第4話 神代魔法
ゲームでのカーミラは、終盤まで頻繁に登場する。何かにつけては、勇者と絡み、戦闘をする、ちょっと気になる敵役だった。
人間の姿で登場するのは、かなり最後の方だ。
目的は、今のあたしと同じ筈だから、人間世界を知ることで、彼女は、悟ったのだろう。
人は異質を恐れ、決して、受け入れようとしないということを……。
人間の姿になった彼女は、勇者と直ぐに仲良くなる。それは、恋仲になる寸前までいった。
なぜ、恋仲にならなかったのか?
危機に落ちた勇者を、彼女は、助けてしまったからだ。本来の姿で、吸血鬼の真祖、カーミラの力を使ってしまった。
瀕死の勇者は、彼女を殺してしまう。延々と戦って来た、宿敵だ。その時は、反射的に身体が動いたのだろう。そして、彼は彼女を、殺すことが出来た。
一つは、その頃の勇者は、太陽の剣を装備していたこと。
そして、最大の理由は、彼女が彼に、抵抗をしなかったからだ。彼女の心情は、言葉では語られていなかったが、表情は、とても悲しそうだったと記憶にある。
彼女は最後に、
「敵では無い、魔族もいると知って欲しい」
という言葉を残し、塵になった。
消えゆく彼女に、勇者は、やっと、正体に気付く。
そして……。
これが、あたしが知る大筋になる。
重要なのは、勇者が、人間の姿のあたしなら、鉄板で惚れるということだ。
あたしが、では無い。
アイツが、あたしに、間違いなく惚れるという事実。
ここ重要!
古今東西、惚れたら負けなのだ。
あたしは、アイツなんか興味ないから、惚れることはない! ゼッタイ!!
アイツの居所は、バレバレだ。今すぐ、部屋に乗り込んで、惚れさせてやっても良いが、手ぶらでは具合が、悪い。
確か、仲間が居たはず。女魔法使いと、女剣士、そして、お姫さま、女ばっかし、なんて破廉恥な奴。
いや、男も二人いたか……。
まあ、仲間の目もあるから、体裁は整えないといけない。
見舞いが丁度、良いだろう。
魔人を二人、倒して、そこそこ、アイツは有名になっている。だから、面識のない、初対面の女の子が見舞いに行っても、大丈夫!
中庭で、花でも摘んで……。
物色をしていると、花壇には、手頃な花が咲いていた。
でも……。
「あら、さっきから、あなた、花壇の前で何してるの? もしかして、花を摘むのが、可哀想?」
ニヤニヤした、女が話しかけてきた。
美人だけど、ムカつく!
なによ、腕組みなんかしちゃって、その下品で大きな胸を強調してるつもりなの!
「あら、顔が赤いわよ、図星だった」
「あなた、誰よ!」
何様よ!
「あら、わたしは、大魔道士サラダーの娘、リズリットよ。あなた、お名前は、お嬢さま」
最後の方が、挑戦的なイントネーションになってるし……揶揄ってるつもりなのかしら?
それにしても、ぷぷぷ、サラダーって何よ!
ベジタリアンなの?
「あたしは、カーミラよ。それに、花は、摘む必要はないの、大魔道士のお嬢様」
ゆっくりと、聞き取りやすく言ってやった。
彼女がこちらへと、歩いてくる。
な、な、何よ、やる気なの……。
花壇の石を拾う。
魔法で花束を創造した。
真っ赤な花がとても綺麗で、豪華な花束。
アイツは、きっと涙を流しながら、喜ぶに違いない。
女魔法使い、リズリットは、顔面が蒼白になった。
「ほら、花を摘む必要は、無いでしょ!」
「いや、そんな、ことでは、ないわ」
違うらしい。
なら……。
あらあら、もしかして、勇者が、あたしに惚れちゃうのが、心配なのね!
リズリットが小声でブツブツと言い出した。
「無機質から、有機物を創造だなんて、そんなの、神代のクリエイト魔法じゃないの!」
えーい、田舎者の魔法使いは、これだから困るわ!
神代だなんて、大袈裟でしょっ!!
お父さまなら、石ころから、ドラゴンを創造しちゃうわよっ!
このバカ、田舎者っ!
「お、お嬢さま!!」
セバス爺が慌てて、駆けつけて来る。
そう、セバス爺からも、この田舎娘に、魔法とは何かを、基礎からゆっくりと、話をしてもらいましょう!
「お嬢さま、人前では、そのようなことを、なさっては、いけません」
「大したことは、してません!」
なんで、あたしが、叱られるのよ!
断固抗議よ!
「お嬢さま、そんなに、お顔を膨らませ、あそばせないで下さい」
セバス爺の、柔和な笑みは、そこら辺の、ご婦人方なら、イチコロだろう。
あたしですら、見惚れてしまう。
「これは、どういうことか?」
女魔法使い、リズリットが、真っ直ぐに、セバス爺を見つめる。
これは、一人、ライバルが脱落したかも知れないわ!
「お騒がせして、申し訳ございません」
セバス爺は、ゆっくりと頭を下げ、シルクハットを外す。そこから、ポロッポ、ポロッポと、平和の象徴である白鳩が、元気に飛び出し、大空へと消えていく。
女魔法使いは、大笑い。
「そうか、手品だったか!」
「そうで、ございます。お嬢さまほどの、腕ではございませんが、楽しんで、頂ければ、幸いです」
何よ、それ!
いつ、仕込んだのよ! って、あたしか!!
それにしても、セバス、あんた、リズリットの胸を見過ぎじゃない?
女魔法使いの、機嫌はとても、良さそうに見えた。