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霊滅師  作者: シクル
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第二十八話「依頼」

「うっわぁ……」

帰宅し、私服に着替えた月乃が何気なく客間を開けると、そこには信じられない光景が広がっていた。

いつもなら綺麗に掃除してある畳の上には饅頭の餡子やらスナック菓子やらが落ちており、場所によってはお茶もこぼれている。

机の上もそれはもう酷い状態で、ゴミやら何やらが放置されてあった。

「酷い有様だな……」

亮太も呆気に取られた様子で呟いた。

「月乃、亮太、お帰り」

お帰りじゃないわよ。何なのこの状況は?

そう稜子に問いただしたかったが、原因が判明したため、問いただす必要はなくなった。

七、八歳くらいだろうか……。小さな女の子が床にスケッチブックを広げて落書きをしている。その隣ではショートカットで、スーツを着た若い女性が申し訳なさそうな顔で正座していた。

「城谷家次期当主の月乃様ですね……? すみません。客間をこのように汚してしまって……」

彼女はペコリと頭を下げた。

「い、いえ……。その、気にしないで下さい」

「月乃、ココに座りなさい」

稜子に促され、月乃は先程の女性と向かい合うように稜子の隣に正座した。

「月乃、こちらの方は城野家の令嬢である城野妃奈々様の付き人、古江楓さんじゃ」

稜子に紹介され、月乃の目の前の女性、古江楓はペコリと頭を下げた。

「本日はお忙しい所、申し訳ございません」

「そしてそちらにおられるのが城野妃奈々様じゃ」

稜子が手をやった方向には、先程から楽しそうにスケッチブックに落書きをしている少女だった。

「妃奈々のこと呼んだー?」

ピタリと落書きをやめ、無邪気な表情で少女、妃奈々はこちらを向いた。

「いえいえ、お気になさらないで下さい」

稜子が敬語で喋っている辺り、城野家は相当の権力を持っているのだろう。

「それで、古江さん達はどうしてここへ?」

「ええ、そのことなのですが……」



「兄者、目標は城谷家に入ったぜ」

城谷家周辺にある一本の電柱の上、一人の男と一人の男の霊がそこから下を眺めていた。

「カステロ、中には入れるか?」

カステロと呼ばれた霊は首を横に振った。

「あれだけ結界が張ってあると無理だぜ……。兄者、黒鵜の旦那はあんな小娘を何故必要としている?」

カステロに問われ、男は肩をすくめて見せた。

「さあな。依頼主の目的がわかったことなんて今までに一度でもあったか?」

男に問われ、カステロは「それもそうだ」と答えて苦笑した。

「何にしても、殺人だろうが窃盗だろうが依頼主のために動くのが俺達だ。今回は城野妃奈々を捕えて依頼主の元へ連れて行くことだ。他のことは気にしなくて良い」

「兄者、奴ら気づいてるかもな」

カステロが呟くと、男はコクリと頷いた。

「城野妃奈々に付いているあの女、霊能者ではない故にお前のことには気づけていないが、俺の気配は既に察知している」

「大した女ですね……」

「それに、奴らの入って行った城谷家と言えば霊能家系だ。奴らが城谷家を味方に付けるのならいずれお前も気付かれるだろう」

少し間を空け、男は「だが」と付け足した。

「俺達ならやれる。コステロ・カステロ兄弟に今まで達成出来なかったミッションは一つもない」

男とカステロは不敵に笑った。



「……つけられている?」

月乃が問うと、楓は「はい」と答えた。

「妃奈々様は先日から何者かに後を付けられているのです」

「それで、どうして私達の所へ?」

「はい、後を付けているのはどうも一人ではないようなのです」

「一人ではない?」

バックに組織がついているという意味だろうか。それとも数人がかりで妃奈々を付けているのだろうか。

「はい。恐らく二人。ですがもう一人は私には知覚することが出来ません」

「それってどういう……」

月乃が言い終わらない内に、楓は「霊です」と答えた。

「私や他の城野家の方には霊能はないのですが、妃奈々様に限ってかなり高位の霊力があるらしいのです」

なるほど。それで付けているのが一人ではなく二人と気づき、更にそいつが霊であることにも気づけたのだろう。

「人間の方は私共で事足りるのですが、霊の方は城野家の人間では対処出来ません。それ故、城野家と古くからお付き合いいただいている城谷家の霊滅師様に妃奈々様の護衛及び、後を付けている霊の討伐を頼みたいのです」

大体把握出来た。つまり月乃に妃奈々の護衛と霊の討伐を依頼しに彼女達はわざわざここまで来たということらしい。

他の霊滅師ではなく、月乃に……つまり城谷家に頼んだのは城野家とは長い付き合いだからだろう。

年に一度城谷家と城野家は集まって宴会をするのだが、月乃は九歳の頃に宴会に出るのをやめた。本来なら次期当主として出なければならないのだが、お世辞を言うのも言われるのも面倒で、結局あれから一度も出ていない。

毎年出ていれば楓や妃奈々のこともわかったのかも知れないが、月乃にとっては別にどうでもいい。

「……わかりました。受けましょう」

「そうですか。ありがとうございます」

楓は霊を言うとペコリと頭を下げた。

「月乃、もう少しで夏休みじゃろう?」

「あ、うん。そうだけど……」

「丁度良い。月乃、夏休みの間依頼を達成するまでは妃奈々様と楓さんと行動を共にせい」

「…………え?」

月乃の表情が一瞬で固まる。

「夏休み返上?」

月乃が恐る恐る問うと、稜子は首を横に振った。

「大したことではない。何をするにも彼女らが同行するだけじゃ。通学する間は別じゃがの」

それってある意味束縛なんじゃ……

月乃は溜息を吐いた。

「申し訳ございません」

ペコリと。楓が頭を下げる。先程から彼女は何度も頭を下げているのだが、何だか何度も頭を下げさせているようでこちらが申し訳ない。

「い、いえ気にしないで下さい」

言ったは良いが問題は大アリだ。

返せ、私の夏休み!

そう思ったところでどうこうなることでもないが……。

なるべく早く依頼を済ませよう。

月乃は密かに誓うのであった。

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