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霊滅師  作者: シクル
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第十五話「紫」

浩太……。ここしばらく両親と一緒に思い出していた弟……。

その弟を、亮太はまじまじと見つめた。

もう二度と会えないと。届かぬものとなってしまったと。そう思っていたのに……。

浩太が、亮太が愛し恋い焦がれた家族が、今目の前にいる。

少し歩いて手を伸ばせば届く距離だ。また昔みたいに頭を撫でてやることだって出来る。

「浩太……」

ふらふらと。浩太の元へ亮太は歩み寄る。

『危ないっ!!』

不意に、月乃の声が亮太の頭に響く。ハッと我に返ると、眼前まで紫色の光の弾が迫って来ていた。

その弾が何なのか、咄嗟にはわからなかったが亮太はすぐにそれを避けた。

「邪魔はさせんぞ……霊滅師。お前で十人目だ」

青年はギロリとこちらを睨んでいる。

『あの弾……霊魂だわ』

「霊魂……? アレがか?」

『ええ。アイツ、何らかの力で霊魂を変質させて使ってるわ……。多分、あの霊魂は一階の浮遊霊の物よ。恐らくあの浮遊霊達はコイツが術を使うための貯えってところね』

「仲間の霊に戦いを任せ、自分は肉体の中でアドバイスか? 今度の霊滅師は随分と情けないな」

青年はそう言うと嫌味ったらしく笑って見せた。

『う、うっさいわね! 関係ないでしょアンタにはっ!』

「お前……今までココに来た霊滅師、全員倒したのか?」

亮太が問うと、青年はニヤリと笑った。

「当然だ。ココに来るのは雑魚ばかりでね……全員、主様の贄とさせてもらったよ」

「……贄?」

「ああ。主様の肉体を蘇らせるには生きた人間の霊魂が必要でね……。ココに来る人間はガキだろうが霊滅師だろうが全員主様に捧げたよ」

そして青年は浩太を一瞥する。

「だがこの少年で終わりだ。この少年を最後に、主様は蘇り再びこの町を手中に入れ、いずれは全ての富を、名声を、地位を、手中に入れるだろう!!」

まるで夢を語る子供のように、青年は声高々に語った。どうやら青年の話から推察するに、そこにいる骸骨……主様とやらは昔この町にいたかなりの権力者なのだろう。

それが何らかの原因で死に、それを蘇らせるために霊化したこの青年が霊魂を集め、捧げていたのだろう。

「浩太を……生贄にするつもりか……?」

ギロリと。亮太が睨むと、青年は「当然だ」と笑った。

「ふざけんなッッ!!」

亮太は抜刀し、鞘を放り投げると青年に向かって斬りかかった。

「ふざけてなどいないさ」

青年の右手に、浮遊霊の霊魂らしき物が集まり、徐々に形を成していく……。

――――槍。

「おおッ!!」

亮太の刀を青年が槍の先で受け、激しい金属音が響いた。

青年は槍を回転させ、刀を弾くと、そのまま柄の部分を亮太の腹部に叩き込んだ。

「がッ―――」

激痛とともに亮太はよろけるが、なんとか持ち直す。

再度斬りかかり、刀で激しく青年の槍と打ち合った。



白髪の少女と先程青年が、刀と槍で打ち合っている。

そんな非現実的な光景を、浩太は見つめていた。

あの白髪の少女は、確かに自分の名を呼んだ。「浩太」と、確かに呟いた。

浩太は、何故彼女が自分の名を知っているかよりも、彼女から感じた懐かしい感覚の方が気になっていた。

知らない相手だというのに、妙に懐かしさを感じた。久しぶりに名前を呼ばれたと感じた。呼ばれるのは初めてだというのに……。

「兄ちゃん……」

無意識の内に、呟いた。あの少女の中に、微かではあるが「兄」を感じた。見た目も、性別すら違うというのに、彼女からは浩太の求め続けた「兄」を感じることが出来た。

知りたい。何故彼女から「兄」を感じたのか、どうしても確かめたい。

本当は怖くてすぐにでも逃げ出したかったが、それを確かめるまでは絶対に逃げる訳にはいかなかった。



「フンッ!!」

打ち合う最中、青年の手から紫色の弾が発射される。

刀で槍を受けるのに精一杯だったため、それを避けきることが出来ず、亮太の右肩に直撃する。

その衝撃で、亮太は後ろに吹っ飛ばされる。

倒れ、激しく痛む右肩を押さえながらよろよろと立ち上がる。

「痛みと憎しみの籠った霊魂の弾丸は痛かろう……!」

青年はニヤリと笑い、余裕の表情でこちらに歩み寄る。

『大丈夫っ!?』

「ちょい……ヤバ……」

青年が亮太に向かって右手をかざすと、その手に紫色の弾が形成される。

「止め……といこうか」

その弾は先程よりも一回り巨大だった。それが直撃した時の威力を考えると気が遠くなりそうだ。

「贄にするのは、別に君の魂でも構わないしな」



青年が徐々に少女の方へと歩み寄って行く。

その手には先程の弾よりも凶悪そうな弾が形成されていた。

――――殺される。

あの少女は殺されてしまう。「兄」を感じるあの少女はあの青年によって殺されてしまう。

少女の痛がり方を見るに、あの弾はかなりの威力だ。そんな威力の弾よりも巨大な弾を喰らえばひとたまりもないだろう。

助けなくては。

自分を助けに来てくれたあの少女を、何とかして助けなくては……。

だが浩太に戦う力はない。

せめて、せめてあの弾だけでも防げれば……。

「覚悟は出来たかい?」

弾が、発射される……。その瞬間だった。

浩太は咄嗟に駆け出し、青年の足元へ突進した。

ドン!と鈍い音がして、青年がよろめく。

「兄ちゃんッ!!」

何故か、浩太は兄を呼んだ。

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