第2話 いざ、出発!
セバス爺の変身は、あっさりと、上手に出来ていて残念。どこから、どう見ても、シルクハットと燕尾服が良く似合う、完璧な執事に仕上がっている。
聞けば、元人間らしい。つまらないわ!
「お嬢様も、可愛らしいですよ」
美しいとは言ってくれない。
それにしても、勇者を籠絡することを考えると完璧かも知れない。
服装は白を基調にしてみた。
清純派は白だからねっ。
それに、スカート丈で冒険もしている。
なんと、膝下丈だ。キャッ!
記憶にある、この世界の人間は、丈の長いスカートばかり。たしか足首を隠すぐらいの長い丈。
脚のシルエットには自信があるのだ。
ふっふーんっ!
玄関を出る。清々しい、濃い霧が別荘を覆っていた。
「気持ちいい、朝ねっ」
つばの長い帽子を被る。陽の光を浴びたからといって塵にはならないけど、熱いのは嫌い。
「さて、アイツは何処に居るのかしら」
「町の聖堂にいるそうですよ」
セバス爺に、コウモリが耳打ちをしている。
それは、彼の肩でちょこんと一休み中。
もう、バカ、コウモリは、ダメよ!
まさか、そのまま、町へ行く気、目立っちゃうじゃない!
「セバス爺、コウモリはダメよ! あたしたちは、普通の人間の親子なのよ!」
「はあ、しかし、お嬢様……」
セバス爺がシユンとしてしまった。
「そんな、いいのよ。爺は、ちゃんと調べてくれたんだから」
今度は、コウモリの方が、申し訳なさそうにしている。黒くて、愛想ない顔が、とっても可愛いけど、やっぱ、コウモリは、町へは連れて行けないわよね。
でも、置いていくのは、可哀想……。
「お嬢様、これは?」
「それは、鳩よ」
しかも白、平和の象徴へと、コウモリを魔法で変えちゃった。
「しかし、これでは……、目立ってしまいます」
えっ、なんで、鳩なんて、神社に一杯いるじゃない!
でも、セバス爺は、不満そう。鳩はといえば、一緒に行けると喜んでポロッポと鳴いていた。
「もう、だったら、そのシルクハットに隠しなさいよ」
「畏まりました、お嬢様」
鳩は、セバス爺のシルクハットへ格納し、準備万端!
それでは、町へと参りましょう!
別荘を隠して守る、霧の結界を抜けて、しばらく、町へとけもの道を進むと、簡単に着いた。
この辺りに、大した魔物はいなかった。
途中、大きなトカゲに出会ったぐらい……。つまらないわっ!
ゲームでいえば、中盤に差し掛かる手前。勇者が二人目のボスキャラを倒した辺りだ。弱い魔物ばかりなのも仕方ないかも、しれない。強敵と言えば、魔王の部屋を守る、あの二人ぐらいね……。
それでも、勇者の名は、魔界で噂になりつつあった。
只者ではない人間がいるらしい。それは伝説の勇者かも知れないと……。
そんな、アイツの鼻っ柱をへし折る、いや、仲良くならないと!
あっ、でも……、
「意外に、元気なのね」
昨日、半殺しにしたのに、聖堂だなんて……、てっきり入院してるのかと……。
セバス爺のシルクハットから、ポロッポ、ポロッポと鳩の鳴き声。神妙な表情で、セバス爺は頷いている。
「カーミラお嬢様、どうやら、勇者殿は、大怪我をしているらしいです。どこの馬鹿が、お嬢様の勇者殿に手を出したのか、お調べしましょうか?」
「い、いえ、別にいいわ。だって、戦争中よ。罪は、ないわ。それに、バカは言い過ぎよ。反省なさい」
「し、しかし、お嬢様の勇者殿に、手を出すとは!」
えっ、あの礼儀知らずのバカが、あたしの? な、なんてことを、何を言ってるの!
怒りで顔が熱くなる!!
もうっ、セバスの大バカ!! 恥知らず!
「セバス! 勘違いしないでよね、勇者なんて、利用するだけなのよ!」