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霊滅師  作者: シクル
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第十三話「青年」

ギシギシと床の軋む音が、浩太をより一層恐怖させた。

聞こえるのは床の軋む音のみ。その他一切は無音。

孤独、無音、暗闇。幼い浩太を恐怖させるには十分過ぎる材料が揃っているというのに、加えて霊の存在。

怯えながらも浩太は、唯一の明かりである懐中電灯で前を照らし、進んだ。

今浩太がいるのは人喰い屋敷の二階。恐怖のあまり、一階はあまり探索しないまま二階まで駆け上ってしまったのだ。

「君……」

ビクリと。突如聞こえた声に浩太は肩を動かした。

霊……なのだろうか?いや、霊にしては口調が温和だ。

ポンと。浩太の肩に手が置かれる。

「こんな所で何をしているんだい?」

恐る恐る振り返ると、浩太の背後にはスーツを着た優しそうな青年が立っていた。

「危ないじゃないか。夜中にこんな所で君みたいな子がうろうろしてるなんて」

「あ、はい。すみません」

この青年は、霊ではない。浩太はそう認識すると、ホッと胸を撫で下ろした。

「まあ良い。折角来たんだ、こっちにおいで」

優しそうな青年の声に、すっかり安心しきった浩太はコクリと頷くと青年の後を付いて行った。



「ふ、浮遊霊だらけ……ね」

屋敷に入るやいなや月乃は震えながら呟いた。

しかしそう呟くのも無理はない。何故なら屋敷の中には大量の浮遊霊がいたからだ。

簡単に数えても二十、三十くらいはいるだろう。

『俺はともかく、お前大丈夫か?』

亮太は一応問うてみたが、感覚を共有しているが故に伝わる月乃自身の震えが、大丈夫ではないことを伝えていた。

「だ、だだ……大丈夫……っ!」

『絶対大丈夫じゃないな』

ふと月乃が手に持っていた霊探知機を見ると、左右に、前後に、凄まじい勢いで揺れていた。

『安物って聞いた時は心配したが……ちゃんと反応してるみた……ん?』

あ、ヤバい。と、亮太は直感的に感じ取った。

月乃の意識が途切れそうだ。

「我慢……我慢よ月乃……」

恐怖にブルブルと震えながら月乃はボソボソと呟いていた。

『……ダメだなこりゃ。代われ』

「え――――」

次の瞬間、月乃は身体の自由が自由が利かなくなった。

主導権が亮太へと交代した証拠だろう。

『ちょっと! 勝手に代わんないでよ!』

「代わんなきゃお前気絶してただろ。ほら、行くぞ」

亮太は月乃を適当にあしらうと、屋敷の中を歩き始めた。



「ココに座って」

青年に促されるまま、浩太はその部屋のベッドへ腰かけた。

ベッドはミシリと音を立てたが、浩太は気にせずに腰かけた。

青年に案内されたのは二階の奥の部屋だった。

当然のごとく、掃除などされておらず、壁は剥がれかけ、机や椅子は埃に塗れていた。

無論、浩太の腰かけているベッドも埃塗れである。

「どうしてココに来たんだい?」

と、青年が不意に問うと、浩太は黙り込んでしまった。

霊に会いに来た……などとは言えない。が、他に理由もない。

「えっと……」

良い言い訳が思いつかない。

「いや、言いたくないなら良いよ。聞いてごめんね」

青年が優しく微笑むと、浩太は安堵の溜息を吐いた。

浩太はリュックサックから水筒を取り出すと、中に入れていたお茶をゴクゴクと飲んだ。

冷たいお茶が一気に流れ込み、カラカラになっていた喉を潤した。

「すまないね。この屋敷、こんなだから気の利いた物も出せなくて……」

「いえ、こちらこそ勝手に入っちゃってすみません」

浩太は、申し訳なさそうな青年に頭を下げた。

「いや、それは構わないよ。むしろ歓迎だ」

……歓迎?

少し気にかかる。

「お兄さんは、この屋敷の人?」

浩太が問うと、青年はコクリと頷いた。

「そうだよ。ずっと前から僕はこの屋敷の人さ」

ずっと前から……?

何故だろう。先程からこの青年の言葉には気にかかることがある。

「この部屋の奥へ一緒に来ないかい? 君に会わせたい人がいるんだ」

人……。この青年と自分以外にまだ人がいるのか……。

浩太が立ち上がりコクリと頷くと、青年は嬉しそうに微笑んだ。

「さ、こっちだ」

青年は浩太に背を向け、部屋の奥へと進んで行った。

浩太はその後ろを付いて行く。青年がニヤリと笑ったことに気づかずに……。



ガチャリと。一階最後の部屋のドアを亮太は閉めた。

どうやらこの階には目的の霊はいないらしい。

いや、それともこの大量の浮遊霊の殲滅が本来の目的なのだろうか……。

「この探知機ってさ、霊の強さとかわかるのか?」

『安物だから……無理。高いやつはスカ○ターみたいなやつで、戦闘力や危険度も出るらしいけど……』

「ホントに安物だな」

『高いのなんか買えないわよ。それに、私は気絶さえしなきゃ霊の強さなんてすぐわかるんだから』

それもそうだ。と、亮太は納得する。

『見つけたら言ってあげるから、上に行きましょう』

「ああ」

月乃に促され、亮太は二階への階段を上った。

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