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霊滅師  作者: シクル
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第二十二話「抱擁」

燃え切っているものだと思っていたが、その家は原形を留めていた。

そこら中焦げまくってはいるが、まだ家と呼べる状態だ。

ドアは開きっ放しになっており、その奥に広がる暗闇は、妙な嫌悪感を月乃達に与えた。

月乃の予想通りあの火事が起きた家の住民は霊化しているらしく、霊が怖くてこの家が撤去できないのだとか。

その上、悪霊化までしているらしく、戦闘は避けられないようだ。

ちなみに危険度はB程度。このくらいならお前達でも大丈夫だろう、と半ば強引に稜子に依頼を受けさせられた。

「全身……焼け爛れて……」

「まだ気にしてんのか?」

亮太が笑いながら問うと、月乃はキッと亮太を睨みつけた。

「アンタが変な冗談言うからでしょっ!」

先程まで怯えていたとは思えない月乃の剣幕に、亮太は多少面食らってしまった。

「わ、悪かったよ……。何度も謝ってるだろ」

「謝られても怖いものは怖いのよっ!」

亮太は、月乃に聞こえぬように「お前の方が怖ぇよ」と呟くと溜息を吐いた。

「とりあえず、中入ろうぜ」

「う、うん……」

亮太に促され、月乃は渋々中へと入って行った。



目的地に到着した途端、詩祢は妙な嫌悪を感じた。この家には、およそ想像し得る負の感情のほとんどが渦巻いていた。

恐らくこの家で悪霊化している人間は、欲望に忠実で愚かな人間だったのだろう。

ふと、隣にいる菊を見る。

震えているかと思っていたが、思いの外菊は落ち着いていた。

「この着物……」

菊は自分の着物の袖をギュッと握ると、詩祢へ顔を向けた。

「お母さんの形見なんです」

「形見……?」

今まで自分の過去の話などしなかった―――否、出来なかったハズの菊が、自分の過去を語ろうとしている。

記憶が戻りつつある証拠だ。今の穏やかな表情を見るに、その着物に関する記憶は他の記憶とは違い、穏やかなものなのだろう。

「はい。私が幼い時に死んじゃったんですけど、お母さんいつも言ってました。貴女は私の若い頃にそっくりだって。だから、大きくなったらこの着物を……お母さんの気に入っていたこの着物をあげようって。絶対似合うからって……」

優しかった母を思い出しているのだろうか。菊の表情は幸せそうに見えた。

詩祢は、そんな菊の話をただ黙って、頷きながら聞いていた。

「何で私、こんなことになっちゃったんですかね……」

「菊……」

「詩祢さんと別れるのは辛いですけど私……お母さんの所に行きたいです」

先程までの幸せそうな顔とは一転し、今にも泣きそうな顔で菊は呟いていた。

そんな菊を見て。堪らなくなって。詩祢は、自分よりも少しだけ小さな菊の身体を優しく抱きしめた。

霊を、霊である今の菊を、優しく抱きしめてやれるのは霊能者である詩祢くらいなものだ。

「詩祢……さん?」

「大丈夫だから……。必ず私が、貴女をお母さんの所へ連れて行く」

「詩祢さん……」

しかし、実体のない菊の涙が詩祢の巫女装束の胸元を濡らすことはなかった。



家の中はシンプルな造りだった。

玄関から中へ入ると、最初に目に入るのは階段であった。

「あ、何か今呪怨思い出した」

「呪怨?」

聴き覚えのない単語を口にする亮太の言葉を、月乃は不思議そうに繰り返す。

「俺が昔見たホラー映画だよ。丁度あんな感じの階段から女が変な音立てながらズルズルと……」

「そういうのやめて」

耳を塞ぎ、その場にうずくまりつつも亮太を睨みつける月乃の姿は、何だか妙で面白かった。

「おお、悪い悪い。で、二階行く? それとも一階?」

「アンタが変なこと言うから二階なんて行けないわよ」

「言うと思った」

月乃の言葉に、亮太は苦笑する。

「んじゃ、一階から……」

亮太奥へ進もうとした時だった。

「あら、よく会うわね」

不意に背後から聞こえる聞き覚えのある声……。

振り向けばそこには詩祢が立っていた。

「詩祢さん……」

「私達より先に依頼を受けた霊滅師って、貴方達だったのね……」

そう言った詩祢の表情は、こころなしか呆れ顔である。

「あの、詩祢さん」

「なぁにつっきー?」

相変わらず妙なあだ名だと思う。が、今はつっこまず、月乃は言葉を続けた。

「その、この間はありがとうございます」

月乃がペコリと頭を下げると、その頭を詩祢は優しく撫でた。

「私は何もしていないわ。つっきーが頑張ったんだから、わざわざ私にお礼なんて言わなくて良いのよ」

「あれ、そう言えば……」

亮太が辺りをキョロキョロと見回す。

「菊はどうしたんだ?」

亮太に問われ、ハッとして詩祢は辺りを見回す。

「あの子、もしかして奥に入ったんじゃ……」

「だったら気づくハズだ。多分、二階だ」

そう言って亮太は階段を顎でさした。

「……私は二階を探索するわ。貴方達は一階をお願い」

詩祢はそう言い残すと、階段を慎重に上って行った。

「行くぞ、奥」

「う、うん」

亮太に促され、月乃は家の奥へと進んで行った。

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