いた。

「どっかって……」

「成仏するなら成仏する、する気がないなら適当に満足するまでそこらをうろついてなさい。ただし、悪さだけはしないでね」

そっけない言い方に、亮太は少しムッとする。

「とにかく、いつまでも私に憑いてないでどっか行ってよね。勝手に身体使ったこと、怒ってないワケじゃないんだから」

「でも俺があそこでお前の身体で戦ってなかったらお前死んでたぞ?」

指摘され、月乃は俯く。が、すぐに顔を上げ、亮太をキッと睨む。

「そのことについては礼を言うわ。でも、私の身体からは出てって!」

語気を荒げた月乃に、亮太は多少たじろぐ。

「俺の死因、まだわかんないんだ。とりあえずお前に憑いとけば何かわかるかもだし……。とにかくもう少しだけ一緒にいさせてくれよ、な?」

亮太が両手をついて頼むが、月乃は聞く耳持たぬといった表情で、そっぽを向いた。

「私には関係ない。とりあえず私の部屋には入らないでよね。結界、張っておくから」

月乃はそう言い残すと、勢いよく戸を開けて自室へと入って行った。

結界を張ったと言うのは本当らしく、幾度も試したが亮太は中へは入れなかった。

他の部屋も同様だった。どうやら月乃が手配したらしく、全て結界が張られていた。



「……ハァ」

家の中はほぼ全ての部屋に結界が張られているため、亮太は庭をうろつくことにした。

池やら鯉やらこの庭はまるで映画かドラマのセットなんじゃないかと思うような庭だった。

ふと、亮太は池へと視線を移す。

見るからに高級な鯉が数匹泳いでいる。が、水面に自分の姿はなかった。

―――自分はもう死んでいる。

再確認させられた。

既に戻るべき肉体を失い、魂だけの状態……。辛うじて生前の姿をしているが、肉体はない。

その上、何故死んだのかすらわからない。

考えれば考えるほど陰鬱な気分になる。負の思考のループ。

成仏しようかとも思ったが、死因もわからぬままというのも釈然としない。

それに、どうも穏やかな死に方ではない気がする。

どうにか自分の死因を知りたい。

そのためには、月乃の協力が必要だと亮太は思った。

霊感体質で、よく霊と関わっていそうな彼女なら、亮太の死因を解明する手がかりを掴めるかも知れない。

「協力……してくれるとは思えないけどな……」

ポツリと。亮太は呟いた。



「…………」

月乃は唖然とした。

庭で霊が寝ている。まあ霊と言っても亮太なのだが。

グッスリと気持ち良さそうに寝ている。

「霊って……寝るんだ……」

昨晩、亮太を結界で家から閉め出したので、庭で反省しているかと思えば……

「爆睡……ね」

月乃は肩にかけていたバッグをかけ直し、亮太を無視して学校へ向かった。



亮太が目を覚ますと、丁度月乃が家を出るところだった。

霊化したため、睡眠は必要ないかと思ったのだが、思いの外グッスリ眠れた。

どうやら基本的には生前と変わらないらしい。

腹が減らないため、食事をする必要はなさそうだが……。

「……暇だな」

どうせ城谷家の人間は自分を相手にしないだろう。

稜子と話でもしようと思ったがあまり面白くなさそうだ。

「アイツでも追うか……。暇だし」

そう呟き、亮太は月乃の行った方向と同じ方向へ飛んだ。



いつもと変わらない授業。

とりあえず今日は生物の授業がないので理科室へは行かなくて済む。

それに明日からは休みだ。しばらくあの首吊り自縛霊には会わなくて済みそうだ。

ノートにシャープペンシルを走らせながらこれからのことを考える。

霊滅師のこと。亮太のこと。そして、未だに霊を見ると気絶する自分のこと。

いくら実戦が良いからと言って無茶苦茶な気もする。孫娘を殺すようなことを平気でするような稜子とは思えない。

いつの間にかシャープペンシルは動きを止めていた。月乃が完全に自分の世界に入ってしまった証拠だ。

「城谷。おい城谷ー。聞いてるかー」

「え、あ、はいっ」

教師の呼ぶ声に気が付き、慌てて月乃が返事をすると、周りからクスクスと笑い声が聞こえた。

その笑い声が、月乃にはただの笑い声とは聞き取れなかった。

笑われている。嘲笑されている。まただ。また髪のことで笑われているに違いない。

また私は苛められるに違いない。

ただでさえ髪の色のせいで浮いてしまい、ほとんど友達がいないというのに。

―――――また私は苛められるのか。

考えれば考えるほど嫌になる。




一日は平穏に過ぎ、月乃は帰路に着いた。

早く帰りたい。早く帰って風呂にでも入ってスッキリしたい。

そう考えながら歩くと、自然と早歩きになる。

「……?」

不意に足を止める。

通り過ぎたコンビニに違和感を感じたからだ。

正確にはコンビニにではなく、コンビニの前で話をしている不良達に。

彼らは至って普通の不良なのだが、その近くを霊魂が浮遊している。

それもかなり危険な状態の霊魂だ。

霊化してから時間が経ち、己の意志の弱さ故に自我を保てなくなった悪霊化する前の霊魂だ。

「何見てんだよ嬢ちゃん」

不良の一人が月乃に気づく。

「あの、ええと……」

貴方方の近くにいた霊魂を見てました。なんて言えない。

不良達が立ち上がり、月乃に歩み寄る。

「俺ら、見せモンじゃねえんだよ」

そんなことはわかっている。月乃だって不良達など見たくはない。

「―――――っ」

霊魂が、形を成し始めた。



「アレ……ヤバくねえか?」

今日一日月乃を観察し続けた亮太は今の月乃の状況を見て呟いた。

無論、不良に囲まれていることにではなく、あの霊魂のことだ。

霊になりたての亮太にもわかる程のヤバさ。

あの霊魂、完全に形を成した時には大暴れするに違いない。

「絶対気絶するな。アイツ」

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