第3話 町
セバス爺が、一言、二言、門番と言葉を交わすと、町の検問は、あっさり突破できちゃった。
深々とお辞儀をしている兵士たち。
レディーファーストだろうか、町娘のあたしに、なんて礼儀正しい、感心、感心。
やっぱり、お父さまの仰る通り、この世界の人間の心は、綺麗らしい。勇者とかいう、礼儀知らずの愚か者も、早く見習って欲しい。
それにしても、アイツの名前、なんて言うのかしら、別に興味ないけど……。
「お嬢様、カーミラお嬢様!」
「は、はい」
「何を、ボウーッとして、おいでですか?」
「ボウッとなんて、キャッ!」
バタンと道端で、こけてしまった。恥ずかしい……。それにしても、ロープ?
「お嬢様になんてことを! この、くそガキ!」
ま、ままずい、セバス爺は、怒ると見境が無くなっちゃう!
「爺、爺、セバス爺、落ち着いて頂戴。あたしなら大丈夫よ。可愛い子供たちじゃない」
くそガキ、もとい、お坊ちゃんたちを見ようとすると、彼らは、路地へと姿を隠してしまう。
なんて、逃げ足の速い、くそガキ、いや、お坊ちゃまたち!
「しかし、真祖であり、魔族でも地位の高い、お嬢様への不届きは……」
「忘れたの、人間と戦っては、お父さまに叱られるわよ!」
口をキュッとつぐみ、スカートに付いた、砂をパンパンとはたく。
パンツは、多分、見えてないから、きっとセーフよ!
そう、セーフ!
セバス爺も、納得してくれた様子。
さっきの男の子たちの気配が、付いてくるけど、無視よ。無視!
だって、文句を言おうにも、振り返ると隠れちゃっうから、出来ないんだもん。
「聖堂に、何か御用ですか?」
目的地へ、入ろうとすると神父が通せんぼしてきた。
もう、邪魔!
「あたしたち、親子の祈りを邪魔する権利があるのかしら? ねえ、セバス爺」
「あっ、お嬢さま、あの、そこで……」
「祈りは、妨げません。しかし、親子?」
神父の目は、怪しい物を見るかのようだ。
流石は、神に仕えるもの。信仰心の厚い、神の僕。
まさか、正体を見破った。
あたしたち、吸血鬼は、神敵に違いない。
「お嬢さまは、お祈りへ。説明は、私に、お任せ下さい」
「でも……」
セバス爺に、任せたら、神父さんを、殺しちゃうかも……。
「いいえ、お嬢さまは、早く、お父さまの言いつけを、お守り下さい」
なんか、引っかかる言い方だけど、神父さんは、笑っている。
「セバス爺、乱暴はダメよ」
ちょっと心配だけど、この場を立ち去る。
背中から聞こえるセバス爺の声で、納得した。
どうやら、親子設定に無理があったらしい、テヘ。でも、こんな服装じゃあ、身分の高いお嬢様には、見えないじゃないかしら……。
聖堂に入る。気配を探る。
直ぐに、アイツのいる場所がわかった。