第十四話「再会」
暗い、奇妙な部屋だった。暗闇のせいでほとんど周りが見えない。
懐中電灯やリュックサックはうっかり先程の部屋に置いてきてしまった。
「あの、懐中電灯とか忘れたんで取りに戻っても良いですか?」
浩太が隣にいるであろう青年に問う。
「ダメだ。必要ないからね。それに、すぐに明るくなる」
そう言うと、青年はパチンと指を鳴らした。
「え……?」
床が。床が光り始めている。
薄らと、少しずつ。床が青白く光り始めている。
しかも床全体が光っているのではなく、床に描かれた巨大な何かが光っているのだ。
円。床に描かれた円の中に様々な奇妙な模様が描かれている。
浩太が漫画で見たような……そう、「魔方陣」だ。一言で簡潔に表すならばその言葉が最適である。
そして部屋の中心であり、描かれた「魔方陣」の中心に、椅子が置いてあった。
誰か座っているらしい。きっとその人が青年が会わせたいと言っていた人物だろう。
床の青白い光を頼りに、懸命に目を凝らしてソレを見る。
「―――――ッ」
絶句。
浩太は声を上げることすら出来なかった。
「主様、連れて参りました」
隣で青年が跪く。
座っていたのは……椅子に座っているソレは―――――
骸骨だった。
「……減ったな」
『何がよ?』
「気づいてないのか? 二階に入った途端、浮遊霊の数が減ったんだよ」
月乃の問いに、亮太は半分呆れたように答えた。
一階には鬱陶しい程に大量の浮遊霊がいたのだが、二階に入った途端に数が減った。
減った……というよりは、いなくなった。
部屋を探索しながら辺りを見回してみたものの、浮遊霊は見当たらなかった。
探知機の範囲は狭いらしく、二階に上がった途端に全く反応しなくなった。
これでこの探知機が安物だと言うことと、二階には本当に霊がいないということがわかった。
『そうね……。でも、二階に霊がいないってことは目標はやっぱり一階なのかしら……?』
「いや、この探知機の範囲って驚く程狭いみたいだからな……。二階のどこかに隠し部屋とかがあって、この位置からじゃ探知出来ないんじゃないのか?」
そう言って、亮太は探索を続ける。
一部屋、二部屋、三部屋。幾つも回ったが、探知機が反応することはなかった。
「むしろ壊れてんじゃね?」
亮太が探知機を振り回しながら言うと、月乃の怒声が飛んだ。
『そんな訳ないでしょ!! っていうか買ったばっかなのに壊れられたら堪ったモンじゃないわよっ!!』
「いや、俺にキレられてもな……」
亮太は探知機を振り回すのをやめ、二階の奥の方へ進んで行く。
「後二、三部屋ってとこか……」
亮太はそう呟くと、その部屋のガチャリとドアを開けた。
『反応……してないわね』
「いや、よく見ろ」
微かではあるが、探知機は揺れていた。注意して見なければわからない程の揺れだ。
『あそこにあるのって……懐中電灯じゃない?』
「本当だ……しかもまだ新しい」
電源こそ切られているものの、この部屋のベッドの上に置かれているそれは懐中電灯に間違いなかった。近づいて手に取ってみると、まったく埃を被ってないことに気がついた。
『もしかして、私達以外に人がいたの……?』
「……らしいな」
亮太は呟き、懐中電灯をまじまじと眺める。
――――見たことがある。
どこかで見たことのある懐中電灯だ。
昔とかじゃない。結構最近の記憶だ。
家にあった懐中電灯が壊れて、災害対策用に父が買ってきた新しい懐中電灯……。
『どうかしたの?』
「いや、何でもない」
まさか……な。
亮太はゆっくりと、懐中電灯をベッドの上に戻した。
偶然だ。こんな懐中電灯、誰でも手に入れることが出来る。
「このリュックサック……」
次に、亮太は懐中電灯の隣に置いてあったリュックサックを手に取る。
これもまた見たことのあるリュックサックだ。
そう、これは確か……。弟が持っていた……。
『ちょっと、さっきからどうしたのよ?』
偶然だ。偶然に違いない。
亮太は必死で自分に言い聞かせる。
『ねえ、聞いてる?』
「ん……あ、ああ。悪い」
亮太はぎこちなく応えると、リュックサックをベッドの上に戻した。
『とりあえず探しましょう。この部屋のどこかにいるハズよ』
「ああ……」
また震え始めている。
折角青年に会ってから治まっていたと思っていたのに。
浩太はまたしてもブルブルと震えていた。
恐怖による震え……。が、屋敷に入りたての時の震えとは少し違う。
今浩太が震えているのは霊がいるかも知れないという震え、しかし今は何をされるかわからないという震え。
何故なら、青年から先程までの温和な雰囲気が消えていたからだ。
「何をする……気ですか?」
何もしないよ。そう言って優しく青年が微笑むことを期待して問う。
「君の魂を主様に捧げる」
期待は容易く裏切られた。青年は眉一つ動かさずに浩太に告げた。
「恐らく君の魂が最後だ。これで、主様の肉体は蘇る……!!」
『多分、ココだわ』
亮太はそっと壁に触れる。この壁だけ、違和感がある。
それに、中から薄らと青白い光が漏れている。
『どうやって開ける?』
「……。強行突破で行くぞ」
そう言うと、亮太は一歩退いた。
『アンタまさか……』
「そらッ!」
勢いよく壁を蹴ると、激しい音と同時に壁がその部分だけ倒れ、その先の部屋が見える。
「……誰だ?」
中にいたのはスーツ姿の青年と、小さな少年、そして椅子に座った骸骨だった。
床には巨大な魔方陣のようなものが描かれており、それが青白く光っていた。
漏れていた光はこれだろう。
『が、骸骨……っ』
「今更そんなので驚くなよな……」
亮太が呆れて溜息を吐く。
「た、助けて……っ!」
青年と一緒にいた少年が、こちらを見て助けを求める。と、同時に亮太は声を失った。
「なん―――で」
『亮太……?』
亮太は少年を見つめ、唖然としている。
「…………浩太」
ボソリと。亮太は弟の名を呼んだ。