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霊滅師  作者: シクル
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第十八話「圭子」

月乃が教室へ入って暇潰しに読書をしていると、突然勢いよく教室のドアが開かれた。

自分には関係ない。勝手にそう思って読書をしていると、先程ドアを開けたのであろう人物の足音が、月乃の方へと徐々に近づいて来る。

「おい」

乱暴だが、女の声だ。その言葉が月乃へ向けられたものだと気づいてはいたが、月乃は顔を上げずに読書を続けていた。

「おい」

二度目。既に声に怒気が感じられる。

「おいって言ってんだろっ!聞こえてんのかっ!?」

「コイツ、ホントにババアだから耳も遠いんじゃねーの?」

二人、いや三人。声を荒げた女の他にもいるらしい。

ババアという単語につい反応を示してしまい、月乃は頭を上げた。

そこにいたのは色の黒い、茶髪の女子生徒だった。恐らく上の学年だろう。耳にはピアスが付いており、顔には少し厚めの化粧が施してある。どこかで見たような顔だ……。

どう見ても深く関わらない方が良いタイプの人種だ。後ろの二人も似たような格好をしている。

「……何ですか?」

月乃が問うと、女はスッと手を差し出した。

「上納金」

上納金……?

その言葉を聞いて、月乃は怪訝そうな顔をした。この女に自分が上納金を払う義務も義理もない。

「払えよ。この学校、ウチらの配下って感じだから」

「みーたんそれ言い過ぎだよぉ」

後ろで二人が笑うと、みーたんと呼ばれた主犯格の女もつられて笑った。

「ま、とにかくそういうことだから。払ってくんない?」

理解出来ない。

辺りを見回すと教室にいる生徒は皆、みーたん達に近付かないように遠巻きにこちらを見ていた。

男子はともかく、女子生徒のほとんどが怯えた表情をしていた。

「……いくらですか?」

静かに問う。拒否権がないのはわかっているからだ。

それに、ココで断って静かな暮らしを壊されるのは嫌だ。

好かれていようが嫌われていようが、自分を放置していてくれるのは本当に助かる。

干渉さえしなければ相手が自分に興味を持つことは少ない、故に苛められもしない。

きちんと従っておけば、苛められるようなこともないだろうし、お金をせびる以外に干渉されることはないだろう。

「せ―――いや、二千円だ」

月乃は制服のポケットから財布を取り出すと、千円札を二枚取り出し、みーたんとやらに渡した。

「なんだよ、素直じゃねえか」

みーたんは嬉しそうに千円札を受け取ると、自分のポケットに収めた。

「じゃあな。また来るぜ」

もう来るな。そう言いたいのは山々なのだが、そうもいかない。

月乃は何も言わず、立ち去って行く三人の背中を見つめた。

「何で払うんだよ?」

不意に、窓から声が聞こえる。慌てて窓の方を見ると、亮太が浮いていた。

「お前、アイツらに金払わなきゃいけないようなことしたのか?」

周りに人が大勢いる状態で話す訳にはいかない。

月乃は両手の人差し指で×マークを作ると、それを自分の口にあてて亮太に見せた。

「あ、そうか。悪い悪い」

わかってくれたようだ。が、今のは出来れば亮太に見られたくなかった。

「あ、あの……城谷さん?」

後ろから声が聞こえ、振り向く。

学校で悪意の感じられない声をかけられたのは何年ぶりだろう。

後ろに立っていたのは一人の女子生徒だった。

一応知っている顔……というか二、三日前に席替えをした時から隣の席にいる子だ。

「あ、えっと……何?」

「大丈夫……?」

「…………え?」

月乃は耳を疑った。

今の言葉は自分に向けられた言葉だったのだろうか。

「あの人達……菅原道子すがはらみちこって先輩とその取り巻きなんだけど、時々教室に来てはお金をせびっていくの……。この間まで違う子だったんだけど……」

そう言って彼女はうつむく。

思い出した。菅原道子……。そう言えばこの間もこの教室に来て誰かから「上納金」とやらをせびっていた。

確かその日は月乃が本を持って来忘れて退屈していた日だ。

「大丈夫。私は平気だから。心配してくれてありがとう」

と、つい彼女に笑顔を見せてしまう。学校で笑顔を見せるなんて何年ぶりだろうか。

クスリと。彼女が笑う。

「な、何で笑うの?」

「いや、城谷さんってこんな風に笑うんだなぁって。いつもは笑わないからちょっとおかしくて」

「そう……かな」

ついつい、月乃もつられて笑ってしまう。

確か彼女の名前は佐藤圭子さとうけいこ。クラスではあまり目立つ存在ではないが、嫌われてはおらず、友達はどちらかと言えば多い方だと思う。

このことをきっかけに、月乃と圭子は一気に仲良くなった。

月乃自身、元々明るかったせいか圭子と仲良くなったのを機にクラスの中でも孤立しなくなった。

コンプレックスだった白髪も最近は個性として受け入れられるようになった。



「……良かったな」

「何がよ?」

いつもの登校時間、亮太は不意にしみじみとした顔で月乃に言った。

「お前、前はいつもクラスで孤立してただろ? でも最近はあの佐藤って子のおかげですっかりクラスの一員だな」

「うん」

月乃も、幸せそうに答える。圭子と仲良くなってからは本当に毎日が楽しかった。

これが本当の学校なのだと。これが本当の高校生活なのだと。

そう考えると今までどれだけ損をしてきたのだろう、と後悔してしまう程であった。




一方。月乃が幸福感に満たされている中、それを快く思わない者もいた。

菅原道子である。

月乃を金ヅルにし、しばらくは金に困らないと思ったが二度目は金を奪うことが出来なかった。

それもそのハズ。圭子の呼びかけにより、月乃はクラス単位で守られていた。

取り巻き達と共に月乃の教室に金をせびりに行ったが、相手がクラス単位では多勢に無勢。道子は撤退を余儀なくされた。

「糞がッ!!」

放課後、廊下の壁を殴りながら道子は一人毒づいた。

「佐藤のヤツ……。調子に乗りやがって……」

何とか月乃から金を奪えないか……。道子は思索を始めた。

あーでもない。こーでもない。そんな風に何度も考えながら、一つ思いついた。

「別に城谷から取らなくても良いじゃねーか」

ボソリと呟き、ニヤリと笑う。


もう一度、彼女から徴収するとしよう。

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