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霊滅師  作者: シクル
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第十話「消滅」

しばしの沈黙……。

亮太は真っ直ぐに吉柳を睨みつけていた。

「……来ないのかい?」

嘲るように。吉柳は亮太に問うた。

「言われなくても行ってやるよッ!」

刀を構え直し、亮太は吉柳の方へ駆けだした。

すかさず吉柳は亮太の頭に向けてメスを飛ばす。

亮太は頭をそらせてメスを避けると、吉柳に斬りかかった。

吉柳は即座に白衣のポケットからメスを取り出し、逆手で持つと、刀をそれで受けた。

金属と金属が激しくぶつかる音が響いた。

『メスで受けるなんて……!』

「僕のメスは丈夫でね……」

吉柳がニヤリと笑う。

「余裕ぶっこいてんじゃ……」

亮太は素早く刀を吉柳のメスから離し、一歩退き

「ねえッ!!」

右足を思い切り突き出した。

吉柳は顔色を変えずにその足をメスを持っていない方の手で受ける。

「刺すよ、良いね?」

「な――――ッ」

吉柳の問いに答える間もなく、亮太の右肩にズブリとメスが突き刺さる。

「ぐ……ッ」

激痛で、亮太は右肩を押さえながらその場に崩れた。

『うっ……!!』

感覚を共有しているからだろう。月乃も呻き声を上げた。

「やはりあの巫女の相手をした方が良かったかな……?」



八、九、十。

「十一っ!!」

大鎌を一振り。目の前のつぎはぎ少女が両断される。

「詩祢さん……! 数えてる余裕なんてないですよっ!」

詩祢の後ろで菊は鞘でつぎはぎ少女を殴打する。

「それもそうね……。十四!」

と言いつつも詩祢は数えながらつぎはぎ少女を大鎌で切り裂く。

「それにしても……キリがないですね……っ!!」

「ええ。これだけの人数を殺してきたって訳ね……」

「うわ、折角考えないようにしてたこと思い出させないで下さいよ……」

先程から何人も何人も倒しているハズなのに、減る気配がない。

それどころか増えているような錯覚さえ覚える。

「なるほど……ね」

ポツリと。不意に詩祢が呟くと、菊は背後でつぎはぎ少女を殴打しながら怪訝そうな顔をした。

「どうかしたんですか?」

「減らない理由。わかったわ」

「ホントですか!?」

「ええ。さっきから私達、同じ霊を相手にしてるわ」

「同じ霊……。確かに大まかな特徴は一緒ですけど」

鞘で殴打しつつ、菊はつぎはぎ少女をまじまじと見る。

「倒した数を数えていたのは霊の種類を確認するため……。実質ココには十七人しかいないわ」

「十七人……?だったらもう全滅してるんじゃ……」

「コイツら、倒せないのよ」

「倒せない……!?」

「十七人の霊を何度も何度も相手してる……。コレは本体の吉柳を倒さないとどうしようもないわね……」

大鎌を振り、目の前の霊を一掃する。

「つまり、頼みの綱は亮太君達ってことですか……」

菊は、心配そうに呟いた。



「……ぐッ!」

慎重に、肩に刺されたメスを抜き取る。

ドクドクと血が流れ、服が制服が赤く染まる。

「悪い……クリーニング出さなきゃだな……」

『そういう問題じゃ……ないでしょ!』

亮太はメスを適当に放ると、ゆっくりと立ち上がった。

「まだ元気そうだな」

吉柳がニヤリと笑い、ポケットからメスを取り出す。

一体何本入っているというのだろう。

亮太はギロリと吉柳を睨むと、再度斬りかかった。

すかさず吉柳はメスで刀を受ける。

「まだまだァッ!!」

何度も何度も。様々な方向から刀で斬りかかる。が、全て吉柳のメスさばきの前では無意味だった。

『メスだけで全て防いでる……!?』

決して亮太が遅い訳ではない。吉柳のメスが早過ぎるのだ。

早い上に、苛立ちを覚える程に華麗であった。

「当たらない……!」

亮太は刀を振るのをやめ、一歩退く。

「諦めたか?」

「誰が諦めるかよ」

亮太は背後の戸棚から薬瓶を適当に取ると、吉柳に向かって投げつけた。

「ッ!?」

慌てて吉柳は薬瓶を避ける。が、その瞬間を亮太は見逃さなかった。

素早く吉柳の懐に飛び込み、刀を思い切り突き刺した。

霊とはいえ、人間を思い切り突き刺した感覚―――――

それも先程まで会話を交わしていたような相手だ。

気分の良いものではない。

「が―――ッ」

吉柳が呻く。と、ほぼ同時にドアが開き、詩祢と菊が準備室へと戻って来た。

「奴らの動きが止まったわ……。ご苦労様、二人共」

「貴様ァ……」

吉柳がギロリと詩祢を睨む。

「まだ消えてないのね……。亮太君、そのまま動き止めておいてくれる?」

「お、おう」

詩祢は「ありがとう」と呟くと、右の人差し指を自分の右眉に当て、目を閉じた。

「何をする気だ……!?」

「手っ取り早く消えてもらうのよ。貴方に」

スッと。人差し指が右眉から右頬まで降ろされた。

「ぐ……っ」

詩祢は小さく呻くと、目を開けた。

「亮太君。良いって言うまで私を見ちゃダメよ!!」

どういうことだろう?

亮太は疑問に思ったが、慌てて指示に従い、首を詩祢とは反対方向に向ける。

「その眼……ッ!!」

唯一、詩祢を直視していた吉柳が突如苦しみ始める。

「大人しく……消えなさい……!!」

詩祢の方も相当苦しそうだ。

「がァァァァッッ!!」

吉柳が雄叫びを上げる。

徐々に吉柳の身体が消え始める。

「僕が……消える……ッ!!」

その言葉を最後に、吉柳は完全に消えた。

刀を突き刺していた感覚が、亮太の手から消えた。

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