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霊滅師  作者: シクル
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第十七話「友達」

――――白かった。

物心付いた頃には既に真っ白で、他の人達と違うソレについて、祖母に何度も問うた。

「どうして私の髪はお婆ちゃんみたいに真っ白なの?」

祖母はいつもこう答えた。

「それは月乃が特別だからだよ」

最初はそれで良かった。私は特別なのだ。他の人とは違うのだ。

そう、私は白くて当たり前。

そんな考えで納得出来るのは精々小学校低学年の間くらいのものだろう。

中学年に上がった辺りから、ソレは始まった。

まず、クラスで一番うるさくて偉そうな男子生徒が私に問う。

「何でお前の髪、俺ん家の婆ちゃんみたいなんだ?」

悪意があったのかなかったのかなんて今はどうでもいいが、その一言で教室中が爆笑したのは覚えている。

「これは私が特別だからよ。アンタ達とは違うの」

自信満々に答える。が、すぐに嘲笑された。

「俺の婆ちゃんが言ってたぜ。髪が白くなるのは歳を取るからだってさ。お前ってもしかして……ババア?」

笑われた。

その男子を含む教室の中の全員に。

わらう。笑う。嗤う。哂う。ワラウ。

全員が私を、私の髪を見て。笑い続けた。

次の日から付いたあだ名は「ババア」だった。

教員を除く全ての相手からババアと呼ばれた。

始めの内は必死に耐えた。何日も何日も何日も何日も。月が変わり、年が変わり、学年が変わり、クラスが変わっても。ババアと呼ばれ続け、そして耐え続けた。

しかし、ある日を境に状況は変わった。

机が何だか臭いのだ。まるで何かの死体の臭いのような臭さだ。

「――――!?」

入っていたのだ。死体が。

道端で轢かれていたのであろう猫の死体が、机の中に入っていたのだ。

いつ入れられたのかはわからない。だが入っていたのは確かだ。

ソレは異臭を放ち続け、私の机から、私から人間を遠ざけていた。

泣いた。流石に耐えきれなかった。泣いて泣いて泣いて。教員の止める声も聞かずに、学校を出た。

その日は、学校をサボった。

しばらく学校をサボり続け、一週間程経った頃に先生が家に来た。

なんとか来るように言われ、嫌々ながらも登校した。

みんなが待っている。みんなが心配している。

幼い私はその言葉を鵜呑みにし、本当にみんなが心配しているのだと、猫の死体のことは反省しているのだと、そう思った。

―――――そんなハズはないのに。

独りだった。

少ないながらも私の友達だった子達すら私に寄り付かず、完全に私は孤立していた。

直感的に、泣いても意味がないことはわかっていた。誰も助けてくれるハズがない。教員すら私を助けることはないのだと。

卒業しても孤独で。中学に上がっても私は孤独だった。どうやら話が通っているらしい。

苛められながらも、私は誰とも関係を持たずに中学を卒業し、高校へと進学した。

出来れば高校には行きたくなかったのだが、親の仕事を継ぐのが嫌で、進学した。

苛めは減った(最近はない)が、楽しみもない。ただ淡々と日々を消化するのみ。

そんな日々に意味があるとは思えない。

それでも私は、こうすることしか出来ない、弱い存在だった。





「……うわ」

朝から陰鬱な夢を見た。そう思って月乃はベッドから身体を起こした。

忌まわしい記憶。可能であれば消してしまいたいような記憶。

「最悪……」

一人誰に言うでもなく呟くと、ベッドから出た。

「何が最悪なんだよ?」

不意に声が聞こえる。声のした方へ目を向けると、亮太がふわふわと浮いていた。

「寝顔、可愛かったぜ」

ニヤニヤと親指を突き立てる亮太を見て、月乃の表情は一瞬で引きつった。

「何でアンタが私の部屋に勝手に入ってんのよっ!!」

無論、すぐに追い出した。



いつもは部屋の入口に結界を張ることによって亮太の侵入を阻止しているのだが、どうも日が経って弱まっていたらしく、最近そこそこ霊力を上げている(度重なる霊との戦闘が原因)亮太に容易く突破されてしまったらしい。

いたのはほんの少しだけらしいので、夜中からずっといた訳ではないらしい。

結界が弱まっていることに気づいたのもついさっきだそうだ。

「結界が弱まってるからって乙女の部屋を覗くなんて……。アンタ人間やめた方が良いわ」

「石仮面を被れと?」

「はぁ?何それ」

通学路を歩きながら月乃はクスリと笑う。

――――亮太のよくわからない冗談で笑いながら登校する。

ここ最近はこういうのが普通だ。

勿論人が多い時とかは気を付けているが、今までつまらないだけだった学校を、登校中だけでも亮太が楽しくさせてくれていることは確かだった。

よく考えれば、大変ではあるものの亮太の存在は少しずつ月乃の人生を変えてくれている。

霊滅師になったことはともかく、月乃にも久しぶりに「友達」と言える存在が出来たような気がしていた。

確認はしない。しなくてもわかってる。月乃は亮太のことを友達だと思っているし、きっと亮太もそう思ってくれている。確認しなくたってわかるから「友達」だと信じれる。

月乃はそれがとても嬉しかった。

そんなことを考えながら亮太と話していると、いつの間にやら学校に到着していた。

「じゃ、俺そろそろ行くわ。今日も時々授業覗くかもなー」

「アンタ今日覗いてばっかりね」

月乃はクスリと笑うと、校門を通り、校舎内へと入って行った。

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